第4話 魔王は笑う、勇者は嗤う

「うわぁ! もったいない~~~!!!」

「しょうがないとはいえね……これはちょっとねぇ……。あぁ! 今の<束縛>の魔眼! クッソ……、惜しいことしたぁ……!」


 襲い掛かってくる化け物たちを潰し、殴り、蹴り、斬り、殺し、二人はどこかズレたことを言った。


 戦いの最中さなかにも関わらず暢気な二人だが、そこまで余裕はなかった。


 四方八方から常に魔眼に見つめられている影響で、数々のデバフを背負っている。スリップダメージやステータスの減少、眼球収集家アイ・コレクターが石になったように、石化などの身体に直接干渉する魔眼もある。今はポーションやデバフ解除のアイテムを駆使しているが、全く動けなくなるのも時間の問題である。

 魔眼は実体のあるなしに関係なく、影響を及ぼす。<実体化>を解けばいいという簡単な話ではなく、仮に<実体化>を解いたとしてもうーめんとの連携ができなくなる。


「蜉ゥ縺代※縲∝勧縺代※」

「あぁもう! うるせぇ、めんどくせぇ!!!」


 右足での回し蹴りから繋げ、左足での後ろ回し蹴り。そのまま踏み付け、別の化け物を首を絞める。

 両手が塞がった。好機とばかりにまた別の化け物が襲い掛かる。


 目が覗く首を嚙み千切り、咀嚼し、そして——ごくんと、飲み込んだ。


「あーまっず! 私はカニバじゃねぇってのにさぁ!」

「八宝菜」

「何ー?」


 八宝菜は殴打の猛攻の中、ちらとうーめんを見る。


「——アレが、人間?」

「……それもそうだねぇ! あっはっはっははっはっはははは!!!!!」


 うーめんの嘲笑に満面の笑みで同意する。気分が高揚したのか、八宝菜は益々機敏な動きになった。






 数分後、アイテムも残り僅かとなってきた。殴りかかってきた人型の化け物を避け、壁の魔眼に聖剣を刺しながら、うーめんは叫ぶ。


「これ! 多分アンデッドの要素も含まれてる!」

「根拠は?!」


 うーめんに殴りかかった人型の頭を握り潰し、八宝菜も叫び返した。


「奥見て!」


 八宝菜が目を凝らすと、そこには先程握りつぶした人型よりも悍ましいナニカがあった。ベースは人間だが欠損部位が多く、生きているかと問われれば、もう死んでいると誰もが答えるほどボロボロで悲惨な光景だった。

 足のない個体はずるずると地を這い、手のない個体は二人に駆け寄り、近づき、少しでも視界に入れるべく眼球を動かしている。首のない個体は力が抜け、ぐったりと地に伏せているにも関わらず、全身の目を見開いて、こちらを見つめていた。


「手足がない……、全身に魔眼……、人外みが強い……。ハッ、閃いた!」

「通報したってかどこに閃く要素あったの???」

「いやー、うーめんも素が出てきてるねぇ! 松原さんに憧れるのもいいけど、そっちの方が私は好きよ!!!」

「頼むから会話を成立させて、あと松原さんの本名出すんじゃねぇ殺すぞ」

「ガチ勢怖……。大丈夫だって! ここ地下室だし、私たちしかいないし、それにこいつらもどうせ名前認識するほどの知能ないやろ!!!」

「その自信はどっから出てくるんだ」

「私は喉から!!!」

「風邪かな???」


 常人であればSANチェック待ったなしの光景でも、キチガイと鬼畜にとっては何の問題もないようである。ふざける余裕はないはずだが、二人とも楽しそうである。


「まー、分かった分かった! 要は、こいつらもう死んでるってことだろ?」

「眼球体中に埋め込まれてまだ生きてるとは考えにくいからね!」


 アンデッドということは、聖剣が有効である。


 うーめんは、鞘からすらりと剣を抜いた。


 それは、白だった。


 まだ何も描いていない白紙のような、何も混ざっていない白の絵の具のような、汚れ一つない白絹のドレスのような。白い、剣身。


 聖剣“白”。


 とある帝国貴族の家宝を助けた礼として強奪、もとい譲り受けた一振り。


 聖剣をうーめんに渡すとき、帝国貴族は言った。


 ——白は全てを受け入れる色。されど、全てを混ぜた色。


「希望の光よ、人々のしるべよ。黄金の弓に矢を番え、引いて放ち空を駆けよ。軌跡を描き、星となりて、大いなる天に一筋の線を。一つ、二つと分かたれて、夜を覆い、白夜と成す。銀を一筆、軌跡を銀河へ。示し、導け。<聖なる矢ホーリーアロー>」


 うーめんは、聖剣に向けて魔法を撃った。


 金色こんじきの矢が、するりと、吸い込まれるように、引き込まれるように、剣の中へと収まった。


 聖剣は、アンデッドを滅する。


 聖剣“白”は、魔法を吸収する。


 <聖魔法>は、聖なる力を持ち——その力は主に、アンデッドを滅するために使われる。


「眠らせてあげるよ」


 神々しく、煌々と、湖光のように白く輝く剣を構えて、


「ほら、目を閉じて……ね?」


 勇者は、にこりと微笑んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る