文学少女な幼馴染の最後の本

さーど

【最後の本】

 俺が好きな幼馴染は文学少女で、昔から小説を書くのが好きな女の子だった。

 様々な物語を創造し、それをみせてくれる。小さい頃、そんな日常が続いていた。



 □



 彼女は大きくなって、小説家になった。

 様々な小説を書籍化。世間に出して、かなりの大ヒットを記録している。


 無論、俺は彼女が書く本の全てを読ませてもらっている。

 みんなが読む本を、俺も読んでいる。


 一人の読者として彼女の本を読むことは、俺にとって充分幸せな事だった。

 ただ、胸にポッカリと穴が空いていて……


 それがなぜか、俺にはわからなかった。



 □



「これ、読んで」


 ある日、そう言って幼馴染が差し出してきた本に、俺は目に映す。

 ジャンルはラブコメだろうか?作者は彼女のPNペンネームだけど、僕はこれを見たことがない。


 もしかして……


「これ、献本?」

「そう、さっき届いたばかりよ。サプライズとして、読んで」


 それを聞いて、俺は首を横に振った。


 彼女の本は一読者として、ちゃんと買って読みたいのが俺のプライドだった。

 それは彼女もわかっているはずだ。


「いいから」


 そう何度も押し切られ、俺は渋々その献本を読むことにした。

 ただ、彼女の本を読むことは俺にとってなによりも楽しいため、読むスピードは早かった。



 □



 彼女が書いた小説を読んで、俺は絶句した。

 感想としては……これまで読んできた中で、一番心に来たものだった。

 勿論面白くはあった。ただ、感想にして言うのなら、だ。


「どうだった?」


 生憎と、俺は極端に鈍感な男ではなくて。この小説の意味を分かってしまった。

 そして、彼女のこれからも、分かってしまった。


「……うれしかったよ、とても。人生で一番、幸せに感じる瞬間だった。

 でも……お前、小説家をやめるのか?」

「……うん」


 彼女は困ったような笑顔で頷いた。


「……やめるのか?書くのを」

「……やめないよ」


 泣きそうになって問いかけると、今度は首を横に振った。

 じゃあ、一体どういう……


「あなた、とっても鈍感ね」

「え?」


 意味がわからず、俺は首を傾げるばかり。

 そんな俺を見て彼女は「くすっ」と笑い、俺に近づいてくる。


 俺の目の前に来ると彼女は背伸びして、俺の唇に自分の唇を一瞬だけ合わせた。


 数秒間理解が追いつかず、ようやく理解した俺は顔が急激に熱くなるのを感じた。

 今更、彼女の唇のぬくもりを実感する。


「えっ……」

「あなたのために、書きたいの。昔みたいに」


 そう言った彼女の微笑みは、俺にはとても輝いて見えた。

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