第11話 ●終章 ~ 無理無理無理
「あー、楽しかったー!」
フォルテは王都からオダワ町行の馬車の中で、思いっきり伸びをしながら、今回の試験の感想を述べた。
「フォルテさん、もう腕は大丈夫なんですか?」
ノワールは大けがをしたフォルテの腕の心配し、声をかけた。
「うん、すっかり平気。なんかケガする前よりも調子いいみたい♪」
フォルテは腕をブンブン回しながら、傷がすっかり癒えたことをアピールした。
(確かに腕の大けがをしたのは腕だけど、あなたにとって重要なのは指だろ?)
とノワールは内心思ったがあえて突っ込まないことにした。
「寝て起きたら治っていたんだけど、きっとあの『オダワ町の不審者』さんが治してくれたんだよね。どうやったらそんなことができるんだろ?先生しらない?」
「いや、全く。」
フォルテの質問にノワールは即答した。
もちろん、当事者であるノワール(不審者)は知っているが、ここでその不審者は私です、などと答えわけがない。
「先生、あの『オダワ町の不審者』さん、と知り合いじゃないの?」
「いえ、全く。」
「それより、フォルテさん、なんで宮廷音楽家入りを断ったんですか?」
これ以上、不審者の話題に触れられたくないので、ノワールは無理やり別の話題へと切り替えた。
「あ、私のゴールは試験に合格することだから。宮廷音楽家になっても、なんか息苦しいだけだしさ。」
確かに、フォルテの天才肌的な感覚は、宮廷音楽家の集団の中では個性が消される可能性があるので、宮廷音楽家にならない、というのも有りかもしれない、とノワールは思った。
「それに、試験に合格したってことだけで、箔がつくし、町でコンサート開けば町のみんなに貢献できるでしょ♪」
「たしかに。」
「それと、このあとピアノの家庭教師の依頼がたくさん舞い込むかもしれないでしょ♪」
「フォルテさん、家庭教師だけはやめた方がいい。」
ノワールのフォルテに真顔で提案した。
「なんで?」
「だって、あなた、人に教えるの下手でしょ?」
その瞬間、フォルテの右フックがノワールの左わき腹にめり込み、ノワールは再びくの字に体を折り曲げた。
そんなこんなで、帰りの車中は、今回の良い結果もあって、終始和やかな雰囲気だった。
その雰囲気を察してか、馬車を引く馬の足取りも、どこか軽やかに感じた。
お節介な【稀能者】は針を打つ ~慣例を打ち破り、宮廷音楽家試験に合格せよ!~ まゆずみかをる @ka23ka10h
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