第22話

昼休み……

 教室の入口の方から紅愛を呼ぶ声が響いた。姿を見るにどうやら新入生の男子のようだ。トイレから戻ってきた紅愛が不機嫌そうに振り返る。


「篠崎先輩!少しお時間よろ「よろしくないのでお帰りください」……失礼しました」


 また一人、紅愛に告白しに来た新入生が告白すらさせてもらえず撃沈する。これで何人目だろうか……

 まぁでもあの新入生は一言だけだとしても紅愛と話せたので良かった方だろう。他なんて来たはいいが俺との会話に夢中だった紅愛に無視されたり、俺の膝の上に座る紅愛の姿を見て静かに去っていったりと散々なのが多かった。


「まったく……」


 うんざりした表情で俺の膝の上に横向きに座り、寄りかかってくる紅愛。かなり機嫌が悪い様子。これは何かで機嫌を直さないと夜が大変になる奴だ。えっ?何が大変かって?……ナニが大変なんだよ。


「何で話したこともない人に告白できるんでしょうか……私にはその思考が理解できません」

「俺にも理解できないけどやっぱりそれだけ紅愛が可愛いからじゃない?大抵の男って可愛い人には惹かれるもんだし」

「じゃあ蒼太くんも私以外に可愛い人がいたら目移りするんですか?」


 紅愛がハイライトの消えた瞳で見つめてくる。最近はこういうことがなかったのですっかり気を抜いてたが、紅愛以外に興味を示すような発言はNGだった。一瞬で雅紀がやってるゲームのような監禁エンド行きが決まってしまう。

 一つ選択肢を間違えるだけでゲームオーバーになる危険性を秘めている紅愛には常に甘い言葉をかける必要があるのだ。


「俺にとって紅愛以上に可愛い人なんて存在しないからそれはないよ」

「えへへ…そんなこと言われたら嬉しいです。私にも蒼太くん以外にかっこいい人なんて存在してませんよ」

「ありがと」


 それから暫く紅愛を膝の上に乗せて話をしていると、紅愛が何かを思い出したかのようにハッと顔を上げた。


「……あっ、そういえばお父様達がそろそろ蒼太くんに会いたいと言ってました。土曜日が空いてるみたいなので、ぜひ会っていただけないでしょうか」


 遂に来たか……紅愛の両親ってことはやっぱり仕事で忙しいだろうしここで断るといつ会えるか分からないよな。それに会えることなら早めに会って挨拶しておきたい……


「急な予定が無い限りは会えるよ」

「ではそう伝えておきますね」

「土曜の何時くらいに来るの?」

「それは分かりませんが割と早いのではないでしょうか。多分8時とか9時とか」

「は、早いな……」


 それまでに歯磨きとか洗顔とかその他諸々は済ませないといけないな。服はスーツ……いや俺の場合は学生だから制服か。


「私服でいいですよ。プライベートまで堅苦しいのは好きじゃないらしいです」

「え?でも失礼じゃないかな?」

「あっちが好きじゃないことをわざわざするのですか?」


 そう言われると制服を着るのが憚られてしまう。せめてだらしなく見えない服装にしよう。


「何か言われても私が言い返しますから安心してください。と言っても何も言われないと思いますけどね」


 紅愛がこれだけ言うということは本当に何も言わないのだろう。ここは紅愛を信じよう。


「さてと、この話は一旦終わりにしましょうか。次の授業は……数IIですね」


 数II……三角関数か。一応予習はしたがグラフの書き方がいまいち分からないので紅愛に教えてもらおう。


「紅愛、tanのグラフの書き方教えて」

「いいですよ。sinとcosは大丈夫ですか?」

「うん」

「ではtanだけですね。まずは漸近線がどういうものか教えます。漸近線というのはですね……」


 紅愛の説明はとても分かりやすく、スルスルと内容が入ってきた。少しアレなご褒美を要求されたがそれでも全然釣り合わないくらい分かりやすかった。今度からは紅愛に教えてもらうことにしよう。



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しばらくぶりの投稿です。もう少しだけこの位の 遅いペースでの投稿が続きますが、また2日ないし3日のペースで投稿したいと思っております。これからも応援よろしくお願いします!

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