大切な人との幸せがここにある。

妾腹の子として生まれ、不遇な扱いを受け続けてきた志乃。そんな彼女にも、嫁ぎ先が決まることになります。
とはいえその相手というのが、よからぬ噂が流れている上に、祝言なし、家に女中なし、盲目の祖母同居でその面倒を見る。そしてもちろん、それまでに培う愛もなしという、残念ながらとても幸せな結婚とは言えないもの。なのに彼女がこれを受け入れたのもまた、その方が家にとって都合が良いという、駒扱いされた結果でした。

しかしもちろん、この話はただ志乃が辛い仕打ちを受けるだけのものではありません。結婚相手の慶一郎は、少々ズレていて、はじめこそ上手く言っているとは言い難かった夫婦関係ですがそこで活躍するのが、慶一郎の祖母である千代さん。世話する、されるといった立場の二人でしたが、それだけには留まることなく、ちゃんと志乃と向き合い、彼女を全うに扱ってくれています。それまで志乃が実家でどれだけ不遇な扱いをされていたか知っているだけに、彼女の優しさに心が温まるようでした。
もちろん夫である慶一郎も、歩みはゆっくりなれど徐々に夫婦としての仲を深めていく。そして、初めて知る愛情と数々の出会いは、志乃自身にも変化をもたらしていきました。

辛い境遇にあるからこそ、幸せになってもらいたい。古くから数多くの物語で書かれていることですが、本作もまたそんな気持ちにさせられ、だからこそそれが叶う時、我々読者も幸せな気持ちになることでしょう。

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