第16話 剣の柄、咆哮

「……ッ」


 場所は闘技場。

 

 観覧席から、ウィルの表情は見えない。

 聖騎士となったのに、また彼はここ闘技場に戻ってきた。


「いいのかぁ……」


 ウィルは闘技をするにあたって武器を新調しなかった。義手以外、武器無し。


 隣にはいけ好かない信仰の聖女。頭に被ったベールからはみ出した黒髪ときついつり目。高校の時とかいたなーこういう奴。


「「……」」


 二人とも無言。

 険悪な同僚が喫煙所にそろった時こんな感じ。





~闘技場内~


「貴方の古巣ですね」


 皮肉じみた、イフィリストの声。


「ーッ」


「……そろそろ、明かしてくれたらどうです?」


「?」


「あなた、喋れるでしょう?」


「……」


 イフィリストの言葉に、ウィルは返さない。


「……ふっ、結局声を聞かせてはくれないのですね」


 分厚い二振りのロングソードを鞘から引き抜く。


「本気で行きます」


 二振りの剣を、正面に構える。


拝名はいめい。忌み名を『盲信』、ここに竜の息吹を」


 瞬間、『盲信』の聖騎士の目が開く。

 蜥蜴のように縦長の瞳孔。


「ェェェ」


 合わせるようにウィルは屈み、吐く。

 口から出てきたのは、何の変哲も無い剣のつか。護拳など装飾も無く、やいばさえ無い。


「そうぞう、しんに、奉る。ワレは、理想を、貫かん。ここに、剣を」


 無い舌を喉で補い、詠唱。

 剣の柄に触れ、まるで鞘から剣を引き抜くかのような動き。


 剣の柄から、刃が生える。

 曲剣、どこかの蜥蜴人が使っていた物と似た形。



 試合開始を告げる鐘がなる。

 


 最初に動いたのは、イフィリスト。


「ーーーーーーーーーーーーー」


 口から出す衝撃波。

 合わせてロングソードの斬撃を飛ばす。


 ウィルはただ走り回避。

 重量装備を取り外した彼の動きは、ユースが初めて見た動きとはまったく別の物。


「?!」


 口からの衝撃破を躱した場所が大きく崩壊。続く斬撃は、曲剣で切り伏せる。


「……」


「その剣の型。どこかで……」


 ユースだけが気付いていた。

 その剣は、ある蜥蜴人の物であること、彼はおもったいじょうに高名な戦士であったということ。


「……!!!」


 無言の、詠唱。

 

「なっ!」


 ウィルはイフィリストとの間にあいていた距離を一気に詰め、曲剣で切りつける。かろうじて受け止めたイフィリストには焦りの表情。


「……あ」


 気付いたときには、ウィルの左手がその腹部へと当てられていた。左手に仕込まれたのは火薬槌パイルハンマー。ガチンという金属音が響き、


「ガハッ!!」


 火薬の爆発と衝撃。

 イフィリストの纏う、教会騎士の鎧すら貫いて。彼の内臓はぐちゃぐちゃに、が見えていた。


「ま……だ」


 流石は聖騎士といったとこ、心臓その他諸々の臓器を失ってもまだ動く。


「……」


 偽善の聖騎士には何の感慨もない。ただ目の前の聖騎士がこれ以上苦しまなくて良いように、その首を跳ね飛ばした。


割れるような女の悲鳴がこだまする。この日闘技場にてそ『盲信』聖騎士は破れ、殺された。『偽善』の聖騎士によって。

 


 


 










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