会いに行くからね!

山駆ける猫

ここ掘れワンワン

「よっこらせーのよっこいせ……ふう、柔な乙女には重労働すぎるよー」

 流れない汗を右手で拭いながら、美知佳みちかは一息ついた。


 十七歳、花の高校二年生の少女。

 整った顔立ちと抜群のスタイル、栗色のゆるフワの長髪、向日葵の様に朗らかに見せる笑顔。

 多くの青春男児を虜にしているお姫様だが……残念、彼氏がいます。


 そんなアイドルな彼女は現在、園芸用のミニスコップを右手に地面を掘り漁っていた。

「全くもうっ、あっちこっちに隠してくれちゃって、最初顔を出した時にはうへーってなったし、まあ途中から宝探しをしてるみたいで楽しくなってきたんだけどさ」

 言いながら地面に両膝を付きバランスを取りながら、美知佳は再びスコップで掘り漁る。


「それにしたって街の端から端まで七か所に分けて隠すなんて、カイ君、行動力あり過ぎ……でもそんな所も好き♡」

 エヘヘーと交際中の彼、海斗かいとの顔を思い出し彼女はだらしなく頬を緩ませた。

(先月の遊園地デート楽しかったな、カイ君エスコート上手すぎるんだもん、ジェットコースターに観覧車、夜のパレード、そしてその後はカイ君の家で……きゃっ)

 あの時の事を思い出し腰をくねらせる美知佳、そのせいで危うく崩れる所だった。


「おおっと危ない危ない、はい作業に集中します!」

 右手のスコップで抉った土をサイドに手際よく放り投げ、穴の面先を徐々に広げていく。

「うーん? カイ君、結構深く埋めたのかな他のは早く見つかったのに、でも確かにここに有る筈、私の感がそう告げてるし」

 掘り進めて間もなく一時間が経とうとしている、穴は数十センチまで掘り進めたが、未だ目当てのお宝は見つからない。


「もっと大きなスコップ使えば良かったかな? でもこの間はそれで間違って刺しちゃったし、傷が出来るのはあんまり……ん?」

 スコップの横で土を掻き分けていると、何か固形物の感触が伝わった。

「あっ、もしかして!」

 その感触に目を輝かせ美知佳はスコップを置き、右手で丁寧に土を掻き分けて行った。


 埋まっている物を気づ付けない様に繊細に、いたわりを込めて。

 彼女が無口のまま作業に没頭して十分が経ち……そして。


「やった、うん、これで全部揃った」

 目当ての宝を掘り起こした達成感に安堵の息をつく美知佳、そのまま彼女は穴から宝を取り出した。




「お宝見ーつけた! お帰りなさい―――私の左腕♪」

 

 鬱蒼うっそうと木々が生い茂る、深夜一時過ぎの山中。

 赤黒い血と泥で全身が汚れた、左腕の無い少女は朗らかに笑う。


 先月の遊園地のデートの後、美知佳は海斗の家に招かれ……そして彼に殺害された。


 今日親は居ないからと誘われた彼女は不安一割期待九割で首を縦に振り、海斗の自室へとお呼ばれした。鼓動が高まりいそいそと彼のベッドに腰掛けたその時、突然海斗が美知佳の首を掴み締め上げた。


 何が起こったのかまるで理解出なかった、動揺と混乱に手足をばたつかせ抵抗するが男性である彼の力には叶わず、首の骨が折れそうな程締められて、美知佳は絶命した。


 当然死んだのでその後の記憶は全く存在しない。

 しかし……ある日突然、美知佳は目が覚めた。


 真っ暗闇の中で意識が戻り彼女は困惑したが、今居るこの場所が土の中だという事はすぐに理解した。とにかくここから出たい一心で彼女は上へと向かって進み、ようやく土から顔を出すことが出来た。

 

 現在と同じくらいの夜の時間、何度も深呼吸を繰り返し彼女は地面から這い出た。

 ――その瞬間、視界がごろんと回転した。

「……あれ?」

 そして美知佳は知った、今の自分は生首だけの存在だという事に。


 どうやら自分は海斗に殺された後、全身をバラバラに切断され埋められてしまったらしい。記憶は一切無いが、直観が確かにそう告げている。


 頭、右腕、左腕、胴、腰、右足、左足の七つに切断されて別々の場所に隠された。


 それから後は大変な道筋だった。


 隠された自分のパーツを探す為、頭部のみで這いずり回った。不思議と他の人体の場所は直感で分かったので突き進むだけで済んだ。


 最初に見つけ出したのは胴、頭と同じく地中に埋められてた。

 当然口で掘るしか方法が無かったので苦労した、あの土の味は忘れられない。


 その後も這いずり続けパーツを探し出し繋ぎ合わせる。両足が揃い速さを獲得、右腕を得て効率が上がり。

 そして今日、遂に最後のパーツを取り戻すことが出来た。


「はは、やっと元の私に戻れるよー、あァあはあ」

 切断面の土を払い落とし自分の左肩口にぴたりと合わせる、腐食した肉が怖気の走る音を立てながら繋がり結び、活力を取り戻していく。


「ふふ、はハハはハは、きゃはhハハははハははHはハ」

 自分の全てを取り戻し、嬉しくて溜まらなくて美知佳は天を仰ぎながら笑う。

 鮮血の様に真っ赤に染まった目が三日月を見つめる。


 これで自分は完成した、それなら次にやるべきことは?

 ……そんなの決まってる。

 

「カイ君……カイ君、カイ君カイ君カイ君カイ君カイ君カイ君カイ君カイ君カイ君カイ君カイ君カイ君カイ君カイ君カイ君カイ君カイ君カイ君カイ君カイ君カイ君カイ君カイ君カイ君」


(どうして彼は私を殺したのか……そんなのどうでもイイ)

 私はこうして蘇った、その事実だけで十分。

 だから会いに行こう、愛しき彼に。


 会った時、私がどう行動するのかは分からない。

 話したいのか、愛を囁きたいのか、デートしたいのか、抱きしめたいのか、あの夜の続きをしたいのか、殺したいのか、私と同じにしたいのか……分からないどれでもイイ。


 只、見て欲しい今の私を。

 アナタに殺されたワタシが帰って来たよって、伝えたい。


 だカ

   ら



『カイ君――アイニイクカラネエエエエ!!!!』

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会いに行くからね! 山駆ける猫 @yamaneko999

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