第26話:塩の実

 色々と腹の立つことはありますが、これはいくら何でも酷過ぎます。

 

(ヘルメス、返事をしなさいヘルメス)


(なんだい、我が愛しの聖女よ)


(なんだいじゃないわよ、ヘルメス。

 これはいくら何でもやり過ぎでしょ。

 塩の実がなる雑草だなんて聞いた事ないわよ)


(そりゃそうだよ、神界の草だからね。

 でも、盗人の神なら神界から役に立つモノを盗んでこいと言ったのは、我が愛しの聖女だったよね)


(言ったわよ、確かに私が言った事よ。

 ヘルメスが盗んできてくれた聖麦は本当に助かったわよ。

 その事にはとても感謝しているわ。

 だけどね、塩が実る草はやり過ぎよ)


(でも、塩で困っていたんだろ。

 この領地は海に面していないし岩塩窟もない。

 いくら俺が色々な力を持っている神でも、岩塩窟を創り出すのは無理だからね)


(そんな事は分かっているわよ。

 私が言いたいのは、あまりに常識外れなモノまではいらなかったと言いたいの)


(我が愛しの聖女様は無茶言ってくれるよ。

 神の世界から何かを盗んで人界に与える事が、そもそも常識外れなんだよ。

 通常の半分の期間で五倍の収穫量を得られる種なんて、人間界では非常識極まりないモノを盗んだのだから、今更塩の実る草の種を一緒に盗むくらいどうってことないのだよ)


(うっ、それを言われると、これ以上は文句が言えないわね)


(まあ、セシリアは気がついていないけれど、他にも色々と非常識なことができてしまっているんだけど、セシリアが落ち込むから言わないでおいてあげるよ)


(そう、領地の食糧問題が解決したのは、神々から怒りを買いかねないとんでもないモノを盗めと言った結果なのね。

 あの時は正直必死だっから、ごめんなさい、無理を言ってしまったわ)


(別に謝る必要なんてないよ、我が愛しの聖女セシリア。

 俺も色々楽しかったしね)


 うれしそうな顔をしやがって。

 ヘルメスの神界での立場を心配した私が馬鹿だったわ。

 私が必死で考えてだした答えも、全部ヘルメスの誘導された結果かもしれないと思うと、無性に腹が立ってくるわ。


(そう、だったらもう謝らないわよ。

 それで、どうなの、ジェイムズ王国とキャッスル王国の方は。

 私達を滅ぼそうとしたりしていないでしょうね)


(だいじょうぶ、だいじょうぶ、何の心配もいらないよ。

 キャッスル王国の方は代替わりまで我慢する覚悟ができたようだよ。

 ジェイムズ王国は何かしたくてもするだけの力がないよ。

 それに何かセシリアに危害を企てるようなことをしたら、狂死させるから。

 ああ、そこでちょっと相談があるんだけど)

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