第3話 鬲皮愍縺悟沂繧∬セシ縺セ繧後◆繝翫ル繧ォ

 塗装が剥げた壊れかけの木の扉を蹴り飛ばして、八宝菜とうーめんは家の中に侵入した。


「お邪魔します」

「マジで邪魔やろなぁ……」


 態々一礼したことから窺えるうーめんの品の良さだが、八宝菜と一緒に扉を壊した時点で、品なんてあってないようなものである。


 荒らされた屋内、崩れ落ちた木材、埃が被った家具、雨漏りで水浸しの床。あらかじめここが隠れ家と聞いていなければ廃墟かと勘違いしたことだろう。


「うっわ、床抜けそう」

「偵察頼んだ」

「鬼畜か???  我、幼女ぞ???」

「本物の幼女はそんなこと言わない」

「それはそう」


 事実、浮けば床が抜ける心配もなく、壁をすり抜けられる幽霊レイスの方が探索向きである。


 仕方なしに<実体化>を解くと、


「え……?」

「ん? どした?」


 何か見つけたのかと思い、八宝菜が後ろを振り返るも、うーめんはあらぬ方向をきょろきょろと見回している。


「いやどうしたよ」

「どこいんの?」

「は? 目の前……。あぁ? 見えてねぇ……のか! そうだ! そうだった!」

「一人で納得しないでくれる?」

「悪ぃ。そういやお前だったな」

「え、何? これ霊感関係あるの?」

「バリバリある」

「マジかぁ……」


 種族:幽霊レイスは<実体化>しない限り、霊感のない者に姿が見えることも、声が聞こえることも、体が触れることもない。


 そふかと行動しているとき、何も支障なかったため、てっきりプレイヤーには反映されていないものだと八宝菜は思っていた。






「他の部屋全部回ったけど何もなかったで。そっちは?」

「ざっと見た限りだと何もないけど……。まぁ、多分ここかな?」


 うーめんが跪き、カーペットを捲ると、そこには厳重な鉄の扉があった。鍵のかかったそれをSTR任せに壊すと、下に空間が広がっていた。梯子もかかっているため、種族:人間ヒューマンのうーめんも下りられそうである。


「地下室の扉……かな?」

「まぁ、どう見てもそうだろうね。地上に眼球を保存するのは、流石にリスキーすぎるでしょ。色々と」

「それやったら“発見してください!”っつってるようなもんよ」

「そのまま処分ルート直行だねぇ」

「もったいないなぁ……」

「そう思うの少数派だと思う」

「うーめんは?」

「もったいないなぁって思う」

「草」


 灯りのない地下空間に怖気づくこともなく、むしろ若干楽しそうに下りていく二人。


「八宝菜ってホラー苦手じゃなかったっけ?」

「ホラーが苦手っつーかビビりで怖い妄想しがちなだけで、実際こういう雰囲気に遭遇すると逆に吹っ切れる」

「グロ強めのホラゲー爆笑しながらやったもんね」

「お前と番長とな」


 長い梯子の終わりが見えると、梯子を使って下りていたうーめんが飛び降りた。


「おー、スタイリッシュ着地」


 梯子をガン無視して<浮遊>していた八宝菜が拍手を送る。


「うーめん」

「何?」

「……番長も連れてくりゃよかったな」

「それな」


 八宝菜とうーめんの眼前に広がる光景。それは、無数の眼球だった。


 否、ただの眼球ではない。それら全てが魔眼。

 黄緑や紫といった発光色の液体に漬けられ、瓶詰めされた魔眼、壁に埋め込まれながらも、ぎょろぎょろとせわしなく視線を動かす魔眼、金属のトレーやガラスの皿に乗せられ、水晶体や硝子体が取り出される過程でぐちゃぐちゃになった魔眼。


 そして——


「——」


 端的に言えば、そこにいたのは化け物だった。


 手の甲にも足にも額にも頬にも魔眼が埋め込まれており、大部分が破れた衣服から腕にも腹にも背中にも目が覗く。声を出そうとしたのか口を開くも、咥えている魔眼が唇に縫われており、喉が微かに動くのみだった。


「人体実験かー、最高だね! これ魔物扱いにして使役したりできないかなぁ……」

「わーお。すごいねぇ、これ! 素晴らしいコレクションだ! ぜひともお持ち帰りしたいね!!!」


 二人が喜ぶ間にも、魔眼の化け物たちは距離を詰めてくる。


「……あれ? そういや眼球収集家アイ・コレクターくんはいずこへ?」

「………………死んだ?」

「そうっぽいね、ほらあれ」

「んー?」


 暗がりの中、八宝菜の指差す方に目を凝らすと、そこには石の像があった。机にしがみつき、手を伸ばした先にはポーションが並べられた棚がある。


「……<石化>の魔眼かねぇ?」

「そうじゃない?」

「……帝国の法律的にさぁ、死んだ犯罪者の所有物はどんな扱いになんの?」

「そうだねぇ、もしそれが盗まれたものなら持ち主に返却しないといけないね」

「盗まれたものが人体の一部なら?」

「持ち主も死んでる可能性が高いね」

「返されても困るよね?」

「ならさ、ならさ!」

「私たちが貰っても」

「いいよね!!!」


 無数の魔眼に見つめられながら、魔王と勇者は嬉々として化け物に向かった。

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