第16話 商業施設

「ねぇさやかちゃん」

「どうしましたか? 美鈴さん」


「前に言ってたじゃん。魔導具は魔力を持っていれば使えるって」

「はい」


「じゃぁ私達はもう使えるって事だよね」

「そうですね」


「何か作って無いの?」

「まだ作ってはいませんが、マジックバッグとミスリルのナイフは作って置こうと思います」


「すごーい。それってどんな風に使うの?」

「魔導具と言うのは全て魔法陣が刻んであります。それに魔力を流せば使えます。コツを掴むまではちょっと難しいかも知れませんが、練習すればすぐに使える様になりますよ」


「ミスリルのナイフって普通のナイフとは使い方が違うの?」

「そうですね、加護の力を持っている方が使うとそれぞれの属性を通じて切れ味が増します。特に霊体などは物理攻撃は通用しないので、属性を付与しないと攻撃は出来ませんから」


「凄いね。早く使ってみたいよ」

「美鈴さんって、意外に戦闘民族なんですね……」


「そりゃ魔導具とか聞いて興味を持たない人の方が少ないと思うよ?」

「ねぇソフィアちゃん?」


「綾瀬さん。どうしました?」

「刀とか槍見たいな武器らしい武器は作れないの?」


「勿論作れますけど、扱いが難しいと思いますよ? 少なくとも私は扱えないので」

「私はほら、警官だったから剣道も棒術もそこそこ出来るよ」


「そうなんですね。でも、私は鍛冶師では無いから、元になる武器を手に入れてくれないと、駄目ですよ? その武器を、ミスリルに錬成して魔法陣を刻み込めば出来ます」

「解ったわ。何とか手に入れてみるね」


 ショッピングセンターに到着したけど、まだ新しくて大きな施設なのに何故か人が少ない。


「なんでこんなにお客さん少ないのかな? この辺りでは一番綺麗で、規模も大きいのに?」

「これは、明らかに霊障の関係ですね。全体的に空気が重いです。出来た当初はかなり人を集めたんだと思いますけど、それが余計に悪意を育てる要素になってしまったんだと思います。今はまだ営業中ですから、館内を一通り歩いてから食事に行きましょう」


 みんなで食事をしながら、聞いてみた。


「どこがヤバいか解りましたか?」


 一通り歩いてレストランフロアに落ち着いてから、私はみんなに聞いてみた。


「全体的に空気が重いと言うのは感じたけど、中央部分が特に強く感じたかな?」


 お守りを貸したままの杉下先生も含めて四人とも同じ意見だった。


「確かにそうですね。インフォーメーションセンターの後ろのスペースが必要以上に大きく目隠ししてあったから、恐らくその部分がメインですね」


「メインって事は他もあるの?」

「答え合わせは営業終了後と言う事で!」


「今日は誰か施設の人は付き添って頂けるんですか?」

「このショッピングセンターに霊障指定が掛っていることを知っているのは、この施設のオーナー会社の一部経営陣と、この施設の管理責任者の施設長だけですので、今日は施設長が来ていただけます。それと、0課の課長の太田警部が来るよ」


「そうなんだ。でもどうなんですか? 霊障の確認と言う事だったけど、今日は対応はしなくていいと言う事ですか?」

「それは、施設の方とのお話の上でと言う事になりますね」


「了解しました」



 ◇◆◇◆ 



 ショッピングセンターの営業時間が終了し、従業員の方々も帰られた午後10時になって、私達は駐車場で待機していた。


 まず綾瀬さんのスマホに太田警部から連絡が入った。

 

『綾瀬さん。もう現地にいるのかい?』

『はい。駐車場で待機しています』


『少しぐるっと回って貰って、従業員用の入口が裏手にあるからそっちに来て貰えるかな』

『了解です。車を回します』


 ショッピングセンターの裏手に回ると、納品用のトラックヤードとかがありその隣に従業員通用口と書かれた扉があった。


 車から降りて扉に向かうと、中年のおじさんがコートを羽織って立っている。

 この人が太田警部だろうな?


 綾瀬さんが声を掛ける「太田警部お久しぶりです。今日はよろしくお願いします」

「綾瀬さん久しぶりやな。結構ヤバそうなのがおるが、大丈夫なのかい」


「取り敢えず、視てからどうするのか考えたいと思います」

「それなんやが…… 今一緒に居るメンバーは皆さん、綾瀬君が跳ねられた事件の時の関係者や無いですか。一体どんな理由でこのメンバーなんや」


「その辺りも後で説明させて頂きます。もう時間も遅いので急ぎましょう」

「解った」


 太田警部が電話をすると、中から扉が開いてスーツ姿のいかにも責任者っぽい人が現れた。


「皆さん今日はよろしくお願いします。今この施設はご存じのように客数の減少で存続の危機に立たされています。この地域には他に大きな施設は無いので、ここが無くなると地域全体が困る事にもなりますので、ぜひお力添えをお願いします」

「取り敢えずは視させて頂きますが、お力になれるかどうかは、その後と言う事で」


 案内されたのは、やはりみんなが感じたのと同じ、インフォーメーションの裏に当たる場所だった。

 30坪分くらいのスペースが二重の壁で遮断されてるような、不自然な作りになっている。


 施錠された扉の鍵を開けると、禍々しい空気を感じる。


「このもう一つの壁を越えた向こうだ。0課の人間が視た時は、甲冑姿の武士が立っていた」


 そう事前情報を聞かされて、心構えをして中へと入る。


「太田警部の仰る通りに、ここには武士の怨念が残っていますね。施設長。ここは元々どういう土地だったのでしょうか?」

「古い墓地がありました。ちゃんと供養をして移設したのですが……」


「きっと墓碑も無く埋められていた、この武将の方が供養で成仏する事も出来ずに、自分の埋められていた場所が、騒がしくなった事に対して、怒りを覚えたのでしょう。特定の個人に対しての怒りと言う悪質な物ではなく、この辺りに居ると気分が悪くなったり、考えがマイナス思考に成ったりとかの程度だと思いますが、どうでしょうか」

「言われる通りの状況です。このインフォメーションに座っていた受付の女性従業員が、みんな一月も持たずに辞めて行くのが最初の状況でした。その後は、この中央部分の施設に近い店程、客付きの悪い状況になって、施設自体が、だんだんと活気を失って行ったのです。このインフォメーションも今は場所があるだけで活用はされていません」


「ここが墓所のままであれば、わざわざ手を下さないでも良いような案件ですが、これだけの施設を作ってしまわれたからには、そう言う訳にも行かないでしょう。除霊自体は可能ですがどうされますか?」

「それはぜひお願いしたいと思いますが、費用的にはどの程度が掛るのでしょうか? そして除霊が行われたと言う証明は、出来るのでしょうか?」


「費用に関しては、原田先生と話をしていただけますか? 除霊の証明は、物理的には難しいですね。その辺りも原田先生と話していただいて納得すればと言う事でお願いします。もう一点だけいいでしょうか」

「何でしょうか?」


「以前除霊を試みたりされましたか?」

「あ、はい。解りますか?」


「この場所だけでなく施設全体に低級の動物例が溢れています。中途半端な霊能力者が霊を刺激してしまった時に、良く起こる現象なので……」


「あー施設全体に漂う、なんとなく嫌な感じの正体がこれなのね」

 

 と、美鈴さんが口に出した。


「そうですね。動物霊の特徴は姿を現さない事なんです。きっと生きていた時の本能なんでしょうね」


 施設長は、原田先生と二人で除霊費用の相談に事務所に行かれた。

 

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