第14話

 かなり早くに着いてしまった。待ち合わせ時間までまだ30分もある。

 加代子は時計を見ながら、

 まあいいか。待っていよう。

 と思いながら人通りの邪魔にならないよう改札口の脇に移動した。

 夕方の栄駅である。サラリーマンや学生等で駅はかなり混みあっている。

 ぼんやりと往来する人々を眺めていると正面から男が近づいて来るのが視界に入った。

 あれ? 彼は……鈴木君だ……

 鈴木と思わしき人物は真っ直ぐ加代子を見つめどんどん近づいて来る。

 ま、まさか、私が判るの?同窓会場では気づかなかったのに?

 加代子はひどく狼狽しながらも今更逃げ場所も無くどうする事も出来ずにいた。

 「あの、すみません。渡辺加代子さんではありませんか?」

 単刀直入に尋ねてきた。

 加代子は鈴木を見つめながらも何も答えられないでいた。

 「同窓会場にいらっしゃいましたよね?申し訳ありません。渡辺さんに気づく事が出来ませんで」

 いかにも営業マンらしく慣れた口調で言った。

 加代子は相変わらず何も答える事が出来ぬまま立ちつくしていた。

 「どうされました?」

 鈴木は尚も追及してくる。

 あの時気が付かなかったではないか。何故今更……

 「実はあの同窓会で不参加だった二人の話題で持ちきりになりましてね、皆で話してたんですよ。どんな方だったっけ?ってね」

 「で、私はその後、家で卒業アルバムを見ましてね、不参加だった二人、つまりあなたと吉川遙さんを確認した訳です」

 「いや、本当に申し訳ない。実は吉川君も来てましたね?あの場に。喫煙所でお会いしましたよ。お恥ずかしながら私、吉川君にも気が付かなかった訳ですがね。彼にも申し訳ない事をしましたよ」

 鈴木は一方的に話し続ける。

 「で、せっかく同窓会場まで来られたんですからね、あの時は親交を深められませんでしたからね、今後どうでしょう? 連絡先等交換して親交を深めませんか?」


 何を今更……何で急に……

 加代子の中に込み上げる何かがあった。

 次に鈴木が話そうとした時だった、

 「すみません!」

 加代子がやっと口を開いた。

 「はい?」

 鈴木はその雰囲気に少したじろぐ。

 「人違いです」

 「え?そんな筈は」

 「私、渡辺ではありません。人違いです。人を待っておりますのでお引き取り願えませんか?」

 「……」

 鈴木はその雰囲気に圧倒されてしまった。

 「あ、そうでしたか……それはすみませんでした……」

 加代子は答えず鈴木から視線を逸らした。

 納得がいかないという感じで鈴木は改札を抜けて行った。

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