第29話 計画始動!と俺
見慣れないポップでピカピカしたボックスカーが炎天下の下、その輪郭を朧げにしている。
柵を作るために振るう鉈が肩に振動を与えて、視界がぶれているだけかもしれないが。
仁が車の影を見つけて早5分。
この短時間のみ、集中して作業を行っていた2人の兄たちも近づいてくる影に注意がそがれた様子。
中にはどんなイカした人が乗っているのだろうとハンマーが奏でる音のリズムに雑念が入り始めていた。
「仁くーん!!!来ーたーわーよー!!!!!」
にっこにこの笑顔でこちらに手を振る金色→ピンクのグラデーション。
か――――ん!!
ハンマーの音に兄弟の心情のすべてが現れていた気がした。
そっくりな顔をそっくりな表情に固め、出てきた編集長をガン見する。
そして、首だけをギギギギギ・・・と動かし、仁に目で何かを問いかけた。
「編集長だけど?」
それがなにか?どうかしました?
な、表情で迎え撃つ。
っていうか、何をそんなに驚いてんだ??似たような頭だろうが??
この集落には変人が多い。
遊びに来る様々な知っている人や知らない人で、耐性はできていると思ったのだが・・・・。
声には出さなかったが、表情に出ていたのだろう。2人は軽く首を横に振るとその眉をへにゃりとゆがめた。
「「・・・・俺らより目立つ髪の毛・・・してるじゃーん・・・」」
なんかよくわからないけど、何かが彼らのプライドを傷つけてしまったらしい。
3人が意味深な表情で顔を合わせているため、引くに引けない手をあげたまま編集長は頭に?を浮かべる。
少し斜め上に視線をずらした仁。
心の中で、ニヤリとした表情を浮かべる。
「・・・・編集長。2人が可愛そうじゃねえっすか。謝ったげないと!!・・・ほら!もうこんなに悲しそうな眼をしちゃってえ!!」
お~よしよし!よく頑張ったねえ。
仁は2人の頭を撫でながら編集長に聞こえる声で挑発気味に言った。
「えええっ!?!?」
初めましての個性的な双子が自分を見るなり顔色を変えたため、どうしたのかと思ったら、次の瞬間には自分が何かをしたことになっていた。
何が!?
?が頭から離れない。
賢い脳みそに指令を走らせ、今までを振り返ってみるが、心当たりがひとつもない。
考えてもクエスチョンマークが増えるばかりだ。
ふと。
彼らの様子をよく見ると、仁の顔は口元がぴくついているし、目に喜色が混ざっている。
双子と仁の関係性は分からないが、どうやら親しい仲らしいということが伺える。
ただ単に、自分を含めてじゃれついているだけだと察した。
「んんんっ!!じゃれあっていたいのはやまやまだけれど。今日は少し忙しくなりそうだからこの辺にしときましょうか。それと・・・・日下部さん??日下部さーん!!!」
これからお世話になるわあ~。といって車に向かって手招きをする。
ピッピッピッピ・・・と扉が開く。
黒のヒールが扉から覗いた。
「・・・・・よろしく。」
目の下あたり。視線は合わせず、礼儀として一言。
なんで私が。
そんな言葉が聞こえてくるようであった。
仁は思わずじっと彼女を見つめる。
視線を感じ、身じろぎをする彼女ははっきりと宣言した。
「社長からの命令よ。・・・公私混同はしない。仕事としてあなたのサポート頼まれたから来たわ。仲良しこよしするつもりはないから誤解のないように。ビジネスライクで頼むわ。」
ピッキーンと和やかな雰囲気が一瞬で断崖絶壁に立たされたようなそれに変化する。
「・・・顔はそういってねえ気もすっけどな。」
「すげえなあ~。何がとは言わんがねえ。」
「仁何したんだ?めっちゃ嫌われてね?お前??ウケる。」
いつの間にか仁のそばに寄って来た双子。
おっ!なんか面白そうだな。という野次馬精神が透けて見える。
編集長やしゃちょさんは人員選択を間違えてねえか!?そこは胡桃さんで良いんじゃねえの!?
確かこの2人って仲悪かったよな!?と目を丸くする仁。
「まあまあ!今回この一大プロジェクトには欠かせない大事な役目があるのよお~。喧嘩しないで頂戴ね~♪」
日下部の隣に立ち両肩に手を当て編集長は言う。
「・・・わ・・・分かった。・・・とりあえずその両肩に当てた手を離しては??いかがでしょう??」
おおおう!!と見ているこっちにダメージが入るような空気!!
害虫が肩に止まっているかのような目で睨んでいるぜ!!日下部さん!!
