第27話 編集長見参!!と俺・・・のその前に
「あああああ!!仕事が終わらないわ!!終わらないの!!ねえ!!!お・わ・ら・な・いのおおおよおおおおお!!!!」
「・・・見ればわかりますけれども・・・(怒)」
ひっきりなしにかかってくる電話はとどまるところを知らない。
彼を掲載した雑誌の売り上げ下はもちろん右肩上がりであるが、電話の数も右肩上がりなのはどういうことなのか。下がれ!下がってくれ!!
既に販売から3日は経過しているというのに!
胡桃・・・というかほぼ彼の雑誌に携わったほぼ全員が会社を退社することができないという状況に陥っているためかなりピリピリとした空気が漂っている。
そう。こんな感じではあるが、編集長であるあたしもちょっとピリピリしているの。
やりたいことが目の前にあるのにやれない。
目の前にニンジンをぶら下げられたと思ったら、そのニンジンが第三者によって改造されて暴れるわ、進化するわ。
とどめに攻撃されたような気分ね。
「ふう~。問題はこれかしら・・・・・。」
そこにあるのは重要であるマークを付けられたメールの数々。
電話の取材とかはどうでも良い。部下に任せればどうとでもなる話。
ようは体裁が大事なのだ。しっかり関係者が対応しているという事実さえあれば局も視聴者もある程度満足してくれるだろう。
しかしまあ・・・・。
「この本人に迷惑が掛かりそうな案件はいただけないわあ」
遠回しに記載されてはいるが、取材の要請。
というよりは所在の開示。
アポなしで直接彼の元へ行き、無理やり約束を取り付け、後日カメラを回す。
直接来といて、撮るまで帰らないとことをほのめかし、相手に圧力を与え疲弊させる。全然事前ではないのに、事前に撮影許可を得たかのようにテレビで流すことがあるのだ。
それは実際に被害にあった人しかわからない。
ほとんどの人がテレビに出れると知り、快く協力してくれるからだ。
「彼もSNSはやっているけど、まだ住所が掴めていない証拠ねえ。」
この現象は売れっ子の予兆。
少し無理やり感は否めないけど、そちらに行ったとき、お爺様とおばあ様に直接話して最終的な契約を結ぶことになった以上、彼らを守る義務はすでに発生している。
こういった非常識な輩をしっかりとチェックし、証拠を残しておくのも重要な役目なのである。
「ところで編集長。本人を求めるテレビの出演すべて断っていいんですよね???」
「ええ。そうして頂戴。私たちが受ける分にはいいって言ってくれたから。・・・来週の取材はあなただったかしら・・・???」
「そうですよ。」
「・・・・・・。」
「なんですか??」
・・・・特別手当ってあったかしらね・・・。
胡桃のやつれた顔を見て、TVの取材後はどうなってしまうのか。取材のための質疑応答完璧マニュアルの作成のことなどを考えて頭が痛くなった。
ああ。そうだった。
彼女の様子も見てこなくちゃ。
ーーーーーーーーーー
ーーーーー
ーー
ー
「じゃあ七瀬さん!よろしく頼むぜ!!!」
今日は麻人兄たちが帰ってくる日。
5日後に編集長たちが来るからちょうど俺の事についても話すことができるのでちょうどよかった。
外こととか、いろいろ聞けるし。これからの事についても相談したいし。
駅に着くであろう予定時刻に合わせてお隣のお隣のお隣に住む七瀬さんの車に乗せてもらうことにした。今日ちょうど買い物に行こうと思ってたらしく、快く引き受けてくれた。
「いいのよ。いいのよ。それに、私のの事は”えみちゃん”呼んでいいっていってるじゃなあ~い!!!遠慮しないで頂戴!!」
こんなことを言うお茶目な56歳である。
ちなみに遠慮はしていない。
また、すでに車の運転席に乗っている夫の
咲さんは・・・・包容力というよりは弾力だろうか。
どこがとは言わないが、ふくふくとしているから。
「あ、仁君来たんだねえ。じゃあ後ろの席にお乗りなさい。」
咲さんと会話をしながら車に近づくと、気が付いたらしい忠司さんが窓を開けて優しい笑顔を向けてくれた。
「(今日はお肉のセールの日だから一段と元気なんだよ。ごめんねえ。咲さんは前の席に乗るから大丈夫だよ。)」
片手で咲さんに聞こえないように口元を隠しながら俺にそう伝えてくれる忠司さんはやっぱり大人だ。
こんな余裕を持てる大人になりたいぜ・・・・!!!
