第15話凍華が膝枕を

「ただいま......ってまだ帰ってなかったんだ、凍華」

帰宅して、玄関に見なれた凍華の靴が置かれていて、思わず口に出てしまう。

「お帰り、ゆづ。いたらまずいことでもあるの?」

リビングから、そんな言葉が聞こえた。

靴を脱いで、廊下を歩き、リビングで待ち構えているであろう凍華に否定した。

「まずいことはないよ。愛依は二階にいるの?」

「友達に誘われて、遊びに行ったよ。シスコンゆづかぁ~?さては」

からかいがある標的を見付けたみたいな笑みを浮かべ、からかってきた。

「シスコンじゃないよ。からかわないでよ、凍華。からかってくるなんて珍しい、凍華にしては」

「そうだっけ?シスコンではないよね、ゆづは。たまにはからかいたいってときもあるよ、ゆづが浮かない顔してるときとか。ねっ!」

首を傾げて、真顔だったのを励ますような笑顔に変えて、そんなことを言う。

杏美の家を出たところで、阿志渡に会って落ち込んでいることに気付いたらしい。

「反則だよぅ、その笑顔......」

「なに?何か言ったでしょ、今。何て言ったの?ゆづ」

「言ってないっスッ、凍華」

顔を逸らし、否定する俺。

「気になるよ、ゆづ!言ったことを白状しなさいっゆづ!」

小動物が頬を膨らましているように見える、凍華の膨れっ面。

「かっ......可愛いって言ったの!俺はっ!」

照れながら、こたえる俺。

「じょっ......冗談言わないのっ!ゆづってばぁっもうっ!こっちにきて、ゆづ。隣に」

凍華に手招きされて、彼女の隣、ソファに腰をおろして、きょとんとした表情になる俺。

「横になって」

「えっ?」

「いいから。嫌なの?ゆづ」

凍華が太ももを叩いて、促した。

「ほんとにいいの?」

「いいよ。ゆづにはそんな顔は似合わないし、もとに戻ってほしいの」

俺は、凍華の太ももに頭をのせて、彼女の顔を見つめた。

いわゆる膝枕というやつだ。

人生で初めての膝枕を体験している。

ちょうどいいと感じる膝枕で、幸せだ。

「はぁっん。恥ずかしい......から、テレビを見てて」

くすぐったいようで、身体を小さく捩って声をあげてから、言ってきた。

「大丈夫?」

「うん」


俺は、いつの間にか、瞼が閉じていき寝ていた。



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