編集長は不思議そうにしながら日下部の顔を覗き込む。
覗き込まれた日下部は微動だにせず、眼光をかっぴらいた状態で編集長を見つめ続けた。
「あら!!もう!!そんな顔しちゃって!!ごめんなさいねえ??いっつもこんな感じなのよ!!気にしないで頂戴?」
そんなんだから人が寄り付かないのよ?もっと愛想つけなさいな。
編集長はこれといってダメージを受けていないご様子。
彼・・??は地雷の中をガンガン行こうぜ!で進むタイプのようだ。
「・・・・余計なお世話だっつの。・・・というか、早く手ぇ
離して欲しいんだけど。」
その後、クレイ、シュヴァルツ、虎徹の顔合わせも行ったのだが、驚かれた。
体高80cmほどあるので。
*****
やっとこさこの集落に到着した2人はボックスカーにたくさんの手土産を積んできていた。
化粧道具や機材が乗っている会社専用のこの車を持ってくるために1000キロ以上の旅を余儀なくされた。船も使い、2日ほどの旅路だったという。
出張の期限はひとまず(←これ重要)1カ月。
この1カ月でひとまずの方向性や、手ごたえというものを見つけるのだそう。2人に遅れて2週間後にメイクさんたちが到着するとのこと。
それまで空き家2棟にそれぞれ2人が寝泊まりをすることになった。
2棟と聞くと、準備が大変そうと思われるかもしれないが、そうでもない。
この集落ではいつ誰が帰ってくるのか分からないので、常に空っぽの空き家が誰でも泊まれるように整備されているのだ。
しかし、電気やガスというものは常に値段が発生するため取り払ってしまっている。
で、あるからして。
2人はご飯、風呂、テレビ、洗濯、充電などなどは仁の家で行うことになる。え、めんどくさくね!?ということなかれ。
本当に大変なのはメイクさんが来てからなのだから。
今日はそれぞれの仮屋を説明し、買ってきた食べ物で凌ぐらしい。2日後に仕事スタートだ。
集落全体の紹介や、危険事項。環境適応、仕事の内容・契約書の確認もろもろもろろを行うのだ。
「んで~布団はあっちだろお~??そんでそんで~・・・・あ。そうだったあ・・・」
「どしたの??麻人兄??」
「あ~・・・・」
「???」
「俺の秘蔵のお酒ここに隠してたんだよなあ~。・・・サプラーイズ☆・・・的なね??」
「なっwお前そんなの隠してたのかよ!?」
「しょーがねえだろお~!?仁が20になるからよお~寝かしておこうと思ったんだって!!!」
「あほだなあ~wそれで忘れたら元も子もねーじゃんww」
ここは佐久間さんが宿泊する予定の空き家(仮)。編集長の家よりも庭が小さいものになっている。
そこを麻人は密かに酒蔵として利用していたらしい。
当の本人はというと・・・
「酒・・・??自分の家でなくて他人の家に置くの・・・?理解不能だわ・・・。」
麻人はそんな彼女に振り返り、
「ちょっち置かせてくれよお~?後で飲むからよお♪」
といった。
彼女はもともと開いていた目をさらに大きく開くのであった。
「ていうか!!優兄も俺の部屋に梅干し漬けて帰ってたじゃねーか!!あれどーしようか悩んだ末、まだ漬けてあるんだが!?!?」
「ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
日下部はこれからの生活を憂いて頭に手を当てた。
*****
2日後・・・・
「んーと。これとこれ。あとこれかしらね。」
ポイポイと服を投げ渡される。
「・・・ってこれ、絶ってえ暑いじゃねえかよ!長袖だぞ!!」
薄手の白い長そでシャツに黒の上下のセットアップ。
暑いこの気温には適していないのである。
「いいのよお。とりあえず着てみてちょうだい?後、動画も撮らせてね♡」
「???おう??」
「次はこれね!」
「次は・・・」
「あ、これも着てちょうだい!」
「あ!!待って!!やっぱこっちの差し色のがいいわ!!こっちを着て!!」
「次は・・・「ちょっ・・・待って・・暑い・・・あちい・・・!!」
仁の悲鳴が上がった。
日下部の仕事は主に契約書と経理の方なので、メイクさんやカメラの人が来て、本格的に雑誌の掲載の話を進める時までない。
そのため、畑仕事の手伝いに駆り出されている。
「・・・腰・・!!腰!!!」
何もすることが無いと聞いて、畑仕事でもするか?と仁の祖父と祖母が誘ったのだ。
彼らに意図はなかっただろうが、暇をしていると知られた状態かつ、悪意なく誘われたら断れない日本人の性質を巧みに利用した話術であったと編集長は語る。
仁だけでなく、畑の方でも悲鳴が上がった。
「・・・私はなんでこんなことしてんのよ・・・・!!!」
*****
金は払ってます。家賃&電気&食料&滞在費もろもろもろろはしっかり払っています。
メイクさん達は、どー生活させようか。話の設定に穴が空きまくっている現状が悩みです。いっそ、どこでもドアでも開発すっかな・・・。
野生と現代が鉢合わせた 徳丸。 @tokumaru1234
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