第3話 2000/4


---------------------[短文のコーナー]------------------------------------


[I'm ready to love]



さくら舞い散る丘の坂道。

駆け抜けてゆく、少女はひとり。


....今日は、とっても、素敵な気分。

....なにか、いいこと、起こるカモ!。


快速、健脚、疾風のよう!


今日から、始まる、新しい時。

期待、予感、楽しいこと、が。


駆け出してゆく、彼女はひとり。

ショートカットの髪なびかせて。


花の、かほりが、漂う、丘に。

彩るように、華やかに。


はやる気持ちをなだめるように。


「....あ.....。」


友達が、彼女を呼び止めようと。

....でも、今の彼女は、まっしぐら。

...に、走りつづけて。


校門をくぐり、煉瓦の時計塔。

古びた青銅、鐘が揺れ...。

風に、桜が舞い踊る.....。


準備、OK!用意、よし!。


今日の私は、とっても平気。

なにがあっても、大丈夫!


I'm ready to love.....!




[作:shoo 2000/4]


---------------------[長文のコーナー]------------------------------------




[Tomorrow]




Glass-Tower。

硝子の塔。

そう比喩されるビルディングの立ち並ぶ風景。


都会の森。

そう呼ぶ人もいる。


様様な情景が交錯あい、ディテイルが重なり合い、演劇のように。


都市は劇場だ。

すらりとした長身の少女が、Gracefulな髪型をして、通りすぎる。

ゆったりとした服装は、何処か東欧の女のようにも思える。

長いスカートが、ビル風にはためく。

彼女がこのような都市感覚を持ち合わせていたかどうかはさ定かではない。

都市はそこに存在する者たちに演出をさりげなく行うものなのだ。

自然に。


スクランブル交差点の傍らの舗道を颯爽と歩いている。

やがて、交差点にさしかかり、彼女はシグナルが変わるのを待つ。


小春日和が、穏やかに。

綿雲のあいだから顔を出す。


彼女の瞳に、アイ・キャッチのようにレフがあたる。

ダイバーズウオッチをした男の子の、ガラスハッチに光線が跳ねたのだ。


眩しそうに。


表情が崩れた。

何かを思い出したふうに。

幸せそうな微笑み。


Flush-back?


屈託のない、はじけてしまうような笑顔。


ある時期、高揚感が持続するような時期が誰にもあるものだ。


Natural-High。


シグナルは変わり、スクランブルへと歩き出す彼女、


バレッタを外し、長い髪を振りほどく。


その表情は、やがて来る夏の時代を予感させるかのようだ。


いつの日か、Nostalgicに回帰する時が訪れるのであろうか。


彼女にも。


今の、私のように。



不意に、視線が遇った。

長い髪を振り払おうと、振り向いた拍子に。

奥まったガラス・エリアのキャフェテラスに僕はいる。

こちらに気付くとは....。


大きな瞳を見開き、こちらを見ている


あまり突然なので、黙って僕もそのまま固まっていた。

裾をひるがえすと、あざやかなターンでこちらに歩いてくる。


そのシーンを、映画でも見るかのようにぼんやり見ていた。


なぜか、現実感が希薄だ。


ブロンズ・グラズのドアを開いて、大股にやってくる。


ちょっと、ジュリア・ロバーツみたいにも見える。

すこし、きつい表情。


「おじさん!」


「...なにかな?」


「カメラマン?」


テーブルの上の、 Nikon-FE 。300mm F4.5 が装着されていて、大砲みたいに見える。

これでのぞいていると思ったのか?


「まあ、そんなところ」


「あたしを撮ったの?モデル料高いわょぅ。」


その、おどけた表との落差に、思わず微笑んでしまう。


差し向かいの、白いキャスト・チェアに座る。


「何か、飲むかね?」


「いいわ。」


「遠慮しなくて、いいんだよ。『モデル料』だ?」



「じゃ、スペシャル・パフェ!」


もう、大人びているように見えて、そんなところに少女らしさを感じ、

笑みがこぼれる。




「可笑しい?」


僕の表情に気づいたのか、彼女はそう言う。


「いや、若いっていいなあと思って。」




僕は素直にそう答えた。


なぜだろう。開放的な感じ。素直に話せる。




「おじさん、そんな事言ってるとホントに叔父さんになっちゃうよ!」


そう言い、さっきの昂揚が残っているのか、明るく笑う。




「君だって、“おじさん”って呼ぶじゃないか」

「そうね、はは..」

「楽しそうだね。」

「Hi。なにか、いいことありそうって感じ。 」



「それが若いってことなんだよ」

「そうかしら?」

「そうさ。さっきだって、何か楽しそうだったよ?」

「あぁ〜!見てたの、ぃやねぇ。もう!」




「おじさん、ヒチコックの映画みたいね。」

「Back Window のことかい?」


「そうそう。」

「あんなにかっこいいか?」


「いやー!haha、たとえば、の話よ。たとえば。似てるわけ無いじゃない!」



キャッチボールのように会話。飛び交う。



「そうか...。」



「あ、でも、少しは似てるわよ。」



「背中、似てたんだ。」


「誰に?」


「うーん..。」


「ああ、そうか。君の彼氏か!」


「そんなに...。あけすけに言わないでよ。恥ずかしいじゃない!」




「ごめん」


「その子の事が好きなんだね。」


少女、黙る。俯く。

やはりいいものだ。若いというのは。

如何に今風に装っていたとしても、やはり..。

こころの中までは、装うことができない。


Innocentな感情。



「でも」


ぽつりと言う。


「まだ、不安なの・。」


「そういうものだよ。」


「そうかなぁ...。」




花瑞木が香る。 午後のキャフェ。




「よし!」


急に、立ち上がる。




「おじさん、ありがと!なんか、すっきりしちゃったぁ!」



にっこりと笑う、その表情に、どこかあどけなさが残る。




ぺこりと頭をさげて、さっきのように鮮やかなターンを決めた。


ブロンズ・グラスのドアを抜け、舗道に。





こちらを振り返り、軽く手を振った。


キャフェのガラスに光がはねて、ベス単のフレアみたいだった。





「お待たせ致しました」




「あ.....。」





ウエイトレスが、スペシャル・パフェを置いていった..。



Nikon-FEは、かわいらしいスペシャル・パフェの隣で、居心地が悪そうだ。



さっきの、僕のように....。








[作:shoo 1999/10 ]



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