第10話 ●復讐 ~ お節介だね

その後の合格発表は、受験生たち全員が合格、という予想もしない事態になり、フォルテを含めた受験生たちの歓喜で沸き立った。


だが、ただ一人チュー派閥のネミだけは複雑な顔をしていた。


本来ならば自分一人がスポットライトを浴びるはずだったのだから、内心穏やかではないだろう。




「クソ!なんだあの女は!勝手なことしやがって!!審査員長だからってそんなことが許されるのか!!」


当然心穏やかではないのは、派閥の長であるチューである。


自らの顔に泥を塗られたことに怒りがまだ収まらず、宮廷音楽家協会の自室にて、ごみ箱を蹴り飛ばしている。


「あんな、小娘がこの協会のトップにいること自体がおかしいんだ。あいつさえいなければ、あいつさえいなければ。」


「そうだよな。あいつさえいなければいいんだよな。」


チューは自身の問いに納得したように、携帯電話を取り出した。




次の瞬間、チューの後ろに黒い影が現れ、一瞬何かが光ったと思ったら、チューの目の前が真っ暗になった。だが目の前が暗くなっただけでなく、音も聞こえない。


(なんだ、何も見えないし、何も聞こえない、一体何が起こってるんだ。)


だが、しばらくすると視界が開け、音も問題なく聞こえるようになっていた。


チューは一体何が起こったのかわからなかったが、気を取り直して、携帯電話であるところに連絡をしようとした。


この流れからするとそれは、スラーを消すことの依頼である。


だが、携帯電話を操作しようとしたが、指が全く動かない。


「な、なんで動かないんだ!なんでだ!なんでだ!なんでだー!!!」


チューの絶叫が部屋中に響き渡った。




チューの部屋の外にはノワールがいた。


先ほどの黒い影はノワールであり、チューが携帯電話を操作できなくなったのもノワールの能力のためだった。


スラーが改革を行ったことから、チューが逆恨みをし、スラーを消す行動に出ることを見越しての行動だった。


まず、ノワールはチューの神経に針を刺し、運動神経と感覚神経を麻痺させた。チューが何も見なく、何も聞こえなくなったのはこのためである。


そして、その後チューが人に害する行動をしようとすると体が硬直する楔となる針を打ち込んだのである。


そのため、チューはスラーの殺害を依頼するために携帯電話を操作しようとしたが、体が硬直して操作できなくなっていたのだ。




ノワールが廊下を歩いていると、スラーが正面から歩いてきた。


「あら?もしかして何かやってくれたのかしら?」


スラー問いにノワールは、明後日の方向を向いてそしらぬふりをした。


「相変わらず、お節介なんだからねー。あんなチューなんて、わたし自身でなんとかできるのに。」


「よく言うよ、ボクがこうすることは、お前の計算の中に入っていたんだろ?」


スラーも【稀能者】であり、ノワールとスラーは互いの詳しい能力はわからなくても、【稀能者】であることと、ある程度の互いの能力は認識している。


そのため、ノワールとしては、チューが何かしてきたとしても、スラーには軽くあしらえるだけの力は持っていることは十分承知である。


ちなみに、【稀能者】の素の身体能力は、通常の人間の数十倍である。




スラーはお節介なノワールがきっと行動してくれる、との確信があった。


カフェで二人で話したとき、『それになんと!今回はあなたがいるじゃない。このチャンスを逃す手はないかな、って。』と言っていた、このチャンスというのは、ノワールが楔を打ち、不殺で、今後チューがスラーに害を及ぼさないようにすることを意味していたのだろう。


そのようにすることにより、今後の宮廷音楽家協会の運営もやりやすくなる。




「ま、いずれにしても助かったわ。ありがとう。」


「こちらこそ、フォルテさんの合格に尽力してくれてありがとう。」


そう言ってノワールはスラーに感謝を述べて別れようとした。


「あ、そうだ、フォルテさんから聞いた?」


スラーは思い出したように、ノワールに問いかけた?


「え?何を?」


「あの娘、宮廷音楽家になること辞退したわよ♪」


「は???????」


ノワールはスラーの言葉に、思わず間抜けな声をあげてしまった。

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