第18話 面倒くさがりな息吹嬢

 開始合図直後、何のためらいもなくデイビッドは、リティアに向けて中級炎魔法を放った。

「(開始早々攻撃してくるとはね。少しは躊躇とかないわけ?)」


 そんな事を思いながらリティアは真横に咄嗟に避けるが、デイビットはそれを予見し次の攻撃を既に仕掛け、同じく中級炎魔法を放っていた。


「(へぇ~意外と戦闘センスはありそうね。いや、偶然って事もあるか。ガウズにボコボコにされてた奴だし、そっちの方がしっくりくる)」


 するとリティアは、その攻撃を避ける動作はせずその場で立ち尽くしていると、観客達から「危ない!」「避けて!」と言った声が響く。

 だが直後、リティアに向かった魔法攻撃は一瞬で燃え消えた。

 一瞬の出来事で何が起こったのか理解出来ない者達もいたが、大半の観客達は盛り上がっていた。


「でたー! あれがリティア先輩こと『息吹嬢』の魔法だよ!」

「初めて生で見れたわ! あ~感動する!」


 一方でデイビットは、どうして自分の魔法が消されたのか驚き考えていた。


「(どう言う事だ!? 消えた? いや、消されたのか? あの中級炎魔法を一瞬で)」


 デイビットはその場から更に距離を取るために、リティアから更に遠のいた。

 それを見ていたリティアは小さくため息をつき呟いた。


「自分から私の得意な射程距離になってくれるなんて、優しいのかしら?」

「(あんたの魔法が何だか知らないが、炎の威力を使って一気に接近し、拳を叩き込む!)」


 デイビットは離れた所で、踏ん張る姿勢をとると両手から炎を放出し始めた。

 観客達はそれを見て不自然な行動にあざけ笑っていた。

 だがリティアは、デイビットの行動を見て舌打ちをした。


「(あ~面倒い。何か仕掛けてくる気満々じゃない。私はさっさとこれを終わらせたいの。だから、そのままそこで笑われてなさい!)」


 直後、リティアは軽く息を吸いこんだ後、デイビットに向けて息を吹き出した。

 するとその息が途中から炎へと変化し、デイビットに向かって襲い掛かった。


「ぐっぅぅう! くそっ! 熱い! ぐあぁぁー!」


 デイビットはリティアが放った炎の勢いに吹き飛ばされてしまうが、直ぐに立ち上がりリティアの方に視線を向けた。

 するとリティアは自分の周りに息を吹き出すと、炎の球体が4つ創り出された。


「行け」


 そうリティアが呟くと、4つの炎の球体はデイビット目掛けて放たれる。

 そしてまたしても直撃すると思われたが、デイビットは両手の炎をそのまま纏ったまま、向かって来た炎の球体を殴り飛ばしたのだった。

 まさかの行動に、観客達も驚き目を疑った。

 魔法に向かって殴り掛かる奴がいた事など今までに目にした事なかったからであった。

 しかも、デイビットは4つの炎の球体全てを殴り飛ばしたのだった。

 デイビットはやってやったぞと言う顔で、リティアの方を見るがリティアは全く驚いてはいなかった。

 更には、殴り飛ばした炎の球体は消える事無く、リティアの元へと戻って来ていた。


「(ちっ、操作できんのかよ。だが、何となく分かって来た。あいつは息を吐いて魔法を使う。しかも遠距離攻撃が得意そうな感じだ。って事は、近距離戦は得意じゃないってはずだ)」

「(とか考えている顔だな~。まぁ、その通りなんだけどね)」


 リティアはデイビットの表情から、デイビットが考えている事を予想していた。

 すると再びリティアは周囲に息を吹き掛け、更に4つの炎の球体を創りだし計8つの炎の球体を周囲に浮かせた。


 私は口から魔法を発動している。そして得意な魔法は炎魔法だ。

 炎は扱いやすいし、私との相性もいい、そして何より口で発動する際に自由自在に威力や形を変えられる。

 だけど、そんな姿から周りから『息吹嬢』なんて呼ばれてる。

 私はその名前も好きじゃないし、マルスとガウズと私の事を『GMR』って変な名前で呼ぶのも好きじゃない。

 と言うかハッキリ言って嫌い。

 名前の頭文字か何だか知らないし、あの2人はどう思っているかは知らないけど、私は嫌いな呼ばれ方。

 私は面倒事が嫌いだ。

 そう呼ぶなって言うのも面倒だし、止めさせる手間も考えて面倒になるから、ただ無視してるだけ。

 それに今日の模擬戦も面倒だったけど、ドラバルド先生から言われたから仕方なくやってるだけ。

 だからさっさと、昔のガウズみたいな奴倒して終わらせる。


 するとリティアは、宙に浮かせた8つの炎の球体をデイビットに向けて放つ。

 デイビットは先程と同じ様に両手に炎を纏い、殴り掛かった。

 しかし、デイビットが殴った直後炎の球体はその場で爆発するのだった。


「ぐっ!? 爆発だと!?」


 デイビットは爆発の影響を受け防御姿勢をとっていたが、そこへ次々に炎の球体が迫って来ていた。

 本来ならば、このまま避け体勢を立て直すと考える者がほとんどであり、間違っても直接攻撃はしないはずであるが、デイビットはその間違ってもしない行動をとり始める。

 その場から引かずに、そのまま迫って来る炎の球体へと突っ込んで行き、次々に炎の球体を殴り爆発させ、爆発などもろともせずにリティアへと進んで行くのだった。

 そんなデイビットの姿に、リティアは眉をひそめるのだった。

 デイビットはそのまま殴り爆発させ続けた事で、残る炎の球体も2つとなり、その内の1つも殴って爆発させた。

 そして、最後の1つも殴り掛かり爆発させ、そのまま爆風の中を突っ切ってリティアへと殴り掛かった時だった。

 リティアが小さく呟いた。


「ちっ……何で突っ込んで来るかな」


 その直後だった、リティアは素早く右腕を素早く払う。

 すると、飛び掛かる様に殴りに来たデイビットを含め周囲が一瞬で氷漬けになるのだった。

 一瞬の出来事に観客達も何が起こったのか理解するのに時間がかかり、遅れて歓声が上がった。

 更にその攻撃により、デイビットの急所ポイントが破壊された為、審判役の教員が試合終了の宣言をしたのだった。


「っ……お前……口以外でも……魔法が使えたのか……よ」


 デイビットは氷漬けにされた状態であったが、口は動かせた為直ぐに立ち去ろうとしたリティアに問いかけると足を止めた。

 そのままリティアは、氷漬けのデイビットに近付いて口を開いた。


「私は手を動かして魔法を使う事さえ面倒なの。だから、楽に魔法を使える為に口で使ってるだけ」

「!?」

「何その表情。口で魔法使う人が、普通に魔法使えないわけないでしょ。頭、ガウズより固すぎじゃない?」


 リティアはデイビットに向けて、自分のこめかみを人差し指でトントンと叩きながら答えると、そのまま立ち去って行くのだった。

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最強魔女の弟子、300年後に転生し師匠の娘を弟子にする 属-金閣 @syunnkasyuutou

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