模範的な関係

洗練された文体。
淡々とした言葉の中から、わずかに漏れ出る情緒。
何度も読んで噛み締めたい良作。

多くを語る必要は、たぶんない。
とりあえず読んでください。

私の目の前に包丁を持った女性が強盗に入った。私は手錠をされてしまったが、彼女の事情を知っていた。

引っ越さねばならない事、お金がなくて金品を要求した事……、恋人を『殺して』しまった事……。

なぜなら、私は下の階に住んでいる『彼女の声』を毎日盗み聞いていたからだ……。

　下へとスクロールし尽くすと、「対等な」、と本文で裏打ちされた関係性が、タグにて明らかになる。
　そのタグから作中の双方に体格差、筋力差がさほどないことは容易に導かれるのだが、うっかり大して読み込めていないまま、タグまで来た。
　さて作品の方は、研ぎ澄まされた文体、必要最低限の心理描写で、アクのない読み味で文字数よりさらに短く感じられる。
　とても面白い。
　なので余計にふたりの間柄とか、いわゆる「その後」を補完したくなるのだけど、それも野暮なのだろうと我慢している。
　作品の完成度が素晴らしいので、ただただ味わうのがおそらくはよいのだろう、と思いながら、どこか（映画化か、もしくは「世にも」…続きを読む