第4話 温かな時間(※当作品比)

「いつの間にか陰諧が卵産みきってたぜ。計三個」

「少ないね。突然変異体ミュータントを産んだ影響とかもあるのかな?」

「それは知らん。検証班専用掲示板にも突然変異体ミュータントに関する記述クッソ短いし、野生でもエンカウント率低いみたい」

「じゃあ、相当運が良かったんだね。今日のガチャリザルトは?」

「十連で最高レアのURが五、SSRが四、SRが一。ちなみに全部目当てのキャラだった」

「チート?」

「違う」


 授業後、真っ先に仮眠室へ行き、ログインした八宝菜とそふかは、卵の孵化を見届けるまで雑談に興じていた。


 巣ごと陰諧を影から取り出し、洞窟内部に置く。抱卵のため、陰諧は巣にすっぽりとはまり込んだように座っている。陰諧の体の下にはダチョウの卵サイズの、三つの卵が温められていた。


「んふふー。実はねー、こいつらの名前もう決めてるんだよね。知りたい?」

「教えろ」

「相変わらず鳥ガチ勢だねぇ」


 もったいぶる八宝菜を早くしろと小突くそふか。八宝菜も聞いてほしくて話題を振ったので、楽しそうに名前を告げた。


突然変異体ミュータントのやつは朱雀で、他二匹はほうおう

「あぁ、火の特性から朱雀。そして確か、鳳は雄、凰は雌を指すんだっけ? 雲日と陰諧みたいに、雄と雌の名前の違いをなぞらえたのか」

「うなじが燕だとか翼が燕だとか色々説もあるからね。……つか、解説役取らんといて?」

「草」

「真顔で草を生やすな」


 「鳥のことなら神話とか伝説方面もカバーしてるのか……」とそふかの鳥への執着に若干の恐怖を覚えながら、陰諧に視線を向ける。ほかほかと卵を温める様子は立派な母親である。どこぞのカスとは大違いだと、自分で自分の地雷を踏み抜きながら、陰諧を撫でようとした。撫でる前に翼ではたき落とされたため、撫でられてはいない。初めの印象が印象なので、八宝菜は陰諧に嫌われている。とりあえず、傷ついた心を癒すため、雲日をいじることにした。


「雲日~。ちこう寄れ」


 手招きをしてそう呼ぶと、雲日は怯えながら慎重に近づく。こちらも初めの印象が印象なので、雲日は八宝菜を核爆弾のように扱っている。しかし、爆発に細心の注意を払っているようなその態度は八宝菜にとってはただのおもちゃである。撫でる度にビクッと震える雲日に八宝菜は笑いをこらえた。

 主人が楽しそうなのでやめてほしいとも言えず、挙動不審になりだす雲日。きょろきょろと辺りを見回す中、ハッとしてそふかの方に向いた。最早、祈りに近い。

 尊さのあまり心臓を押さえつつ、そふかは雲日に助け船を出した。


「その辺にしてあげなよ。野菜」

「何だ、自分も撫でたいならそう言やいいのに」

「別にそういう意図はなかったけど、撫でさせてもらえるなら貸して……ふひゃあ……可愛いぃ……!!!」


 恐怖から解放され、雲日はそのお礼と言わんばかりに体を擦り付ける。口元を押さえ、大声を出して怯えさせないように努めた。結果的に奇声を上げているが、雲日は気にしていないのでよしとする。


「おっ! もうそろそろか?」


 ぴきぴきと卵にヒビが入っていく。そして、割れた。


 中から現れたのは、真っ赤に燃える一匹の燕——朱雀だった。


「ほえ~、小っちゃい。潰れそう」

「うるさい、黙れ」

「そふかの方が声でか……むぐっ!」


 危害を加える意図はない純粋な感想だったが、日頃の行いが行いだったので、サンドイッチが八宝菜の口の中に突っ込まれた。なお、そふかの手作りである。ダイナミックな口の塞ぎ方に普通は文句を言うところだが、キュウリモドキとハムモドキのサンドイッチが美味しかったため、そふかは無罪である。


 身をよじって殻から出ようとする朱雀を「頑張れ~!」と応援するガヤ、もとい八宝菜。喧しいので、もう一つサンドイッチが放り投げられる。見事なジャンプでキャッチされ、咥えられた。本格的に犬扱いである。


 無事に孵った朱雀はじっと八宝菜を見つめた。


「……あ~、そうなるんだ」

「? 何が?」

「いや、使役獣の子供ってどんな扱いなんかなと思ったけど、これあれだ。刷り込みさえやっちゃえばすぐに使役できるね」


 八宝菜は使役陣を朱雀の額に押し当てる。陰諧や雲日のときと同じように使役陣は消え、朱雀は八宝菜の使役獣となった。


「全く、君はまた陰諧に嫌われるようなことをして……」

「へ?」


 後に産まれてきた鳳と凰にも同じことをすると、そふかが呆れたように言う。身に覚えのない評価に、八宝菜は素っ頓狂な声を上げた。


「まさか……無自覚で???」

「え、いやマジで何が?」

「嘘でしょ……???」


 親友の所業にドン引きするそふか。対する八宝菜は「何かしたっけ……?」と首を傾げた。そしてその仕草にまたもやドン引きした。


「自分の子供を使役されたら、親は良い気しないだろ普通……。ただでさえ陰諧は君を嫌ってるのに。刷り込みまで利用して……」

「あぁ、そういうこと?」

「この発想にすぐ至らないの大分やばいぞ、お前ぇ……」


 やっと理解した、といった風に八宝菜は手のひらを拳でポンッと叩く。分かっていたことだが、親友のやばさに改めてそふかは引いた。

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