第17話 盲信の聖騎士、竜

「嘘っ、イフィリスト! イフィリスト!」


 信仰の聖女が自らの聖騎士を呼ぶ声が闘技場に虚しく響き渡る。


「……」


 盲信の聖騎士の死に、歓待席から駆け降りるようにして、信仰の聖女が降りてくる。


「イフィリスト……嘘でしょ」


 信仰の聖女、フィデューセ・アブソリュートス。

 一見、生真面目そうな少女。彼女は一体何者なのか。


「……何だあれ」


 偽善の聖騎士、ウィルは右手に持つ剣をまた構える。私の目にも、映った信仰の聖女には目が三つあった。額に表れ、涙を流す三つの目。


「貴様が、イフィリストを……許さない」


「何言ってんだ、てめえ」


 余程、『盲信』は信仰の聖女に取って大切だったらしい。でも悲しいけどこれが戦争なのよねと偉い人は言っていた。


「殺してやる」


 殺意と涙に濡れた少女の目。

 三つの眼球には、中指を立て嘲笑う私が映る。


「やってみせろよ。奇形が」


「お前の背骨をかみ砕いてやる!!」


 そういって、彼女は首から下げたペンダントを引きちぎる。


「開放!!」


 金切り声と生命としての危機感を刺激する咆哮ほうこう


「えぇ、マジ?」


 信仰の聖女、フィデューセ・アブソリュートス。

 聖女は本来、それぞれ権能を持っている。だが、彼女は権能を持たない。


「この世界……まだ竜いんの?」


 三つの瞳、黒く美しい鱗、二対の羽を持つこの世界における最強種・ドラゴン。存在そのものが権能、信仰の聖女とはその不吉な目が故に捨てられた、まだ少し幼い竜だった。


「フッ、はははははは!」


 何で笑ったか、


「ウィル! 君の拝命の祝いだ、竜殺しの名誉をやろう!!」


 巨大な竜に対峙する私の聖騎士は、左手を大きく振り火薬槌パイルハンマーを再装填する。つまりは、


「ーーーーーっ!!!!」


 確実に殺すための宣誓。

 とても優しい少年は、生きる為に強くあろうとした。だから彼は分かってる、目の前の竜の少女は殺さなければならない。分かり合うことはできないから。


 三つ目の竜が、咆哮。

 合わせて、弾かれるように『偽善』の聖騎士は走り出す。


 彼を叩き潰そうとした腕に、正確に鱗の隙間へ曲剣の刃を入れ切り裂く。しかしこんな傷では彼女を殺せない。圧倒的に人間のウィルと竜のフィデューセでは彼我の大きさが違いすぎる。


 竜のお約束、火炎ブレス。尻尾叩き付け、その全てを避けていると、


「?!!」


 頭にある三つ目の目が、妖しい光を発し始める。


「っ!!!」


 強くなった光に、ウィルが不自然に浮き始める。


「あれは……」


 どう見ても、マズい状況。


「ウィル! これを使え!!」


 自身のスカートに入れていた拳銃マッチロックガナーを取り出し投げる。


「?!」


 少し高すぎたそれをウィルが何とか掴む。


「使い方は分かるな」


 頷き、彼は引き金に指を掛ける。三つ目に狙いを定めて、


「ッ!」


 命中。そして絶叫。

 地面に倒れ伏した竜の瞳に、彼は左手の義手を構える。


「あああああああああああ!!!」


 人間の女性だった頃のフィデューセの悲鳴が聞こえる。目を貫き、脳の内側すら焼き潰され、信仰の聖女は命を落とした。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

隻腕奴隷、マッドな聖女の騎士となる ~元テロリスト聖女の異世界破壊活動記~ 春菊 甘藍 @Yasaino21sann

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