第13話:閑話・ジェイムズ王国王都の人々
「おい、こら、なんだよこれは、昨日値上げしたばかりだろ。
今日も値上げするなんてあまりに酷過ぎるぞ」
「そうだ、そうだ、それどころか毎日値上げしやがって。
そんなに値上げされたらパンが買えなくなるだろ」
パン屋の前に集まっていた客がガマンできずに大声を出している。
「バカ野郎、毎日小麦やライ麦の値段が上がっているんだよ。
この値段だってもうけをなしにして安くしているんだ。
ウソだと思うのなら他のパン屋や穀物屋に行ってみろ」
パン屋も激しく言い返している。
そしてウソは言っていない。
セシリアがなりふり構わず高値で食糧を買い集めているので、隣国のジェイムズ王国の食糧が大量に流出しているのだ。
「なんでだよ、なんで急にパンや穀物が高くなるんだよ」
「これは噂なんだが、ウィルブラハム公爵が弟のブートル伯爵家を皆殺しにしようとしたのが原因らしいぞ」
「何だよそれ、なんでお貴族様の争いが俺達の生活にかかわるんだよ」
「それがな、ブートル伯爵家の奥様は聖女だったらしいんだ」
「おい、おい、おい、何言っているんだよ。
聖女はウィルブラハム公爵のコリンヌ嬢だろ」
さっきまでケンカしていた客とパン屋が真剣に話しだした。
周りの集まっていた人間もだまって真剣に聞いていた。
「お前本気でそうお思っているのか、だったらバカとしか言えないぜ」
パン屋にそんな風に言われた短気な客は怒ろうとした。
怒ろうとしたのだが、パン屋が続ける言葉に怒りを飲み込むしかなかった。
「だってそうだろう、聖女様が残っていてなんでお前達が飢えないといけないんだ。
聖女様なら飢えに苦しむ王都の民の為にパンを恵んでくださって当然だろう。
お前達はまだ文句を言いながらもパンが買えていた。
だが貧民達はとっくの昔にパンを買えなくなっているんだぞ」
「……じゃあ、お前は誰が聖女だと思うんだよ」
「そんなの決まっているだろ、ブートル伯爵の奥様だよ。
偽者が聖女になるのに一番邪魔なのは本物の聖女様だ。
だったら追い出されたブートル伯爵家の奥様が聖女様に決まっている」
「奥様はもう結婚しているんだぜ。
聖女様は独身の令嬢が選ばれるんじゃないのか」
「いや、そうとは限らないんじゃないか。
独身の令嬢にろくな奴がいなければ、神様も既婚の夫人を選ぶかもしれないぞ。
何といってもブートル伯爵家の奥様は貧民に施しをされていたからな」
パン屋と短気な客が会話している所に周りの人間が加わってきた。
彼はブートル伯爵夫人が定期的に施しをしていたのを知っていた。
「お前達何をやっている。
王国を追放された伯爵家をほめるような奴は牢屋に叩き込むぞ」
王都の警備隊がパン屋の前に集まっていた客を追い払った。
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