第28話 アニキ!と俺

「はよ~っす~」

「ぐっもーにーん!!」


サクサクと音が聞こえた。


「あ!!」


きゅうりを収穫する手を一時止め、やって来た2人を見上げる。


「麻兄!優兄!!来てくれたのか!?」

「おーよお~!」

「暇だったからな!!」


日差しが本格的に厳しくなってきた6月。

日が長くなり、朝からじりじりと照り付けるような太陽が肌を焼く。

そんなことは許さないと大きな麦わら帽子を被せられた仁は、どこかでおなじみのタンクトップ(白)を着ていた。


暇だからと来てくれた2人ももちろんタンクトップ(黒)である。

今日は白か・・・なんて野暮なことは聞かない。聞かないったら聞かない。



「いや~にしても今日はムシムシすんな!!」


ちなみにこの2人の見分け方は髪色もしくはしゃべり方である。語尾が伸びやすいのが麻人。元気なのが優斗。


「そうなあ~。おかけでこのキュウリちゃんもっ「シャクシャク」うまみがうまうまですなあ~!?!?シャクシャク」

「あ!麻人君いけないんだー!仁せんせーい!今この麻人君がつまみ食いしましたー!!!ねえねえねえねえ!!見ました!?ねえ見ました!?」


相変わらず朝からうるさい・・・

日差しがさらにうるさく感じる。あと物理的に耳が痛く感じる。

ギャーギャー騒ぎながら食べかけのキュウリを剣のように持ち、優斗の喉元を狙っている麻人はいつの間にか2刀流になっていた。

なんか変な動きしてるし、手癖が悪い。


仁は目を細め、口を一文字にキュッとむすび、なぜこんなにも事態は早くめぐってしまうのだろうと哲学的な考え事をしているのであった。


さて。こんなことをしている場合ではない。

大人しく作業に戻ろう。


そう。


作業にもど・・・・


「るとでも思ったかあー!!・・・・こらあ!!優兄!!注意してると見せかけてもう懐にブツをしまってるってわかってんだよ・・・!!さあ早く観念しなあ!!!」


そういって仁は勢いよく、汚れた軍手前に出して2人に飛び掛かった。


「うおお!?・・・やんのかこらあ!!・・・いいぞお!俺のキュウリ丸に適うかなあ!?!?かかって来いやあ~!!」

「ちょ!!タンマタンマ!!分かった!!悪かった!!返す!!返すよ!!・・・・・・・色はちょっと・・・茶色でも・・いいカナ・・・|д゚)??」


おいおいおい。

もうすでにキュウリ丸は両刃とも刃こぼれしてるし半分しかねえじゃねえか!?歯紋もついてるしさ!?


あと、茶色って・・・優兄・・・。


・・・・あなたがもしも俺だったら、それ貰って嬉しいですか?

相手の気持ちになって物事は考えましょうね。

あと、普通に考えて・・・・


「良いわけねえだろうが!!!」


年の割に綺麗な2人の顔に土を塗り付けてやった。


こうやって朝は潰れるのである。


******


快活な朝を迎えた一同は、昼になりうるさいと家を追い出されたので、虎徹、シュヴァルツ、クレイを連れて兄弟の家に訪れていた。


ちなみになんだが、いつの間にか、誰が一番おしゃれに軍手を装備できるかを競うことになって朝の部終了した。

優勝者は白が映える黒タンクトップを着ていた2キュウ流の方でした。


「さて!朝は仁の手伝いをしたからな!昼からは俺たちの手伝いをしてもらおうか!!」

「お手伝いってなんでやってて気持ちいいんだろうな~??きっと心が綺麗な俺たちに神様がくれた感情なんだろうな~~??」


「・・・・・・・・・・・・。」


「「ねえー!!」」


「・・・・・・・・・・・・。」


女の子みたいに口元に両手の握りこぶしを持ってきて言うなよ・・・。


「・・・・で?何やりゃあいいんだ??」

「グル?」

「ヴォフ?」

「ワン!!」


優斗が仁に目をつぶるよう言って、手を引く。

ごそごそ後ろで何かをあさる麻人。


感覚的に、こっちは広大な庭の方だな・・・・??


「ちょっと仁君の協力が必要でしてね?」

「そうなんですよお~。ちょっと一大?プロジェクト的なね??」


何となくなんだけど、麻兄は両手でゴマをすっている気がするぜ・・・


「何なんだよ??・・・はっきり言えって?」


許可が出たので、閉じていた目を開く。

しばらく閉じていたため、入り込んできた光に目がくらむ。

背後に佇む2人からはワクワクの雰囲気が伝わってきた。


俺の家族もなんかそわそわしてんな・・・・??


