第19話 命名者

 命名者



 「若葉7戦隊!?」


 ガタッと音がして祥太君が腰を半分上げる。

 若葉7戦隊と言った? 今の会話の流れからして霜月さんの口からその言葉が出たと思われる。

 霜月さんは若葉7戦隊を覚えていてそれを佳代さんに伝えたのだ。


 祥太君は中腰でひっきりなしに佳代さんのスマホと自分を交互に指をさし『代われ』という意味のジェスチャーをしている。

 佳代さんは祥太君に背を向けるような姿勢になり掌を祥太君に見せて制止のポーズだ。


 佳代さんと霜月さんはやたらと盛り上がってる様で祥太君はすっかり蚊帳の外になってしまう。


 「んでさー、なんかその時の7人の内の2人が今朝急に家に来たさ、そうそう、メンバーを捜してるとか言ってね。え? 名前? 祥太って変な恰好した男子とナバホとかいう女の子」

 散々な言われ方の祥太君はなおも『代われ』のジェスチャーをしている。


 「え? 祥太? うーん、どうだろう、ま、フツーかな」と言って祥太君を観察するように横目で見ている。

 どんな会話してんですかね?


 「え? 菜端穂? なんかクリスマスのトレーナー着てる、うんうん、4月なのに。ちょっとイモっぽい感じ。そうそう、まあ美人な方? うん、バラ組だって、うん、え? そうそう……うん、あ、覚えてないんだ、やっぱ」

 ガックリである。しかし美人という形容詞を私は聞き逃さなかった。


 「んでさー、なんかその祥太ってのが電話代われってウルサイだよ、どうする? え? 大丈夫? じゃあ代わるよ?」と言ってようやくスマホが祥太君の手に渡る。

 祥太君は何故か身なりを整え、

 「もしもし、初めまして、朝霧祥太です」とあいさつした。


 「突然電話してゴメンね、佳代さんから大体聞いたと思うんだけど、そうそう、若葉7戦隊のメンバーを追ってて今日遥々神奈川から水原菜端穂さんという人と一緒に来たんだ」

 祥太君が霜月さんと電話中佳代さんが顔を近づけて話しかけてきた。


 「シモね、若葉7戦隊の事覚えてたよ。私の事覚えてるか聞いたら、『若葉7戦隊のメンバーでしょ?』って言われたの」

 やはり霜月さんは覚えていたんだ。

 「しかもね、若葉7戦隊って命名したのシモなんだって! 驚きだよね」

 そうだったんだ。若葉7戦隊を覚えてて当然だよね。問題はメンバーかな。



 「うん、それじゃまた連絡するよ」

 祥太君は電話を切るとスマホを佳代さんに返す。佳代さんはそれを肩の辺りでゴシゴシと拭ってから鞄に仕舞った。


 「ふぅ……」と祥太君は息を一つ吐き席に座る。

 「結論から言うと、今日霜月さんと会うことは出来ない」と少しガッカリしたように言う。

 「彼女、今大阪に居るらしいんだ。なんでも連休を利用して観光で関西を訪れているんだって」

 そうか、ゴールデンウィークだったね。

 

 「ただ、今後若葉7戦隊のメンバー捜しを手伝ってくれると申し出てくれて、LINEで若葉7戦隊のグループチャットを作って欲しいとの事なんだ。二人ともいいかな?」

 「うん、勿論」と私は答える。

 「いーよー」と佳代さんも答えてくれた。


 「あと、霜月さんの情報ではメンバーの一人の当てがあるらしい。ただ、そのメンバーの名前は判ってるらしいんだけど連絡先までは判らないんだって」

 祥太君は続けて、

 「次は一度4人で会って情報共有をしたいらしいんだ」と言った。

 「と言う事はもう一回出直さないとダメだね」と私が言う。

 「その事も先程話し合ったんだけど、どうしても学生の僕らが頻繁に静岡まで足を運ぶのは負担になるだろうって霜月さんが言ってくれてさ、会う時はお互いの中間辺りで待ち合わせないかって事なんだよ」

 「中間って言うと?」と私が尋ねると、

 「小田原辺りかな」と祥太君。


 「で、どうだろう佳代ちゃん、その時は君も来てくれるかい?」

 「私は全然オッケーだよ。お金の心配はないからさ、ははは」

 どうしてそんなに金がある? 私は言いかけたが止めておくことにする。


 「じゃあLINEを交換して今日は解散としよう」

 私達はお互いにLINEを交換し新たに(若葉7戦隊)のグループチャットを作った。すぐに霜月さんも参加したとのメッセージが表示される。


 「ナバちゃんはどうする? 実家に帰らなくていいの?」

 「うん、寮に外泊届出してないし実家にも帰るって言ってないから」

 地元に帰りたくないのだ。




 「じゃあ佳代ちゃん、今日はありがとう。すごく助かったよ」

 「佳代さん、本当にありがとう」

 「全然。7人見つかるといいだねー」


 私達は再会を約束し帰路についた。

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