第9話 最高の紅茶


 夕景の余韻に浸りつつ部屋に戻ると、また水が飲みたくなった。夜10時半頃。

 しかし……夕食前に寄ったスーパーで、水を買わなかったのだ。

 残り1本となったペットボトルの水をいま飲めば、明日どこかのサービスエリアに着くまで、持ち歩ける水が無くなる。

 それはいささか心もとない。


 そうだ。ホテル内で水を買おう。

 フロントにいる人に声をかけたが、販売用の水はないとのこと。ホテル内のレストランで飲み物を飲むことなら可能らしい(※)。


 アイスティーを注文することにした。

 ほかにお客はいなかったし夜遅いので、きっといちばん片付けの楽な席に通されるだろうと思った。

 

 しかし、なんと夜景が見える席に案内してくれた!

 ライトアップされたモン・サン・ミシェルが、島ごと窓いっぱいに見えて最高だった。

 ライトに下から照らされ、夜の闇に浮かび上がる石造りの聖地は、昼や夕刻の景色とはまた違った、華やかながらゴシック的な魅力に溢れていた。


 喉と心を潤す最高の紅茶だった。



  *  *  *



 部屋でシャワーを浴びることにした。その前にビーチサンダルをバスルームの外に移す。


 新聞紙でサンダルを包んだり、湿気を吸収させるための詰め物をたくさんしたりして箱に入れた。

(そうしたのがシャワーの前か就寝前か翌朝の出発前か思い出せない。ともかく湿気が悪さをすることはなくて済んだ。当日中のうちに意外なほど早く乾いていた気がする)。


 明日ヴェルサイユ宮殿へ行くのに、汗臭いままでは恥ずかしい。

 やっぱりシャンプーがしたいです!

 ホテルの水事情に対応すべく、いつもよりシャンプーの使用量を少し減らして大雑把な洗髪で済ませようとした。

 それでも洗い流すには1分半(※2)に収まらず、お湯がまた出る時を待つことになった。


 ドライヤーにも制限時間(※3)があった。もともと髪が熱くなると休み休みするほうだったので、それはさほど困らない。

 シャンプーを手抜きしても乾かす手間は減らないのだった。

 あいにく地球環境に優しくできなかった。


 白状すると、お風呂中に自分のたてる音しかしないのは怖いのでTVをつけている。旅行中もそうだった。

 丁度良くサッカーのW杯の試合中。怖さを消すのにはスポーツ中継が良い。いちばんは日本の大相撲。でもここはフランスなので番組が違う。



 明日はスカートとヒールの低いパンプスとバッグという、今日とは全く異なる服装で行く。荷物の入れ替えに時間がかかった。


 おやすみなさい、絶景の聖地モン・サン・ミッシェル。




(次回、ヴェルサイユを目指します!)


 

(※、※2、※3)具体的な数字は違ったかもしれません。今は状況が変わっているだろうと思います。


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