第25話 2126年 2月5日 20:00 状態:生存

 生き残るためのマニュアル


 シェルターには様々な備品が保管されています。

 あなたの工夫次第で、シェルターは驚くべき変貌を遂げるでしょう。



 上位者と会った後はいつも嫌な気持ちにさせられる。全て分かっているらしいのに、あえて俺に言わせようとする所とか、思わせぶりな態度が癪に障るのだ。


 向ける場所を失った苛立ちを抱えたままだが、次の行動に移らなければならない。実験を行う場所の確保だ。まずミュータントをシェルター内に入れる訳だが、奴らが得体の知れない細菌やウイルスやらを持ち込んでしまう可能性があるため、実験室の前にもう一部屋、密閉できる場所が必要だ。


 感染症研究所の様に、ホットゾーンと正常な世界を隔てるグレーゾーンが必要になる。オートクレーブや安全キャビネット……幸いにもこのシェルターには様々な実験器具があるので、後は場所を確保するだけだ。


 もし此処が実験シェルターだったらこんな面倒な事はせずに済むのだが、生憎ながらそうでは無い。元々は実験室を備える計画だったが、戦前のごたごたで間に合わず、『実験器具と実験室に改造可能な部屋の作りでどうにかしてね』という何とも無茶な作りになってしまった。


 場所は倉庫室がいいだろう。そこなら二部屋連なっているし、前後のドアが同時に開いてしまう事も無い。中身は生活空間や空きスペースに置くことにしよう。居住空間が少々狭くなってしまうが仕方あるまい。


 倉庫室は二部屋連なる構造になっており、前がトイレットペーパーや歯磨き粉などの生活用品。後ろにシェルター内の保全や必要であれば修理を行う道具を仕舞っている。


 奥の部屋は外からの収集物を保管できるようにスペースが多めにとられている。そのお陰で思ったより外に出す荷物は少なくて済んだ。問題は前の生活用品だ。


 崩壊後の世界では確保困難になると戦前のインテリ達は考え――実際にそうなったが――結果として天井に届かんばかりの量が用意されているのだ。


 当然捨てるなんて事は出来ないので、色々な所に分散して置いておくことにした。トイレットペーパーはトイレの棚に山の様に持ってもまだまだ残っているので、武器庫と食料の保管場所に大量の段ボールが置かれる事となった。歯磨き粉やティッシュペーパーなども同様だ。芯を抜いてこれだけの量があるならしばらくトイレットペーパーには困らないだろう。


 シェルターの保全用品は大変だった。基本的にコンピューター管理だとしても、人の手が何処かに必要になる。だからこそ大小様々な金属やらコンピューター用品やらが山積みになっている訳だが。


 こういった製品は錆びないように管理するのが大変だし、トイレットペーパーみたいに芯を抜いて小さくする事も出来ない。仕方が無いので別の倉庫室に押し込み、それでもなお入り切らなかった分はリビングに置く事になった。


 どうにか二部屋を確保できたが、代償としてもう一つの倉庫室が迷路のようになり、リビングでは大量の段ボールと生活を共にする破目になった。


 前にある部屋は準備室になるので、防護服のロッカーや、エアシャワー、排気浄化システムなど、数多くの改造を施す必要がある。


 奥、実験室になる部屋の改造はもっと大変だ。実験に必要な安全キャビネットやオートクレーブなどの器具は大きいし、部屋全体を陰圧に保たなければならない。何処まで出来るかは分からないが、やれる所まではやるつもりだ。


 全ての作業を終えた頃には夜だった。久々に夢中で作業する楽しみを感じる事が出来た。所詮こういった面では素人の、なんちゃって実験室だが、バイオセーフティーレベル3程度には出来たと思う。


 今日の作業はこれで終了。明日からミュータントの捕獲に取り掛かろうと思う。



 日記を書くのは久しぶりになるが、こうして書くことが出来て幸運に思う。

 幾度となく死にかけたが、それでも今生きていられるのは運以外の何物でもない。

 上位者の事は気掛かりだが、今は出来る事をするだけだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る