第4話 武装

 5時40分 六人は巨大な扉の前に到着した。

ここが帝国軍技術開発大隊の倉庫である。

先の大戦後に設立された部隊である。

主な任務は遺跡から発掘された旧文明の兵器を解析し使用可能にすることだ。

帝国の兵器制限により表に出ることは無いが、特殊部隊には無くてはならない部隊だ。


ノーマンは扉を叩く。

すると大きな音を立てながら扉が開く。

目に入って来たのは城の様に黒く大きな建造物だった。

それを遮るように長身で細身の女性が現れた。

「ようこそ技術開発大隊へ。待っていたわ。」

女性はそう言うとノーマンと握手を交わす。

「新しいおもちゃがあると聞いて来た。見せてくれ、アエラ。」

女性の名はアエラ・フォン・グローブ。

若年ながらも科学技術に長けており、特に携帯武器に関して彼女の右に出るものはいないとされる程の天才だ。

「きっと気にいると思うわ。付いて来て。」

彼女はそう言うと倉庫の奥にある自分の研究室に向かって歩き出した。


 六人はアエラに連れられ倉庫の隅にある彼女の研究室に入った。

「なんじゃこりゃ。前来た時より広くなってるのに物がガチャガチャになってんじゃねぇか。」

ヴロードが周りをキョロキョロとしながら言う。

研究室の中は様々な遺物が所狭しと置かれていた。

「いやぁ、片付けようとは思ってるのよ?でも次々遺物が来てね。解析して、整備してるとその時間が無くてね。許して。」

彼女は言い訳をしながら奥に進んで行く。

「まさか自室はこうじゃないだろうな?アエラ?」

クラックスが小さく呟く。

アエラは苦虫を潰した様な顔をしながらさらに言い訳を重ねる。

「どうしても片付けという行為が苦手で…。でも同室の子が綺麗好きで、自室は綺麗よ!」

六人は目の前にいる美人で聡明な学者を呆れの目で見ながらついて行く。

ついて行った先には広い空間があった。

「マーカレウスから話は聞いてるわよ。長期的かつ複雑な任務でしょ?良いのができてるわよ!」

アエラは先程のやり取りが無かったかのように目をキラキラさせながら言う。

六人は椅子に座りながらアエラの話を聞く。

「前回の大尉の持ち帰った遺物の中に今まで解析出来なかった物の設計図がかなり含まれてたの。そのおかげで開発が進んだわ!待ってて!」

そう言ってアエラはさらに奥に消えていく。

ノーマンはこの後の展開を予想し、ハイエンに命令を出す。

「ハイエン。きっと説明会は長くなるぞ。人数分のコーヒーを頼む。」

「了解で~す。」

ハイエンは軽く返すと来た通路を戻りコーヒーを取りに行く。

そこで今まで一言も発しなかったエデンが立ち上がる。

「ハイエン一人だと辛いでしょう。俺も行ってきますよ。」

そう言ってハイエンについて行く。

通常軍隊では階級の低い者が雑務を行う。

だがこのチームを始めとする特殊部隊にはそういった文化は無い。

任務中チーム外の人間に序列を悟られない為だ。

ノーマンがハイエンにコーヒーを頼んだのは単純にハイエンの入れるコーヒーが好きだからだ。エデンに関しても純粋な親切心であり、誰も口出ししない。

「レイン中尉、ヴロード2曹。重い物があるの。手伝ってくれる?」

奥からアエラがガタイの良い二人を呼ぶ。

「ま~た重い荷物はワシらじゃ…ガタイが良いのも考えもんじゃな。」

愚痴を漏らしながらヴロードが立ち上がる。

レインは何も言わず頭を掻きながらヴロードと共に奥に歩いて行く。

残されたノーマンとクラックスは口には出さないが同じことを考えていた。

((こういう時何もすることねぇなぁ))


