第24話:盟主

「ブートル辺境伯殿、この通りです、どうか我らの盟主になってください」


 ジェイムズ王国の貴族がほぼ全員そろって頭を下げています。

 来ていないのは王族の縁者とウィルブラハム公爵家だけです。

 この人達も生き残るのに必死なのです。

 領民の逃亡は止まらず、商人も旅人も全く来なくなっては、領地経営など不可能ですからね。


「いや、しかし侯爵殿、そのような事をしたら王家が黙っていまい」


 普通なら父上の心配も当然のことです。

 貴族が離反すると言いだしたら王家王国が黙ってはいません。

 近隣の貴族を動員し、王家直属軍も率いて攻め滅ぼします。

 まあ、全て普通の状態ならですが。


「その心配はありません、ブートル辺境伯殿。

 貴族はごく一部を除いてほぼ全員がブートル辺境伯殿を盟主に望んでおります。

 王家直属の騎士や徒士も大半が王家から離反しています。

 現に領地を持たない王家騎士や王家徒士が、慈母聖女様と歌聖女様を慕ってブートル辺境伯領にきているのではありませんか」


 侯爵殿の言う通りです。

 もう王家王国に我が家はもちろん国内貴族を討伐する力はありません。

 兵力だけでなく、軍資金も兵糧もありません。

 だから傭兵や冒険者を集める事もできません。


 略奪を条件に傭兵や不良冒険者を集めたとしても、そんな連中はヘルメス信者の詐欺師にだまされ身ぐるみはがれるか、ヘルメス信者の盗人に全財産奪われるかならまだマシで、狂死するまで悪夢にうなされることになります。


「まあ、侯爵殿の言われる通りなのだが、しかし、私が盟主になど成ったらキャッスル王がどう思うか……」


 普通なら今仕えている王家に対する配慮は必要でしょう。

 ですが今回に限っては父上の考えすぎでしょう。

 もしキャッスル王がブートル家に敵意を持っていたなら、辺境伯に陞爵せずに軍を率いて討伐していたはずですから。


「その点は心配いらないのではありませんか。

 キャッスル王国の貴族士族にも、慈母聖女様と歌聖女様を慕っている者が数多くいると聞いております。

 討伐を命じても無視する貴族士族が多いはずです。

 いえ、なかには叛旗をひるがえす貴族士族も数多くいるはずです」


「公爵殿たちがそこまで言われるのなら、形だけ盟主を引き受けましょう。

 ただ危険だと思ったらいつでもジェイムズ王に帰順されよ」


「ご配慮いただきありがとうございます。

 では盟主殿、最初から厚かましい事ではありますが、お願いがございます。

 我らも貴族として領地を守る責任があります。

 貴族として家名と血統を守る責任があります」


 さあ、いよいよ本音が出てきますね。

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