第18話 大森霜月

 大森霜月おおもりしもつき



 「大森霜月おおもりしもつきってのがいたんだね?」と佳代さんが電話口のお友達に確認する。


 「連絡先わかんないかな?」と祥太君が横から小声で佳代さんに聞く。

 「ん? え? ああ、あのさ、連絡先わかんない? そうそうシモツキの。あ、そうなの…………。え? 本当? 助かるーサンキュー。分かったら連絡してー。うんうん、よろしくー」と言って佳代さんは電話を切る。



 「あんさぁ、この子はシモツキの連絡先知らないけど、知ってる子に心当たりあるから聞いてくれるってー」

 「おお! すごい。いきなり4人目にも会えそうだなこりゃ」と興奮気味に祥太君が言う。

 

 「でもさぁ、その若葉なんとか戦隊だっけ? それを今さら探してどうすんの?」

 絶対7って覚えてるでしょと心の中でつっ込む。


 「特にどうすることも無いんだけど、高校でナバちゃんに再会してさ、幼稚園の頃を思い出してたらどうしてもあの時の記憶だけ曖昧なんだ。7戦隊って言ってるけど実際僕は3人しか思い出せないし気になっちゃってね。で、若葉7戦隊のメンバー全員を捜索する事を僕の高校3年間の命題にしようと思ったんだ」と拳を胸の前でグッと握って熱く語る。

 「あ、佳代ちゃんは覚えてないかな? あの時正確に何人いたか」と続けて問う。

 さっき7を思い出せなかったようですが。


 「はっきりとした数は思い出せないねぇ。7戦隊っていう位なら7人じゃないの? でも男の子が祥太だけって事はなかっただよ。まだ男の子は他に居たと思うさ」


 次は私が佳代さんに始めから疑問に思っている事を質問する。

 「じゃあさ佳代さん、これは覚えてないかな? 何故、あの時その7人だったのか。全員組が一緒だったわけでもないし特別仲が良かった訳でもないと思うんだけど」

 「さあ、わかんない。シモも組が同じってだけで家も近くないし普段から良く遊んでた訳じゃなかったし」と佳代さんは肩をすくめる。


 「ひとまず今判ってる事を整理してみよう」と祥太君が口を開いた。


 整理した内容はこうだ。


 まず、何故かは判らないけど、たまたま園庭に7人の園児がいた。

 誰が言い出したか判らないがその7人で幼稚園裏の洋館に探検に行くことになった。

 洋館の庭で各々が探索している時、『カチャリ』という音を全員が聞いた。

 音のした方を見ると洋館の玄関だった。

 玄関のドアノブがゆっくり動いている事を全員かは判らないが確認した。

 誰かの『でたー!』の叫び声をきっかけにして全員が逃げ出した。

 幼稚園に7人全員が逃げおおせたかは今いる3人の記憶には無い。

 

 ここまでが当日の事だ。

 次に現在判っている事として、


 7人の内判明しているのは、私、祥太君、佳代さん、霜月さんである。

 少なくとも、私と祥太君は同じ組だった。それはバラ組。

 佳代さんと霜月さんは同じ組だった。サクラ組。

 男の子は他にもいた。

 私達の学年には他にユリ組とスミレ組があった。


 「とにかく今出来ることは霜月さんと連絡を取ることだね」

 

 とその時、佳代さんのスマホの呼び出し音が鳴る。

 

 「あ、ミチだ」と言って佳代さんが素早くスマホを掴み指をスライドさせた。


 「もしもしーミチー? うんうん、大丈夫。……うん、……うん、え! ホント? 分かった?」


 「おお!」と言って私と祥太君は顔を見合わせる。


 「うん、ちょっとまってね」と佳代さんはペンで書くジェスチャーをしながら私達にアイコンタクトをする。

 祥太君が素早くスマホを出した。直接入力するのだろう。


 「はい、どうぞー。……090-××××-××××」

 祥太君はその数字を確認しながら入力した。


 「ありがとねーミチ。うん、じゃあね、またねー」


 「やったね」と祥太君は嬉しそうだ。

 「どうするの? いきなり電話するの?」と佳代さんが訊く。


 「うーん、電話したいのは山々なんだけど、男の僕より女性の方が良いんじゃないかって思うんだ」

 まあ確かにいきなり知らない男子から電話があると警戒されるかも知れない。かと言って私も霜月さんとは殆ど初対面みたいなものだし、こういう場合少しでも顔見知りの佳代さんが電話してくれると助かるんだけど……。

 私と祥太君は無意識に佳代さんを期待の目で見ていたのだろう、佳代さんは、

 「えー? なに? 私がすんの?」と言う。


 「佳代ちゃん、こうしたらどうかな。まず佳代ちゃんが電話をして身の上を明かす。霜月さんが佳代ちゃんを覚えててくれたらベストなんだろうけど、とにかく若葉幼稚園で同じ組だったと話して欲しいんだ」

 「うん、で? その後は?」

 「そこで佳代ちゃんの事を理解してくれたら僕に代わって欲しい。そこからは僕が霜月さんと話すから」

 「マジかー」

 「頼むよ佳代ちゃん」と祥太君は両手を合わせてお願いする。

 「……うーん、ちょっと気が重いけど、乗りかかった船だ、いっちょやったるか」

 「おー、ありがとう佳代さん」と私は手を叩いた。


 「その前にコーラお代わり」と佳代さんが席を立とうとする。

 「あ、私が買ってくるから、私も飲み物お代わりしたいし、祥太君はどうする?」

 「じゃあ僕もアイスコーヒーをお願い」


 私はカウンターに向かいドリンクを注文した。


 「おまたせ」と言ってドリンクを皆の前に並べると佳代さんはそれを一口飲み、

 「じゃあかけるよ?」とスマホを掴んで訊く。

 私達は無言でうなずいた。


 佳代さんは番号をタップし耳に当てる。


 なんかドキドキしてきた。


 「………………もしもし、シモ?」


 えー? いきなり名前呼びですか? 私はいささか驚く。


 「私、佳代だけど……、覚えてないかな? 幼稚園でさ、同じ組だったさ。うん、うん! そうそうそう! うんうんうんうん! そーそーそーそー!!」

 なにやら盛り上がってますな。


 「え? 覚えてる? そーそーそーそー! そーそーそーそー! え? 当たり前? うそーん、マジでー? うんうん、え? え? えー!! 今なんて言った?」

 

 次に佳代さんは衝撃の発言をする。



 「若葉7戦隊!?」

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