第14話杏美には驚かされる

部屋の前の廊下からぱたぱたと素足で走る足音が聞こえた。

足音が部屋の前でとまり、扉が開いて、今にも泣き出しそうな杏美が現れた。

「ふ、服を持っていくの忘れ......てぇ、てき、とうな服を投げて」

「おっ......おう。これでいいか?」

俺は、身体にバスタオルを巻いたいかにも風呂上がりだという格好の杏美に部屋着らしき服を投げる。

「ありがとう。もう少し待ってて」


着替えた杏美は、部屋に入って、清掃された床に胡座をかいて、息を吐き出す。

「見苦しいとこ見せて、嫌いになったよね?平塚先輩」

「まあ、もともときら......いやっ、そんなことないよ。サイズ合ってないよな、それって」

腹が露になっていて、小さいサイズの服に見えて、指摘した。

「ううっうぅっ!......こういう服ですけど、これは」

腹を見られたことに恥ずかしがって低い唸り声をあげて、怒る。

「ごめん。気になって言ってしまっただけで。怒らすつもりはなくて......そろそろ帰るよ、大丈夫そうだし。じゃあ」

立ち上がり、杏美の前を通り抜けようとしたところで、足を掴まれひきとめられた。

「あと......少しだけ、いて......くれませんか?平塚先輩」

「わかったよ、少しだけ......な」

仕方なく、床に座り直し杏美の話し相手になる。


20分後に杏美の家を後にした。



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