足にふさふさがまとわりついているのを感じる。


そこにあったのは・・・否。いたのは・・・


「馬・・・??」

「ブルルルル!!・・・フンッ!!」


何とも生意気そうな黒い仔馬が佇んでいた。


「すげーっしょお~!!驚いたかあ??」

「母馬が死んじまったらしくてな?こいつを十分に育てられる金がねえってもんだからよお。」


おいおい泣きながら、黒馬にしな垂れかかろうとしてプイッと避けられる。


話を聞くと、知り合いの農場を運営している人が年で引退し、その後を継いだはいいものの慣れていないために子供の馬を育てられる人員が裂けないのだとか。

加えて、先月一番近くの牧場で病が出たとのことで、避難先を探していたそう。


「子供の馬はまだ体が出来上がってねえからよお・・・・。」

「かわいそうでな・・・。」


150くらいの子供の馬の、小馬鹿にするような態度も、警戒から来ているものだと思うとまた違った表情に感じる。

母親のいない寂しさと恐怖を感じたまま病で苦しんでいくのを見ていられなかったという2人の気持ちが、よくわかる気がした。


しかし、頭の良い馬が人に懐くのは相当な信頼関係があってこそ。


「・・・俺馬の世話なんてしたことねえぞ??」

「俺も」

「俺もな」


一刻も早くの避難が必要ということで今朝運び込まれたこの仔馬。

まだ何の整備も知識もないのに、誰がどのように世話をするというのか?



「ヴァルフ!!!」

「グルォ。」

「ワフ??」


仁は両手で彼らを撫でながらどうするべきなのか、頭を悩ませた。


「小林」


ポツリ。優斗がとある人物名をあげた。


「小林・・・あいつできるよなあ~??」


仔馬以上にあくどい顔をするいい大人。

どうやら何も知らない小林を強制的にこちら側に引き入れることは確定事項のようだ。


「「そ・れ・に」」


内心ギクッとした仁を見透かすようにこちらを覗き込み、良い笑顔向けた。


「「仁が小林にお願いしたら100%OKしてくれるもんな(あ~)!!!」」


「キャン!」


動揺が手に出てしまったらしい。強めに毛をつかんでしまった。

ごめんシュヴァルツ。



******



とりあえず、仔馬を繋いだままにしておくのはかわいそうだからと、別の場所に仔馬専用の土地を作ることにした。


兄弟の庭は広いと言えど、草を刈り切ってしまって、仔馬が育つ環境としては適していない。


草が生えていて、なるべく平らな場所。


剪定した木の枝や、光を入れるために切り倒した木を置いてあった開けた空間をこの仔馬の遊牧地とすることにした。


他にもたくさん適した場所はあるのだが、小屋を建てたり、柵を作ったりするのに材料が近くにあったほうがいいというのが決定打である。


できるまでは彼らの庭という殺風景な空間に閉じ込めることになるので、早急な作業が求められる。


「じゃあ、早速柵からつくっていくか!」

「手に気をつけろよお~?軍手はいくらでもあるからなあ~??」


こんななりだが、一応腕の立つ大工をやっている(らしい)2人はさまざまな道具を扱うことができる。

経験上小屋くらいならお茶の子さいさいで作れるんだそうだ。


危ない枝や出っ張っている部分はノコギリや鉈でそぎ落とし、電動ドライバーで柵の形状に組み立てていく。

出来上がったものから穴をあけた地面にぶっさして、さらに食い込ませる。

上から木づちで叩きつけるのがポイントだ。


「クーン・・・」


シュヴァルツとクレイは着の身着のまま。

日陰になっているところでグデンと体を横たえている。

あんだけ分厚い毛皮があったら動き回るのはきついわなあ。


「虎徹う・・・。お前は暑くないのか??」


一方で。

虎徹さんは遊んでもらえると期待して着いてきていたぶん落胆があったのだろう。

木の枝を口に咥えてこちらを見上げていた。

少しすまなそうなのがたまらなくかわいい。


「しょうがねえなあ!!こんな日差しに負けてらんねえもんな!!」


仁は枝に手を伸ばした。


「よーし。行くぞ!!そー・・・・


くるりと反転し、持った枝を遠くに飛ばそうとしたその時。

集落の入り口に、見慣れない鉄の塊がいるのを捉えた。


「・・・・??あれは・・・??」


あれは・・・車か?なーんかどっかで見たような気がすんな・・??

どこだったかなあ。

ここら辺じゃあ見かけねえもんってのは確かだけど・・・。


「クーン・・・・」

「ああ。ごめんごめん!!行くぞ?虎徹。・・・・それ!!」


虎徹に急かされて意識をあの車から引きはがす。


遠目に米粒のように見えていた車は、気が付くころには目と鼻の先に居て、兄弟もびっくりしていた。


中にいるのは・・・。





******


日曜大工レベルの事は集落の人はほとんどできます。

仁もある程度はできる技術を持っているので悪しからず。

軍手誰が1番映えるかな選手権の優勝は麻人。


麻人「ハハッ!やあみんな。僕ミッ








































  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る