後編 当然のごとく事件に巻き込まれた探偵助手、謎を解く


「犯人が分かったって…本当なの?千種ちゃん…」

暁音さんが不安そうに聞いてくる。他の3人も同じような表情だ。私はこの人たちに普段からよくしてもらった恩がある。だから、気は進まないけど…

「はい。本当です。今からそれを説明します」

砺波先生の助手として、幡野屋の常連客として、この事件は解決させなくてはいけない。

4人と早蕨刑事を見回してから、私は口を開く。

「さて、今回の事件ですが、幡野家の皆さんには四者四様に草介さんを殺害する動機があります。なので動機から犯人を絞るのは難しいと判断しました。そこで手がかりとなったのが、この二つです」

そう言って、私は証拠品の色鉛筆と卓上カレンダーを掲げる。

「まず、卓上カレンダーについて。これは今月ではない月のページが開かれていました。理由は、この月の『1日』が休日だからです」

「…そんなこと言ったら、今月の『1日』は土曜日で休日じゃないか。理由になってないと思うんだが…」

私は月臣さんに向かって頷いた。

「はい、今月の『1日』も確かに休日です。でも、ここは日曜日か祝日のどちらかでなければいけないのです」

「それはなぜだ?」

「土曜日だと、数字が赤くないからですよ」

みんな、よく分からないとでも言いたげな顔で見つめてくる。でも、ここは先に進めないと。

「…皆さん、納得がいかないようですが、進めさせてもらいます。次に私が手がかりとしたのは、『檜山さん古希』のメモと白い色鉛筆です。皆さんはご存知だと思いますが、古希とは長寿祝いに用いられる年齢の名称で、数えで70歳を意味します。そして、この流れで『白』とくれば、『白寿』と結びつけるのが自然です」

そこで一旦言葉を切る。

「ただし、赤い『1日』、『白寿』だけでは繋がらないのです。何かもう一つ、手がかりがある、そう思った私は今日の草介さんとの会話を思い出し、これに辿り着きました」

私は用意したメモを取り出す。そこには4人の作ったお菓子の銘が書かれている。

「暁音さん、月臣さん、萩乃さん、雪時さん…皆さんが作った和菓子の銘を漢字に直してみました」


【メモ】

暁音さん…ふじなみ→藤波

月臣さん…さるすべり→百日紅

萩乃さん…ほおずき→鬼灯

雪時さん…いてぼし→凍星


「…『白寿』に使われる『白』とは、漢数字の百から一引いた文字を当てて、99歳を表していると言われています。反対に、『白』に漢数字の『一』を足せば、『百』になる。…白い色鉛筆に、赤い『1日』、ここまで言えば、もうお分かりですよね?」

…死際に、大切な和菓子の銘で犯人を伝えようとした草介さんは、どんな気持ちだったのだろうか。

「…草介さんを殺害した犯人は、『百日紅』を作った月臣さん、あなたです……!」

私がそういうと、月臣さんは少し黙って、それから涙を流し始めた。

「千種さんの言う通りです。私が父を殺しました…。今でこそ、父はあのように温厚な人物ですが、若い頃はとても厳しく、私たちが幼い時も、決して笑顔を見せないような、職人気質の人でした。…当時、姉さんが婚約者と別れさせられたのはご存知ですよね?その理由が、跡継ぎの婿に相応しくないからだと知って…どうしても、幡野屋の後継ぎを姉さんにしたくなかったんです。例え、私が跡継ぎになれなかったとしても、姉とその人が結ばれることを目指して、今までやってきたのに。先日相手の方が亡くなったと知って…」

「もういいのよ、月臣。私は大丈夫だから。あなたの優しさもずっと分かっていたから…罪を償ったら、また戻ってきなさい」

暁音さんの言葉に泣き崩れた月臣さんは、何も返せないまま早蕨刑事と共に署へ向かっていった。

そうして、この悲しい殺人事件は幕を閉じたのであった。


結局、葛切りは先生のお茶の時間に間に合わなかった。私は事件の話をして、遅れた説明(言い訳)をしたけど、すっっっごく怒られた。まったく、いつ事件に巻き込まれるかわからないのだから、不可抗力なのに…!!!

「はぁーあ、そんなに言うなら自分で買いに行けばいいじゃないですか…」

そう呟く私に、先生がまた説教を始める。

…もうこんなの懲り懲り!

次のお使いからは、時間に余裕を持って行こうと心に誓った。


【完】

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探偵助手のおつかい 四坂 藍 @spica-097

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