第25話:閑話・諦観・キャッスル王国宮廷
「どうであった、収穫はできたのか」
キャッスル王国の国王が勢い込んで側近に確認した。
多くの密偵を投入してようやく手に入れた神種だ。
その成果を確認したのは当然のことだった。
「残念ながら、種をまいて三カ月での収穫はむりした。
普通の大麦やライ麦と同じでございます」
「なんだと、それでは何の意味もないではないか。
では、あの噂が嘘だったのではないのか」
「いえ、嘘ではありません。
種まきから収穫までがたった三カ月で、従来の大麦よりも大粒の実が数多く実り、収穫量が五倍の重量になると言うのは事実でございます。
そうでなければブートル辺境伯領が自給自足できるはずがありません。
今のブートル辺境伯領には百五十万もの民がいるのですから」
「だったら何故だ、何故王領地では普通の穀物と同じになってしまうのだ」
「それは、陛下自身が分かっておられるのではありませんか」
「……聖女の力、守護神の力だと言うのか」
「それ以外に五倍の収穫ができるなど考えられません。
まして同じ種が場所によって収穫量が違ってくるなど、あり得ないことです」
「お前は聖女の力、聖なる力で間違いはないと言うのだな」
「聖なる力なのか、神通力なのかは、人間でしかない臣には分かりません。
分かっている事は、聖女を怒らせてはいけないという事です。
臣は神罰を受けるのも信徒に殺されるのも嫌でございます」
「ブートル辺境伯は家臣だと思うな、神の使いだと思って決して逆らうな。
お前はそう言っているのだな」
「恐れながらブートル辺境伯ではありません。
聖女と守護神を怒らせなければいいのです。
ブートル辺境伯には王として正当な命令を下せば宜しいのです。
不当不正な命令さえ下さなければいいのです」
「分かった、分かった、分かった。
辺境伯に陞爵したのだ、辺境の事は任せて放置する。
それでよいのであろう」
「はい、一国の君主として賢明な判断でございます。
それに国内にブートル辺境伯領があるというのは大きな力となります。
不当な税をかけなくても、ブートル辺境伯領に向かう商人や旅人が莫大なお金を落としてくれます。
このままブートル辺境伯領の農地が広がれば、莫大な量の余剰穀物が我が国に出回ることになります。
なにより大きいのは、我が国に攻め込もうと考える国があっても、ブートル辺境伯家の援軍を計算しなければならなくなります」
「分かっておる、多くの利がある事は分かっておるのだ。
だが、もしブートル辺境伯が独立を宣言したらどうするのだ。
我が国にそれを阻む力などないのだぞ」
「陛下、聖女とて人でございます。
永遠に生き続ける訳ではございません。
歌聖女の次の代がただの人になったときのことを考えない領主などおりません。
ブートル辺境伯は賢明な領主でございます。
王家と敵対するような事はありません」
「ふむ、そうか、そうだな、代替わりを考えれば不安はなかったな」
「はい、今から不安に思っているのはブートル辺境伯の方でございます」
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