第14話 2001/9


-----------------[長文のコーナー]------------------------------------



[city]



<あらすじ>


僕は、いつも明け方の高速道路とかを走るのが好きで。

ある日、何気なく高速を走っていると、バトルをしている集団に出くわした。

しかし、この時は運悪く、その内のひとりが事故ってしまい、高架の下へ転落。

そいつは、フェラーリ512に乗っていて、ちょっと胡散臭い奴だった。

それから、妙なことが起こり始めた........


-------*---------------






微かな物音がした。

どうやら、僕は眠ってしまっていたらしい。


............。


音楽は、静かに流れていた。

これは...マリガンかな....。


見ると、横田は静かに。


「お、起きたか...。」微笑んでいる。




僕は、はっきりと状況を思いだした。

「ごめん...寝ちゃった。」




横田は、にんまりと笑い、

「いや、ほんの数分だ....。」


そういい、手元のグラスを傾ける.....。



しばらく僕らは音楽を聞きながら、茫洋と漂っていた。

LPが終わり、横田はトーン・アームを上げる。


次のレコードをジャケットから出す。

雨音の聞こえるような硝子窓。

窓越しの女。

ソフト・フォーカスの写真。


...エロール・ガーナー、かな。


レコードをターンテーブルに置く。

センター・スピンドルに触れると、レコードは回転しながら

ターン・テーブルに軟着陸する。

トーン・アームを静かに下ろすと

SP盤のようなノイズを伴い、潤いのあるピアノ。

イントロのフレーズ。

saxで吹きなれた。


僕は、地下のクラブの湿った空気の匂いを思い出していた。



横田は、真空管プリ・アンプの精密ヴォリュームを僅か、低めに。


「なあ、シュウさ....。」


背中でつぶやく。



「なに...?。」



「さっきの話しだけどな。」




「ああ、あのこと。」




「やつらは、もう襲ってこないだろう....。」




「.......どうして?」





「変な男に会った、っていってたな、警察で。」




「うん、僕の家に来た暴漢。そいつが、何故か警察にいて....。」




「そいつが『頭』だ。お前の友達を襲った連中の。」




「..........。」

僕は、なんだか分からなくなった。

どうして横田はそういうんだろう。



「おそらく奴等は、何らかの目的でその、

死んだ512の男を追っていたはずだ。

それで....」



「それで?。」

.



「一緒にいた人間をまず、疑った。

事故に見せかけて消そうとした、と。」




「そんな、まさか....。」




「いや、ありえない話じゃない。ちょっと前、日本でも

宗教団体絡みのカルトが、そんな事をやっていたしな。

対抗組織の大物を、事故とか火事に見せかけて殺したりな。」




....僕は、死んだ兄の事を思いだした。

兄も、確か...宗教にのめり込んで。

対抗組織が過激派だった...。

そして、高速で....。



「........。」

僕は、硬直してしまった。



「どうした?。」

横田は、僕の表情に気付き....。




「いや、なんでもない。」

僕は、普通であることに努めた。

横田は、兄のことを知らない。

話すつもりもなかったし。




「...で、おまえらが疑われた、と。『とんび』も出てるしな、あの辺は。」




「......それは分かったけど、なんで『もう襲ってこない』って思うの?。」

僕は、忘れかけてた言葉を。



.


「ちょっと、知ってるんだよ、その組織の事。」

丁度、レコードが終わって。

横田はB面にかけ変えた。


また、アンニュイなピアノが、JBLパラゴンから流れる。




「....で、この間話したブン屋も、まだ行方不明のままだ。」



「....じゃあ......。」




「ひょっとすると、その512の奴も、ブン屋も何も知らなかったのかもしれない。

しかし.....。」




「......?」




「何かを知ってしまった、とすると....。」





「うむ、その512の男、かなり胡散臭いんだ。そのブン屋に聞いたんだがな。

で、そのブン屋も音沙汰なし、だ。」




「....でも、あれは事故だった。」



「そうだが、現場にいた奴は一応疑うもんだ。

それに、刑事が家に来た、っていってたろ?」



「うん.....。」




「別の捜査でも、その男を追ってた、ってことだな。」



「........。」





「ま、妙な事には関わらん、というのが無難だろう

だいたい、この一件は危険すぎる。

犯人探しは、やつらに任しとけばいい。」



「そうだね。」




「さて、今日は泊まってけ、..もうじき朝、だがな。」

と、横田は言い、にんまりと笑った。




「うん、ありがと。」


と、僕は答え、笑顔を返した...



でも....。


僕らはその後、レコードを何枚か聞いて

それから、横田は自分の部屋で。

僕は階上の、客間らしい洋間で眠った。

板間の板は古い一枚もの。

油の匂いがした。


ベッドに潜って、僕はうとうとしながら考えた。


---横田は何故、やつらが襲ってこないと言いきるんだろう....

---あの事故が仕組まれたもの?.....

---「奴等」と、「刑事」。何を捜査してるんだろう?

---「奴等」は、どうして僕と、S12を襲ったんだろう?...


.....たぶん。

512の男が何かを知っていた、んだろうな..。



----あの、R32GT−Rの男は?



僕は、そのことにどうして今まで気付かなかったんだろう、と。



....512の奴と仲間みたいだったから......。




....横田は止めとけ、っていうけど。


ちょっと、気になるんだよな...。




僕は、うとうとしながらそんなことを考えて

いつのまにか、眠りに落ちていた。




目が醒めた時、すでに午後だった。

この家の周囲は林、というよりちょっとした森なので

昼すぎだ、という事にも気付かず、眠ってしまっていた。


寝室から出ると、二階の廊下は明るい光に包まれていて

窓からは、清涼な風が流れ込んでいる。

僅かに、森の香りがする。


廊下を歩くと、まったく音のしない空間にスリッパの音だけが。

横田は、どこにいるのか気配すら感じられない。


階段が、階下へとつながっている。

その脇に、鏡と洗面台が一体になったユニットが据えられていた。


僕は、水栓のレバーを上げ、水を手で受けた。




井戸水なのか、思いの他冷たい水が心地好かった。






....ぼんやりとしていると、外の方でバイクのエンジン音がした。




Vツイン。

横田の、FX−1200だ。


窓から、顔を出して、音のする方向を見ていると...


昨日、僕が登ってきた道を、横田は上ってきた。



陽射しを浴びたV-Twin は、とてもまぶしく、


力動的な排気音がなんだかとても頼もしく思えた。






-------以下、次号に続く------------------------------------

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淡彩画 深町珠 @shoofukamachi

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