第11話 真実

「そうだのう。どこから話そうか。」

一茉が静かに微笑んだ。


「始めから…昔話をしては?」

朱伎は穏やかに微笑んだ。


「そうだのう。それでは、少し付き合ってもらおうか。」

一茉が静かに瞳を閉じた。


その場の全員が瞳を静かに閉じた。彼の記憶を見るためだ。


《遠い遠い昔》

神獣たちは神麓山に静かに住んでいた。

東に青龍。西に白虎。南に朱雀。北に玄武。東西南北にそれぞれの種族の群れを成し、神麓山を護っていた。


神麓山には死んだ者の魂が眠る。その魂の行く末を護るのが神獣たちの役目だった。


各々の種族に役割があり、亡くなった者の魂をこの場所へ導くのが玄武。

この地への度の途中に彷徨った魂を導く役目を朱雀。

神麓山に入る魂の声を聴き、安らぎを与え眠りへと導く役目を白虎。

青龍は未練を遺した魂を人間の世界に戻ることのないように説く役目を担う。

各々が役目を果たすことで神麓山の魂は護られていた。


神獣たちの身体と魂が強い未練を遺した魂に奪われることはない。

彼らは神麓山を護るための力を与えられた特別な存在だった。その使命を背負い、この地を護ってきた。


だが永い時が流れ、強い未練を遺した魂が形となり始めた。いくつかの強い未練を遺した魂が集まり強い力を宿した魂が生まれ、それまでの沈黙を破ってしまった。


神獣の身体と魂を奪うことに成功してしまった魂があった。その魂は神獣の強い力を得ることとなった。

身体と魂と力を手に入れた魂は人間の世界に戻った。魂の集団となり人間の世界を破壊していった。


永い戦いが始まった。多くの人間たちと神獣たちが犠牲となった。

多くの無益な血が流れた。子供も大人も関係なく、弱い者たちの血が流れた。


森羅の里が造られる前のことだ。

神麓山に近い国の人々の中でも強い力を持つ人間たちが集い戦ったが、尽く敗れた。誰にも止めることができなかった。


蘇った魂を人々はいつしか(影)と呼ぶようになった。

黒い煙のように、まるで影のように人間の身体に入っていく姿を人々はそう呼んだ。

影は多くの力を呑みこみ強大な力を得ていった。どうやって力を得ることができたのか分からないが、その力は絶大だった。


人間たちは永い年月、恐怖に怯えながら暮らすことになった。

人々はいつしか戦意を失っていた。


そんな中、光が現れた。暴走した魂の力を抑え神麓山に封印し魂たちを眠りにつかせる事が出来る力を持つ者が現れた。


後の森羅の里・初代頭首だ。彼は神獣たちと共に戦った。すべてを終結させるために戦った。終結させるために生まれた時代の申し子だ。


彼は力を持って生まれたが、彼自身そのことを知らなかった。

だが1人の神獣と出逢い彼の人生は変わった。彼の妻となる神獣と出逢った。


神獣たちは彼に可能性を見出した。彼の力だけでは敵わないが、神獣の力を得ることで対になる力を得ることができると考えた。そして彼の強い心を信じた。


彼はその神獣たちの期待に応えた。すべての影を封印することに成功した。


彼は、すべてが終わった後、神麓山を護るために神麓山の麓に森羅の里を作り初代頭首となった。

いつの日か封印が解かれる日が来ることを彼は分かっていたようだった。封印することしかできなかったのだ。


しばらくの間、神獣たちと人間たちは森羅の里で共存していた。そこには平和があるように見えたが、永くは続かなかった。


人間たちは神獣たちの持つ力を恐れながらも、その力を利用しようとした。神獣の力を欲し、初代頭首のように神獣の力を手にできると信じた。

そして神獣たちを狩り始めたのだ。


初代頭首の妻さえ狙われた。初代頭首は妻と神獣たちを護るために里から神麓山へ逃がした。


だが、このままでは神獣狩りは無くならないと考えた初代頭首は、神獣を恐れるものと伝えることにした。

人間に神獣の力を見せつけ、恐怖を与えるために親友である妻に里を襲わせた。他の神獣ではなく自分の妻にその役を務めさせた。

そして初代頭首自ら神獣である妻を討伐した。彼女は自らその道を選んだ。


彼女は特別な存在だった。神獣の中でも特別な力を持っていた。

誰よりも強く美しい魂の持ち主だった。

そして自分が何のために生まれたのか。己の運命を知っていた。


その事実を知る者は頭首と当時の四聖人、そして頭首の世話役だけだ。長老たちは四聖人の子孫だ。亜稀は世話役の子孫だ。

その事実を里の人間が知ることのないように初代から命を受けた。

だが、いつの日か真実を知るべき時代が来た時は、真実を語ることができるように子孫につないだ。


そうして真実は語られることなく今の時代まで来た。





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