第17話 初仕事

「施設長。今回の除霊に関しては、地縛霊の武将に関しては500万円。そして施設全体に蔓延する動物の浮遊霊たちに関しては、範囲と数がかなり大きくなります。特別な処置が必要になりますので2500万円。合計で3000万円の除霊費用を算出させて頂きます」

「原田先生。それは随分と高く無いですか? 以前頼んだ除霊師は100万円で受けて頂きましたよ?」


「その結果失敗して事態を悪化させただけなのでは無いですか? 高いと思われるなら、もっと安く引き受けるという方に、頼めばいいだけですので構いません。その場合は失敗すればさらに事態は悪化しますので、こちらに再度頼まれた場合でも同じ金額と言う訳にはいかない事を念頭においてください」

「解りました。ただし、手付金で一割、成功報酬で残り9割と言う事にさせて頂いて構いませんか?」


「それは、構いません。この施設が本来の状況で稼働出来れば、3000万円など一月分の利益にも満たない金額でしょうから、良い取引をされたと思いますよ」

「そう思える様になる事を期待します」


「一つ聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「何でしょう?」


「施設長が依頼された除霊師はどう言う素性の方なんでしょうか?」

「神道系のよくテレビでも顔を見かける高名な先生でしたが、この施設の除霊をされた後に、病で倒れられ。お亡くなりになられました」


「やはりそうですか。除霊の失敗と言うのは術者にも多大なリスクが付きまとうのです。逆に100万円程度でリスクを背負いこんでも構わないと言うのは、最初から除霊をする振りだけをされていたのだと思います。それによって本物の地縛霊であった、名もなき戦国武将の呪いを受けてしまったのでしょうね」

「あの…… 原田先生達は何故それを簡単に出来ると仰られるのですか?」


「私達には本物の女神様と聖女様が加護を与えて下さっていますので! それでは早速、取り掛からせて頂きます」



 ◇◆◇◆ 



「さやかちゃん。準備は大丈夫かい? 交渉はうまくいきましたので、早速、始めたいと思います」

「原田先生、一体いくらで契約されたんですか?」


「3000万円です」

「タカッ」


「そうですか? 他の方だと命がけでほとんど成功の見込みが無い仕事ですから、これでも安いくらいですよ」

「そう言われたら、そんな気もしますけど…… まぁ解りました。杉下先生と太田警部は、その目で、しっかりと成仏する様子を見ていて下さいね。施設長さんも警部さんが確認したと伝えて頂ければ少しは安心なさるでしょうし」


「解りました」


 最初に、武将の地縛霊から対処を始める事にして、私がホーリーサークルで縛り付け、原田先生達が水鉄砲で聖水を掛けると言う、お昼と同じパターンで浄化する事に成功した。


 何も言葉を発せずに、こちらを見つめながら消え去って行くときの表情が、少し嬉しそうだった様に見えた。


 何百年もの時をこの地で誰とも話す事も無く過ごして来て、最後に人として見て貰えたことに満足したのかもしれない。


「ここに居た、地縛霊の浄化は終わりました。この場所を囲っている壁は崩して、開放的なスペースを作り、風通しを良くする事をお勧めします。それでは今から館内を浄化して回りますが、広いので結構時間が掛かります。朝までには終わらせますので」


 施設長さんにそう伝えて、みんなで館内を移動しながら、私が浄化を掛けて行った。

 私の浄化だと50m四方の広さを一度に浄化していけるので、夜が明ける前には、駐車場も含めてすべての敷地を、浄化する事が出来た。


「無事に終わりましたが、どうですか施設長さん。感じる空気と雰囲気が昨日までと全く違う事に気付かれましたか?」

「ええ。視えない私でもはっきりとわかります。まるで神聖な場所にでも来たような清々しさがあります。これは他の場所よりも今は清浄化されてると言う事なのでしょうか?」


「はい。仰る通りです。人が集まる場所には少なからず、恨みや妬み、あらゆる欲望などが意識として滞留している物ですが、今はこの施設の全体を浄化してありますので、神聖なる聖地と変わらない状態です。今日以降この施設に訪れた人は、必ず他の方を伴ってこの施設に通ってくれるようになると思います」

「そうですか。ありがとうございます。先ほど原田先生との話の中で出てきましたが、遠藤さんが聖女様なのでしょうか?」


「そうでもあり、違うとも言えます。浄化を行ったのは私の中に居る女神アストラーゼ様の使徒『聖女ソフィア』ですから」

「あの、一つお願いをさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「何でしょうか?」

「ここの霊障を囲っていた壁を壊した後のスペースに、アストラーゼ様を祀るスペースを作り、お客様やこの施設で働く従業員を見守っていただく事は出来ますか?」


「宗教っぽくならない程度に、女神聖教のシンボルを掲げる祭壇を設置する程度でしたら……」

「それで充分です。計画は原田先生と詰めて行くで良いのでしょうか?」


「そういう案件は、金子さんの担当ですね」

「それでは、金子さん。これからよろしくお願いいたします」


「はい。承りました。女神様と聖女様の素晴らしさをお伝えできるような、素敵な祭壇を作りましょう」


 こうして、私達の最初の除霊依頼は無事に終える事が出来た。


「すっかり徹夜になっちゃったね。杉下先生。静岡行はまた今度にしますか?」

「いえ、私は早く静岡の遠藤さんのお宅に伺って洗礼を受けたいと思います。今日の出来事に感動して全然眠く無いですよ先生は」


「解りました」

「太田警部も付き合ってもらってありがとうございました」


「いやいや、こちらこそだよ。遠藤さんの実力を目の前で見て、私も十分に感動したよ。私は、神道の結婚式を挙げたから洗礼を受ける資格が無いのが悔しいと思うくらいだよ。でも、綾瀬君からの提案も貰ったので、これからは君達アストラーゼグループのメンバーと深く関わらせて貰うよ。よろしくな」


 明るくなり始めたけど、原田先生が運転を頑張ってくれて、みんなで静岡の私の家に向かった。

 昼過ぎまで、みんなで仮眠を取り、午後からは杉下先生の洗礼だ。


 女性陣はみんな仮眠後にシャワーを浴びて、一人だけ車に寝ていた原田先生を呼びに行き、軽く昼食を取る。


 昼食を取りながら、綾瀬さんに話を聞いた。

「ねぇ綾瀬さん。太田警部の手数料はいくらにしたんですか?」

「うん。10%だよ。もうすっごいやる気出して、日本中の霊障指定地を紹介して来るかもね……」


「そりゃそうでしょうね。今朝の商業施設だけでも、徹夜一日で300万ならやりがい出ない方がおかしいよね」

「それで、私達の取り分はどうするの?」


 そこは、私と原田先生で話し合って決めていて、教団としての資金で50%。

 残りの40%を案件の参加メンバーで均等に頭割りと言う事にした。


 それでも結構な額になりそうだけどね。



 ◇◆◇◆ 



 その後、この施設が劇的な回復を見せ、多くの人々で連日賑わうようになると、インフォーメーションセンターの後ろに作られた、神聖な雰囲気を感じさせるスペースも話題に上る事になる。


 パワースポットとして全国的に名が知られて行き、人々に『女神アストラーゼ』の名前が浸透し始めるのは、もう少し時間が掛かる事になるが、この商業施設の賑わいの様子から、アストラーゼグループの事務所には、全国のショッピングセンターから、祭壇設置の問い合わせが来る事になり、金子さんはとても忙しくなった。

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