第3話 準備

 ノーマンは司令部から出て武器庫に向かう。

時計を見ると時刻は4時50分を回った所であった。

(問題なければ半数程は集まっているとは思うが。)

今回ノーマンが選抜した隊員は優秀な者ばかりで、一般部隊では忙しくしているはずだ。

平時ならば引き抜きに文句も出るだろうが今回は無視できる。

そんな事を考えている内に武器庫前に到着した。

扉を開けると中にはハイエンを含め三人の男達が談笑していた。

男達はノーマンが入ると立ち上がり敬礼をする。

「エリオン・ヴロード二等軍曹。招集に応じました。」

一番大柄な男ヴロード。

平時は領内治安維持大隊に所属し、難所での負傷者の救助、障害物の破壊、大型武器での制圧を得意とする熱血的でモヒカンが目立つ隊員。

「クーラン・クラックス三等軍曹。招集に応じました。」

眼鏡をかけた男クラックス。

平時は軍医として船内、基地内で務める。

また医療研究者としても活躍している真面目で髪をオールバックに固めた隊員。

「ハイエン・ベルン・レナード軍士長。招集に応じました。」

改めて宣言する男ハイエン。

このチームでは最少年ながら中央情報群解析大隊に所属する秀才。

ツーブロックで髪を左に流した髪型が特徴的で陽気な隊員。

その三人にノーマンは敬礼を返し、声をかける。

「迅速な対応感謝する。ブリーフィングは全員が集まってから行う。それまで準備をしていてくれ。国境までの二日分だ。ハイエン、あとの二人はどうだった?」

「レイン中尉は家にいらっしゃいました。家族に声を掛けてから来るそうです。エデン一等軍曹は仕事中で片付き次第来るそうです。」

ハイエンは簡単に説明した。

すると、ヴロードが口を開く。

「まったく家族持ちは不便じゃ。任務の特性上めったに家には帰れんし、帰ってもすぐ呼び出されるし。特にレインは家族愛が強いから余計にな。」

ヴロードは特殊部隊員の煩わしさを語りながら荷物を詰めていく。

「でも少し羨ましいですよ。キツイ任務を終えて家に帰ると愛する家族がいて温かい食事が用意されている。中尉の奥様は理解もあるし、中尉は幸せ者ですよ。僕はこの前の任務から帰ったら彼女の家に行ったら別の男がいて揉めましたよ。」

クラックスがレインのフォローを入れつつ自分の愚痴を語る。

このまま放っておくと特殊部隊の愚痴大会になってしまうと危惧したノーマンは口を挟む。

「愚痴はそこまでにしておけ。そんなに嫁が欲しいなら軍の斡旋を頼れ。応募してくる娘さん方は軍人の娘が多く理解もあるしすぐに結婚できるぞ。」

ノーマンがそう言うと二人は

「「もう少し遊びたいのでやめときます。」」

と声を揃えて言った。

ハイエンは既に荷物を整えており、本の虫になっていた。


 四人が準備していると武器庫の扉が開き、二人の男が現れた。

「クーヴェル・グリッグス・レイン中尉。招集に応じました。」

色黒で筋骨隆々な男レイン。

ノーマンと同じ強襲大隊に所属している。

ヴロードと同じく救助と破壊、そして狙撃を得意とするスキンヘッドの隊員。

「エデン一等軍曹。招集に応じました。」

顔に大きな傷のある男エデン。

帝国軍憲兵隊に所属し兵士による犯罪を取り締まっている。

それに加え犯罪者への尋問、拷問を得意とするソフトモヒカンの隊員。

「お待たせして申し訳ありません。どうしても家族に別れを告げたくて。エデンとはタイミングが同じだったようで先程合流しました。」

レインは謝罪を述べる。

さらにエデンが続ける。

「こちらも仕事が長引いてこんな時間になりました。準備に取り掛かります。」

そう言うと二人は準備を始める。

「構わん。急な招集だし、両方とも大事なことだ。」

ノーマンがフォローを入れる。

六人は会話をしながら準備を進める。

5時10分。これでチーム全員が集まった。


 「現時刻0520、ブリーフィングを行う。」

ノーマンが少ない資料を広げながら部下達に今回の任務の情報を伝達する。

準備中に皇帝と中佐による命令は既に伝えたので後は実行動のブリーフィングである。

「まず、このチームのコールサインを伝える。TU00。タスクユニットだ。忘れるな。TU00はこの後兵器開発大隊に向かって新兵器の受領と説明を受ける。基本運用方法は変わらず、性能が良くなっているようだ。新しいおもちゃが手に入るぞ。」

ノーマンがニヤリと笑う。

するとハイエンが手を広げて

「ハッピーバースデイ!トゥ!アス!」

と叫んだ。

誰も反応はしない。

ノーマンは何も無かったように進める。

「今まで使っていたここにある兵器は大隊に返却し調整を受ける手配になってる。もし新兵器が合わなければそのまま使え。ここまでで質問はあるか?」

ヴロードが手を挙げ質問する。

「今回他国へのカムフラージュ用の武器はどうすんだ?エスペーダの翼もいるし兵器も使用が限られんか?」

ヴロードの質問にノーマンさらにニヤリとして答える。

「そう!それだ!今までユーガリア帝国は紛争激化を避けるために旧文明の兵器の使用を制限してきた。だから今でも一般兵の装備は剣や弓矢だ。俺達特殊部隊でさえ煩わしい武器を持って行かなくちゃならなかった。だが今回は違う。兵器による完全武装を許可された。エスペーダの翼の連中に関しても問題ない。今回の情報提供でわかったが、奴らも同程度の技術を保有しているらしい。教えでこの大陸のほとんどの国に遺跡探索を制限しているのにだ。まぁ奴ららしいと言えば奴ららしいがな。」

ノーマンの口ぶりは愚痴交じりであったが、どこか楽しげであった。

やはり本気を出せるのがうれしいのだろう。

さらにノーマンは続ける。

「話を戻そう。兵器受領後はそのまま出発し二日掛けて国境に向かう。場所が南南西で砂漠を突っ切るせいで速い車両が使えないから時間が掛かってしまう。そこは諦めだ。車両で南方国境防衛大隊の駐屯地に到着したら無駄な荷物を預け、エスペーダの翼と合流する。あっちは二人出すそうだ。二人共遺跡調査の経験も実践経験もある奴らの虎の子らしい。問題なく連携とれるはずだ。あとは現地に向かい調査するだけだ。」

そこまで話しレインが手を挙げる。

「調査で中に何もなかったらどうする?ここまでしてそのまま帰って来て解散はないだろ?」

レインの質問は皆思っていたようで、全員ノーマンに目を向ける。

「もちろんだ。中に手掛かりがあればそれを持ち帰るし、何も無ければセガーニ教の奴らを追わなきゃならん。そもそも中で目的を達しても、持ち帰った後に追わなきゃならん。恐らくこの任務は長期任務になる。覚悟しておけ。他に何かあるか?」

ノーマンが質問を促す。

皆特に無い様で口々に「無し。」という。

ノーマンは楽しそうに宣言する。

「では、おもちゃを取りに行こう。」

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