第7話 2126年 1月20日 7:17 状態:軽度のストレス

 生き残るためのマニュアル


 睡眠はしっかりと取りましょう。睡眠不足は様々な弊害をもたらします。

 寝具が合っていないようなら、倉庫に様々なサイズの寝具を用意しています。

 睡眠薬も備えていますが、極力使用は避けて下さい。


 ◇


 珍しく早く目が覚めた俺は、食料庫から今日の朝食を漁っていた。元々六人で生活するはずだったこのシェルターには大量の食料備蓄がある。かなりの間食っていけるはずだ。


 山と積まれた缶詰の中から適当に一つを取り出す。その時だった。全ての照明が消え、直ぐに点灯した。それと同時にシェルター内にクリーチャーの叫び声が響き渡る。


 俺は面食らって外へ飛び出し、ベルトに挟んであったPx4を抜いた。遅かった。クリーチャーは目の前で大口を開けていた。俺は為す術もなく押し倒され、首元に噛み付かれた――


「おはようございます。朝です」


 目が覚めた。最低の気分だ。首元に触れてみるが、痛みも出血も無かった。あれは夢だ、最悪の類の。普段は喧しく感じるデバイスの目覚まし機能だが、今日ばかりは感謝せねばなるまい。俺は枕元で充電コードに接続されたまま、無機質な声を繰り返すデバイスを黙らせた。


 このシェルターにクリーチャーが侵入することは有り得ない――未だ激しい動悸を続ける自分の体にそう言い聞かせる。


 シェルターは最先端技術の結晶だ。今俺が居るリビングに、武器類を保管する武器庫。食料を保存する食料庫。バスルーム。自動医療システムを導入した医務室。六人分の個室、倉庫。全体の電流を賄うリアクター室。それらを守る二つのエアロックと汚染除去シャワー。それら全てが戦前の最新技術だ。


 二つのエアロックは網膜認証でしか開けられないし、そもそもここはマンホールに偽装されているのだ。もし何らかの存在が――大抵クリーチャーだろうが――エアロックを突破しても、汚染除去シャワーが待っている。


 汚染除去シャワーはシェルター住居者以外を“汚染源”と見なしている。もし汚染源が侵入すれば、即座に前後のドアを封鎖。速やかに内部を二酸化炭素で満たし、汚染源を窒息死させる。死体は通常の汚染除去プロセスに則ってクリーンにされ、死体を処分するのは俺の仕事だ。


 ひとしきり自分を安心させた俺は、今日予定していた仕事を行うことにした。昨日シェルターを整理していると、小型の無線機とフレアガンを発見した――備品を管理できていないのはどうかと思うが、目録は一七〇〇ページもあるんだ。


 今日からそれを使い、シェルターの目の前にある六階建てビルの屋上から生存者探しをすることにした。午後三時に放送とフレアを打ち上げるつもりだ。だが、その前段階として、ビルに巣くっているであろうクリーチャーの掃討を行わなければならない。


 タイムリミットは日が沈むまでだ。夜になるとクリーチャーがどんな振る舞いをするか気にはなるが、自分で実験する気は無い。


 俺は朝食を手早く摂り、装備を整えてシェルターを後にした。

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