そんな感じでしびれて憧れながら車に揺られること早数刻。
ようやっと駅が見えてきた。
約束の14時まであと5分ほど。
田舎というのは信号もない砂利道や道路が多いので時間通りに到着するというのはたやすいのだ。
(本人の意思があるときに限るが。)
「ありがと!七瀬さん!!俺すぐに兄ちゃんたちを見つけてくっから!!
!!ちょっと待ってて!!」
仁はそういって、駅の改札口に向かった。
まばらな利用者は誰ものほほんとしている。新聞を読むもの。会話に花を咲かせているもの。
人の流れは停滞しているが、とても安心感のある空間である。
違う・・・違う・・・・
あの人・・・でもねえな・・・・白タンクトップだし。よれよれだし。おじいちゃんだし。
ん~どこだ~??いなねえな~?
もう時間なんだけどな~?
「・・・・・ん!!・・・・じ・・・ここだ!!仁!!」
あ!来たみてえだ!
仁は声が聞こえた方の人物に焦点を合わせる。
えっと・・・・
「麻にい!!優に・・・・・・・!?!?!?」
元気よく手を振り回している影が二つ。
逆光になっていてよく見えなかったが、同じ背丈の2人組だったため見つけやすかった。
「「どーした(あ)?」」
何に驚いたのかピシりと動かない仁に近づき、不思議そうな顔をする2人がどでかい荷物をタイミングよく降ろす。
キラキラした金髪と銀髪。
かわいらしい顔つきとは裏腹に、やんちゃしてそうなピアスが左右反対に片耳ずつついている。
そして・・・・
「いつの間に3つ子になったんだよ・・・・。」
「「???」」
狙ったかのように先ほどのよぼよぼのおじいちゃんが2人の背後に差し掛かった。
そんな2人の服装はよれよれのタンクトップ。
そう。
左右反対に首をかしげる2人が着ているのは、白地に年季を感じさせる汚れが染みついた、タンクトップだったのである。
「ぶふふ!!・・・ちょ!っちょ!!狙ってんだろそれ!やめろよ!!ぶはは!!!」
(通りすがりのよぼよぼのおじいちゃんが\ /←こんな感じで首をかしげる2人の真ん中でなぜか止まり、タンクトップを強調するかのように肩を回し始める。遠近法により、仁からはいい感じにタンクトップ3兄弟に見える。)
「どうしたんだあ~?こいつあ??」
「・・・・お年頃ってやつだろ。そっとしておいてあげようぜ。」
******
「元気にしてたかあ~??仁??」
「まあ、と言っても6カ月くらいか?」
この2人は仁と同じ集落に住んでいた数少なき若者であった。
一卵性の双子である彼らは非常に顔がよく似ており、御年34である。
集落に住んでいたころは仁とお揃いでばあちゃん専用の顔パックを使っていたからか、若く見られることが多く、大体の人に20代であると勘違いされる。
「なんか収穫あったか!?面白い話して欲しい!!」
仁の口癖というか、言い方というかは、この2人から来ており、以前は毎日のように2人に付き従っていたものだ。
先ほど、改札口で出会ってから、七瀬さん達と合流し、買い物をしてから帰宅。
今は彼らの家の掃除の手伝いに来ていた。
「「ふっふっふ!!」」
汚い雑巾をピザ生地のようにぶんぶん振り回しながら、得意げな表情を浮かべる麻人兄。
と腕を組み頷く優斗弟。
汚い出し汁(灰色)が飛ぶのでご遠慮いただきたいのだが・・・・・。
「・・・・。」
ぴちょりぴちょりと顔にはねる水滴。
得意げな顔をしている彼らは目を閉じているので、被害に気づこうはずがない。
「実はなあ・・・・・??」
雑巾を握り締める麻人。
「聞いたら驚くぞ・・・・??」
溜めに溜める優斗。
「・・・・・なに・・・。」
この会話にデジャヴュを感じる仁。
2人はお互いの顔を見たと思ったら、いたずらっ子のような笑みを浮かべこういった。
「「・・・・その時までのお楽しみぃ・・・・だあ!!!」」
楽しいことはとことん最後まで言わずに、興味だけ持たせて忘れた頃にしでかす。
昔からこんなのばっかりなので、仁は慣れたものである。
2人が集落で、子ども扱いされるのは年甲斐もなくしっちゃかめっちゃかやらかしているからだろう。
少しだけ大人な対応をする仁なのであった。
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