絵師と絵師と絵師

第1話 絵師トリオ集結

 時間は飛んで、夏休み後半。前半に遊び惚けていた響が悲鳴を上げながら宿題をしていた頃。夏休みが始まって一週間で全ての宿題を終わらせた双葉は、文芸部員の中でも中学時代も同級生だった二人と『FMB』で遊ぶこととなっている。

 と、言うのも。基本二人行動をしている彼女らが珍しく双葉も誘ってきたのだ。その誘いに乗り、そふかは現在、教えられたプレイヤーネームを探している。


 プレイヤーネーム:番長


 プレイヤーネーム:バッグ・クロージャー


 二人とも、そふかがキャラメイクしたアバターそのままの姿をしていた。


 番長は、薄い紫の長髪と獣のように伸びた爪に、黄緑と水色のオッドアイ。中性的な見た目で女か男か分からず、男女兼用のチャイナ服を着ており、機動力を上げるため装飾は少ない。性別に関しては、本人は部長と副部長に口止めされているため言えず、知ってる部長と副部長は黙秘を続けている。どこぞの部長は、「性別不明のキャラっていいよね!!!」と満面の笑みで言い放った。

 だぼついた袖のため手が隠れるようになっており、袖口から爪が飛び出て見えた。今のように、街にいるときは裏地に龍虎があしらわれている長ランを羽織っている。


 バッグ・クロージャーは、薄い黄緑色の髪と瞳をしている高身長巨乳美女だ。本来手のひらサイズの妖精だが、<巨大化>というスキルを使って、現在は普通の人間と同じようなサイズ感になっていた。響としてはゲーム内でも低身長の貧乳にしたかったが、マジ泣きされたので流石に希望通りにしてあげた。

 服装は、踊り子のような藤色の民族衣装。ひらひらとした薄手の布で、温暖な王国だからこそできる恰好だろう。ちなみに、<巨大化>は服ごと大きくなるらしい。


 目当てのプレイヤーと目が合ったそふかは二人に駆け寄り——、


「「力を貸してください、そふか様ぁ!」」


 土下座された。


 ちなみに、ここ。伯爵が納める王国領の中心地であり、白い大理石で作られた女神像がある大きな噴水という待ち合わせ場所として有名なところである。


 要するに、めっちゃ注目を浴びている。


 そんなこんなで、同級生二人を路地裏に連れ込んだそふかは、正座させた二人を見下ろした。


「初手土下座の理由を聞こう」

「人攫いばりの手際のよさだったね」

「多分どっかでスレ立てられてるよ」

「話も聞かずに立ち去ってやろうか?」

「「ごめんなさい」」


 素早い土下座は躾の賜物である。「本題に入れ」と促し、それに頷いた番長とバッグ・クロージャーは説明を始めた。






「……大体の事情は把握した」


 そふかはこめかみを片手でぐりぐりと押した。“頭が痛い”のポーズである。


「簡潔にまとめるぞ。

 お前らは『FMB』内——正確には王国のここ、伯爵領で行われる絵描きのイベントに参加する予定だった。が、ゲーム内で知り合った他の画家が急遽リアルの事情で来れなくなった。大会参加の条件は三名であること。しかしそこらにいるよく分からんやつを誘うわけにもいかず途方に暮れていると、俺が今日空いてることを知った。んで、これ幸いと大会本部に参加者変更の申請を出し、今に至る、と。

 ……何か言うことは?」

「事後報告になってすまん」

「事情説明を先にしなくてごめんなさい」

「殺すぞ?」

「「許してください」」


 路地裏で美人二人が土下座するという、見つかれば確実に通報されるであろう光景が繰り広げられた。絵面が酷い。


「てか、俺画家の職業ジョブ持ってねぇけど」

「別にジョブは必須条件じゃないから大丈夫だよ。趣味程度の人も参加するみたいだし、参加費さえ払えば誰でもOK」

「……その参加費は?」

「もちろんこちらで払わせていただきます」


 土下座状態のまま、そふかには一切の負担を背負わせないことを宣言する番長。バッグ・クロージャーもコクコクと頷いて同意する。頼んでいる側なので当然と言えば当然だが、ここで友情によるゴリ押しをしないところが二人——もとい、文芸部員を好ましく思っている理由だった。ネタとガチの線引きがしっかりされているのである。なお、どこぞの傲岸不遜な後輩は別とする。


「……………はぁ。まぁ、俺もそろそろ絵描きたかったし、別にいいよ」

「流石そふか! 信じてたぜ☆」「そふかならやってくれると思ったよ」

「急に元気になったな」


 先程のしおらしさは見る影もなくなった。

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