 ハイエンとエデンがコーヒーを持って来るのと新兵器がテーブルの上に並ぶのはほとんど同じタイミングであった。

「あら、私のも用意してくれたの?ありがと!」

ハイエンからコーヒーを貰い礼を言うアエラ。

一口飲み話し始める。

「良い子のみなさ~ん!プレゼントの時間よ~!」

全員がアエラにハイエンと同じような薄ら寒さを覚えながら大人しく説明を聞く。

アエラが目をキラキラさせながら兵器の説明をしていく。

片手に収まるサイズの銃から子供の背丈よりも大きなサイズの銃、作戦行動の幅を広げる拡張パーツ。

先程言ったように開発は順調に進んでいたらしい。

ノーマン以下六人は本当に新しいおもちゃを貰ったかのように目を輝かせている。

「さぁ!どれでも好きな物を選んで!」

アエラは両手を開いて促す。

その言葉を皮切りにそれぞれが惹かれた兵器を手にする。

旧文明の国はユディーナ大陸全土に加えて様々な地域に領土を持っていた。

それに伴い軍人の数も多く、運用する兵器も使い方がわかりやすい物が多かった。

さらに今回それを見ているのは特殊部隊員である。

それぞれ苦労する事無く新兵器をいじっている。

「スナイパーライフルに12.7㎜も弾を使うのか。威力も射程距離も段違いだろうな。しかし大きすぎて遺跡内では使用が限られるな。」

レインが子供の身長よりも大きな銃を見ながら呟く。

それに対してアエラが自慢げに答える。

「そう!M82スナイパーライフルよ!あなたの言う通り!今までのライフルよりも長距離を狙えて、威力も数段高いわ!50㎜ある旧文明の特殊金属壁でも貫通できるわ!しかも弾は二種類あってもう一つは当たった瞬間に弾丸が潰れて壁を崩せる!攻城槌の代用も可能ね!デメリットもあなたの言った通り。サブで補って!」

アエラがそう言うとヴロードが喜々として言う。

「そりゃいいじゃねぇか!毎回持たされてたあのクソ重い槌を置いていけるじゃねぇか!」

「確かにな。アエラこいつを貰う。弾はどれだけある?」

「弾は後ろの木箱に入ってるわ。現状作成できた物で千発程あるわ。オリジナルは確保してるから好きなだけ持って行って。弾倉はその下に入ってる。それも好きなだけ持って良いわよ。」

アエラの返事を聞いてレインは木箱を漁り、弾を持って試射場に向かう。


 それぞれが気に入った兵器を選び射場から戻って来る。

全員が新兵器を手にし、満足気であった。

それを確認したアエラは

「さらに!」

と言いアタッシュケースをテーブルの上に出す。

「今回はサイドアームのプレゼントもあるわ!今まで支給していたベレッタとかいうあなた達に耐久性でボロッカスに言われた物より数段良い物よ!」

そう言ってアエラはアタッシュケースを開ける。

中には黒々とした拳銃が人数分と大量の弾倉が入っていた。

「Mk.23!旧文明の特殊部隊が特注で作成させた。特殊任務の為の銃よ!」

アエラは早口にその銃の特徴を語る。

一通り語り終わったであろうタイミングでノーマンが口を挟む。

「俺のガバメントは直らなかったのか?」

ノーマンは以前の作戦でお気に入りの武器が壊れてアエラに修理を頼んでいた。

アエラは自信ありげな顔で答える。

「私を誰だと思ってるの?天才科学者よ?はい、完璧に直ったガバメントよ!」

そう言いながらノーマンに拳銃を渡す。ノーマンは

「感謝する。」

と言いながらホルスターにしまう。


 「皆準備はできたな。行くぞ。」

ノーマンは全員が装備を整えたのを確認し、声をかける。

全員が頷き出口に向かう。

そこにアエラが声をかける。

「本当に二日も行軍するの?もっと急ぎたくない?」

ノーマンはアエラの意図を読み切れずに問いかける。

「どういう意味だ?今の技術じゃ二日が限界だろ?もっと早い車両があるなら欲しいが。」

「車両は無いわね。」

アエラはさらっとノーマンの問いに答える。

「どういうことだ?」

ノーマンは言葉遊びを始めるかの様なアエラに少しイラつきながらさらに問う。

「車両は無いけど、もっといい物があるわよ。ヘリコプターって言うんだけど。」

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