ギャルとウォータースライダー

「おい徹、こっちだ」

「はーい」


 ボクたちは、流れるプールに入った。

 夕飯になったら落ち合う約束をして、バラバラに行動する。

 妹コンビはロングプールで競争するという。町田カップルは、下柳さんが泳げないので空いているプールでくつろぐらしい。


「でも、大丈夫ですか? お目当ては、ウォータースライダーですよね?」


 流れるプールに身を委ねながら、ボクは結愛さんに尋ねる。


「心配か? だったら一緒に滑ろうぜ」

「は、はい」


 ボクたちは、ウォータースライダーのあるポイントで水からあがった。

 スライダーの列に並び、階段を上っていく。

 結愛さんが先へ行くから、ボクはどうしても結愛さんのお尻を追いかける形に。


「どうした、徹?」

「いえ、なんでも」


 反射的に、顔をそらしてしまった。


「怖いのか? 大丈夫だって。あたしがついてるんだから」

「は、はあ」


 結愛さん、こういうアトラクションは平気らしい。オバケは怖がるのに。


「ん? 何か言ったか?」

「いえ何も!」


 思いが口から出ていた? どうしてボクの考えていることがバレたんだろう?

 とにかく、スライダーに到着した。

 指示を受けて滑り台を下っていく。


「あれ、スピードが出ねえ」


 結愛さんは、滑り台のようにお尻で滑っていた。


「仰向けになるんです。そうすると速くなりますよ」


 最近のウォータースライダーは、何かに乗ってその小さい摩擦で滑り降りるタイプが多い。

 それのせいか、スライダーは座りながら降りるモノ、という考えが定着しているように思えた。


 実際は、仰向けになった方が速くなる。


「こうか?」


 結愛さんは仰向けになって手をクロスさせた。


「わあああああああ!?」


 あまりのスピードに、結愛さんがおっかなびっくりになる。

 ボクも便乗して、仰向けで速度を上げた。チューブに振り回される。でも、そのスリルが心地いい。


「ぴゃあ」と情けない声を出して、結愛さんが着水した。そのすぐ後に、ボクも滑り終える。


「楽しかったでしょ?」

「あ、ああ。そうだな」


 なぜか、結愛さんは辺りをキョロキョロしていた。

 よく見ると、結愛さんの肩紐がなくなっている。まさか。


「あの、結愛さんひょっとして、ブラが?」

「そ、そうなんだ」


 なんと、ブラが水に流されてしまったのだ。だからヒモビキニで大丈夫って聞いたんだけれど!


「ありました! 取ってきます!」


 向こう側の壁際に、お目当てのビキニが浮かんでいた。

 誰も来ない間に、向こう岸へ。


「ヒャッホーッ!」


 何者かが、ボクの脇腹にドロップキックを喰らわせる。誰かと思えば、マオちゃんじゃないか!


「ごほおお!」


 マオちゃんに蹴られて、ボクは結愛さんのビキニを掴んだまま沈んでいく。


「徹っ! しっかりしろ徹!」


 自分の肌が露わになることも気にせず、結愛さんがボクの元にかけつけてくれた。


「結愛さん。これを」

「そんなのいいんだよ! 大丈夫か?」


 ボクの無事を確認しつつ、結愛さんはブラをつけ直す。


「平気です。水の中だったのでダメージはありません」

「よかった。ありがとなー」


 その後、マオちゃんの手も借りて、無事に結愛さんの貞操は守られた。

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