エピローグ ~そして僕達は幸せになった~

エピローグ

 一仕事終えた僕とメイムは大きく息を吐いた。


「怖かったね、空夜さん……」

「本当だな」


 朝から市役所にやってきた僕とメイムは然るべき場所に婚姻届を提出した。問題はそこからだった。やっぱりメイムの年齢が年齢だけに大騒ぎになった。いや、まぁ、騒いでたのは担当したおじさんなんだけどね。

 お互いの同意を確認するのは勿論だし、僕の両親まで呼んで来いとか何とか。いやいや、その為のサインなんじゃないんですか? とか何とか応対しているうちに周りの人にも伝播したらしく、なんだなんだ、となってしまった。


「近所のおばちゃんも居たし……もう村中に知れ渡ってるだろうなぁ」


 笹川市になったとはいえ、僕が小さい頃はまだ笹川町という地名だった。色々と合併して市になったが、田舎は田舎で違いは無い。プラスして、地元のコミュニティは健在であり、どこの誰が何をしたかなんてのは、もう筒抜けだ。筒すら有りはしない。ザル抜けだな。受け止める気なんて最初から無い。


「歓迎されないの?」

「されないだろうな~」


 まぁ、仕方がないか。と、僕とメイムは苦笑した。

 そんなものは最初っから期待していない。指をさされる事は間違いないだろうし、すぐにマスコミも嗅ぎつけてくるだろう。小学生と結婚したのは、恐らく僕で十人目ぐらいかな? 調べたら全員の名前が出てくる。プライベートと個人情報が死んでいるなぁ~。恐るべし情報化社会。


「ねぇねぇ、空夜さん」

「なんだい?」

「お願いがあるんだけど……」

「いいよ。せっかく結婚したんだ。何だって遠慮なく言ってくれ」


 もっとも……結婚した自覚ってのはお互いに無いのかもしれない。役所に紙を一枚提出しただけだしね。案外と気楽なものかもしれないな、結婚ってのは。


「えへへ~。え~っとですね~」


 なにやらモジモジとしているメイム。珍しいな。メイムはどちらかというと物事をストレートに伝える方だ。言いよどんでいる姿は見た事がない。結婚しただけの事はあるな。お互いの本性は結婚してみないと分からないとも言うし。第二の人生とか、墓場とか。一見して……いや、一聞して悪い事だらけな気がするけど。まぁ、そんなのは失敗者の意見だ。聞く耳持つ必要はない。


「ん~とですね~。キス、してください。きゃ~~~!」


 一方的に伝えて、一方的に照れるメイム。

 うわ~。なんだこの可愛いお嫁さん。

 知ってる?

 この子、僕のお嫁さんなんだよ?


「いや、別にいいけど……ここで?」


 ちなみに市役所から出た所の駐車場である。往来のど真ん中、というか言うならば公共の場である。さすがにここでキスなんてのは思いっきりやりにくい。


「いいんですか!?」


 びっくりするところはソコなのか。


「でも僕、恥ずかしいけどファーストキスもまだなんだよね」

「あ、私もです。えへへ~、一緒ですね~」


 さすがに十九歳と十一歳じゃ、ファーストキスのレベルが違うよな~。僕の方が遥かに劣っている。よくもまぁ、こんな僕が結婚できたもんだ。


「とりあえず……帰ってから?」

「は~い。ふひひ~」


 メイムは嬉しそうに笑う。十分に幸せそうだし、以前の死神の面影も欠片も無い。ここにいるのは柚妃メイムじゃなくって、茨扇メイムという訳だ。完璧にね。法律的にもね。


「空夜さんのファーストキスも私なんだ~」

「好きだな~、僕の初めてを奪うの」


 ……言った後に、物凄いエロいニュアンスが漂ってきて自己嫌悪に押し潰されそうになった。でも、幸せだから知った事ではない。自己嫌悪? なにそれ? この世は全て合法だぜ? 悩みなんか無いのさ!

 という訳で、駐車場に停めていた車に乗り込む。ちなみに父さんの車で軽自動車。母さんの普通車は大きいので乗りたくない。絶対にコスってしまう。僕の運転テクニックはコンパクトな軽自動車レベルで充分だ。

 運転席に乗り込み、助手席にメイムが乗るのを待ってエンジンをかけた。さて、シートベルトをしてっと……


「あ、ねぇねぇ空夜さん」


 メイムに呼ばれたので、そちらを向く。


「なんだ――」


 唇に、やらかいものが触れた。何がなんだか分からなかったが、理解した時にはメイムが離れていた。


「にへへ」


 頬をおさえて微笑むメイム。

 どうやら僕は、たった十一歳の少女に、不意打ちでファーストキスを奪われてしまったみたいだ。


「卑怯だぞ、メイム」

「え~。早く欲しかったんだも~ん」

「許さん!」

「きゃ~!」


 車の中で逃げられるはずもなく、あっさりと僕はメイムを捕まえるとこちらへと抱き寄せた。


「わわわ! 待って!」

「待たない!」


 そして、僕は彼女の唇をうばった。お返しだ。二回目にしてはっきりと分かるんだけど、キスって気持ちいいんだね。知らなかったよ。


「ぷはっ! もう空夜さん!」

「うはは! 幸せだろう!」

「うん! 幸せ!」

「だったら問題なしだ!」


 車を発進させる。

 そう。

 幸せなんだから、問題は無しだ。

 幸せになったんだから、もう何も問題なし。

 これで終わり?

 いやいや。


「メイム、これから色々とはじめるぞ!」

「はい! 空夜さん!」


 僕達の物語はこれからはじまっていく。

 もっともっと幸せになるまでね。

 誰もがうらやむハッピーエンドにむかって。

 僕とメイムの物語を。

 いつまでも続けていこうと思う。

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結婚しようよ ~彼女を救うたったひとつの冴えないやり方~ 久我拓人 @kuga_takuto

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