第10話 真実

「なぁ。長老たちよ。そろそろお前たちが必死に隠している真実を話してもいい頃合いだと、私は思っているが。どうだ。」

朱伎は落ち着いた声で問いかける。


まっすぐな朱色の瞳で長老たちを見つめる。里のすべてを知っているだろう長老たちに向けた言葉だ。彼らを蔑ろにするつもりはない。だからこそ自分たちの意思で動いてほしいと願う。


朱伎のその瞳はすべてを知っているかのようだった。


「え…。」

「は…。」

文と游が同時に呟いた。


長老たちは朱伎の言葉に思わず息を呑んだ。全員が一瞬で朱伎が真実を知っていることを悟った。そして知っているからこそ神獣の開放を決めたのだと理解した。


「どういうことだ?」

辰が不思議そうに尋ねた。


「何のことですかな?」

伊那は落ち着いた声で尋ねた。


落ち着いた声だが明らかに何かを隠しているというか、何かを必死に隠しているようだった。

長老たちは過去の歴史を自分たちの胸にしまっていた。未来を護るためだと信じていた。


「こうやって話す機会を作っている。この時を逃すな。意固地になるな。私はお前たちを責める気はない。誰も責めることはないだろう。すべてを公にする気もない。そのためにこの会議を開いて長老たちを集めた。」

朱伎は穏やかに微笑んだ。


彼らから真実を聞くために最高官吏会議に長老たちを招集したのだ。誰も責める気もない。公にする気もないが、里の中枢にいる人間は知るべきだ。この事態を収めるためにも知ることは必要だった。


「年を取るという事は、頭が固くなり腰が重くなるという事かもしれんな。この子らは若く大いなる可能性を秘めていると思わないか?この子らがこれまでとは違う新しい歴史を作ってくれるのかもしれしれんな。我ら年寄りにできることは若いこの子らを信じることではないか?」

朱李はにっこり微笑んだ。


静かに落ち着いた声で孫を擁護する。長老たちの懸念していることも分かるが、朱伎の頭首としての想いも痛いほど分かる。

そして現段階では、朱伎の考えを押す。自分が頭首であれば同じことをしただろうと思う。

年寄りの自分にできることは若いこの子たちを信じることだけだ。


「確かにそうかもしれんな。」

一茉が静かに微笑んだ。


「良いのですか?」

文が朱李と一茉に静かに問いかける。


「時代は変わりゆくモノだ。すでに我らの知る時代ではなかろう。黒い歴史が終わる時かもしれんな。若い子らに託す時なのかもしれん。だから儂はこの子らにすべてを任せたいと思う。」

「儂も同じじゃな。」

朱李に一茉が続いた。2人は穏やかな表情だった。


すでに時代は変わっている。自分たちが創った時代の上に新しい時代が重なる。自分たちが創った黒い歴史を若いこの子たちが買えてくれる信じたい。


「新しい時代。」

游が静かな声で呟いた。

「時代は変わった…。」

伊那も同じように呟いた。


長老たちは静かに考えた。その表情はどこか悲しそうだったが、どこかホッとしているようにも見えた。

大きな重圧から解放されたようなそんな表情にも見えた。


「黒し歴史って?」

蘭が首をかしげた。

「真実と言うのは?」

辰が続いた。


「神獣と呼ばれ恐れられている者たちの真実だ。」

朱伎は落ち着いた声で言った。


「え…。」

四聖人の前任者たち3人は静かに呟いた。

この場で真実を知らないのは彼らだった。


「お主は知っていたのだな。」

「私だけじゃないぞ。」

一茉の問いに朱伎はにっこり微笑んだ。


「朱李…。お主も知っていたのか。そうか。頭首様たちはずっと我らが必死に隠していた真実を知っていたのじゃな。」

一茉は静かに微笑んだ。


そういうことかと納得した。歴代の頭首たちも自分たちが長い間、隠していた真実を知っていた。それだけで心の重荷が取れるような気がした。


「ああ。」

「私たちの中に流れる血が、遠い過去の記憶を教えてくれる。真実を記憶の中に見せてくれていたから知っていた。だから、時が来ることを待っていた。彼を開放する時が来る時を。それが私の時代だということだ。」

朱李に続いて朱伎は静かに微笑んだ。


ずっと昔から頭首はすべてを知っていた。自分たちに流れる血が遠い過去の記憶を呼び起こしていたが、真実を公にすることはなかった。

ただ、時が来ることを待っていた。


「真実の記憶…ね。」

文が静かに呟いた。


そう言われれば納得できた。確かに歴代の頭首たちは何も言わなかったが、知っているのではないかと思うことはあった。

それを見ないふりをしていたのは自分たちだ。


「それで、真実とは?」

蘭が静かに尋ねた。






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