第5話 この度、親愛を知りまして!


 今私はお姉様の部屋の前で行ったり来たりを繰り返している。


 理由はもちろん、怖いからだ。茨沢さんの話を聞くことで皆の愛情を再確認した私だが、だからといってそう簡単に勇気が持てるわけが無く、意気揚々と部屋まで来たは良いものの中々最後の一歩が踏み出せなかった。


 そもそも少し捉え方が変わっただけで何でも解決できるなら、こんなに長い時間家族がすれ違うはずが無いのだ。言葉を交わした茨沢さんはまだしも、お父様やお姉様にはまだ嫌われているんじゃないかと怖がってしまう。

 だからこそこうしてお姉様の部屋に来ているわけだが…。


「お姉さまならきっと喜んで入れてくれるはず…。でも疲れてたらおやすみの邪魔をするのは嫌だし…。でもでも今日を逃したら次はいつ決心が付くかわかんないし…!でもぉ…でもー…!」


 ドアノブを掴んだり離したり、扉の前でしゃがんだり立ったり、自分の弱気さに辟易するけど事実怖いものは怖いもんで…。

 たっぷり三十分は悩んだだろうか?ようやく決心が付き扉の前で深呼吸を一つ、心を落ち着けドアノブに手を伸ばす。すると、扉が独りでに開き呆れた顔のお姉様がこちらを眺めていた。


「あっ……お姉様こんばんわ?」


「うん、こんばんわ…?さっきから部屋の前で騒がしいけど何か用?」


「あ、その、うん。大事な話があるんだ」


 しっかりとお姉様の目を見つめながら告げる。呆れた表情だったお姉さまも私の真剣さが伝わったのか、真面目な顔つきに変わっていく。何故だかしばらく見詰め合っていると、不意にお姉様の表情が和らいで部屋へと招いてくれる。


「そう、大事な話なんだね。入って鏡花、ベッドの上でお話しよう」


「えっと、お邪魔します?」


「ふふ、何それ?畏まること無いでしょ。」


 二年ぶりに入った部屋はあの頃と殆ど変わってなくて、二人でベッドに腰掛るとあの頃に戻ったみたいに感じる。お陰で緊張した気持ちが少し解け、余裕が生まれてくる。

 もう逃げることは出来ないししたくないと、私は意を決して言葉を紡ぐ。


「ねぇ、お姉様は私が嫌いになった?」


「…よく、聞こえなかったからもう一度言って?」


 お姉様の顔が強張る。最近ますます美しくなったお姉様の真顔は、その目力もあった正直凄く怖い。怒りは感じられないが、僅かに見開かれた瞳には困惑と焦燥。萎縮しそうになる心を奮い立たせ、もう一度口にする。


「お姉様は、私のことが嫌いになった?」


「……どうして、そう思うの?」


「どうしてって?だってお姉様、もうずっと私と向き合ってくれてない。周りと線を引いたみたいに、ホントのこと言わなくなった」


「そんなことないでしょ?今だって鏡花とお話してる。学校と習い事が大変だから、時間が取れないだけだよ」


「嘘つかないで!あの日からいっつも誤魔化してる!ずっと一緒だったのに、すきだって言ってくれたのに!別人みたいに変わっちゃった!」


「もう6歳だもの、変わるに決まってるでしょ?鏡花のことは好きなままだし。ねぇ鏡花、お姉様のことが信じられない?」


 幼い子供を宥める様な言い方に、イライラする!

 思い浮かぶのは太陽みたいに天真爛漫な姿で私の手を引くお姉様の姿。変わった?違う、お姉様は無理やり自分を変えたんだ!どうして理由を隠すのか、そんなにも私は信用できないのか。遠ざかる心の距離に気が付かないほど私は鈍感に見えるのか!


 抑えられない苛立ちと激情に涙を浮かばせながら、答えを求めて言い募る。


「信じられないよ、今のお姉様の言葉は!どうして遠ざけるの?悲しくない振りをするの?遅くまでがんばって何から逃げているの?私わかるよ、お姉様の嘘に!」


「だから、何でもないって。ちょっと疲れてるだけで、鏡花の考えてることは全部勘違い」


「勘違い?そんなことない、ずっと一緒にいたんだからそのくらいわかる!私、なんでも聞くよ、どんな理由でも耐えられるよ。だからお願い、お姉様の想いを私に教えてっ!」


「……ううん、やっぱり勘違いだよ。鏡花の考えすぎ。」


 私の精一杯の懇願は、結局お姉様の心の水面を揺らすことが出来ず、張り付いたその表情が消える事は無かった。屈辱だ、私を信じてもらえないことが。屈辱だ、家族一人まともに言葉を交わせない自分が。

 紙一重で保てていた感情が爆発する!


「そう…やっぱり私が本当の家族じゃないから信じられないんだ。ずっと私のことを騙してたんだっ。私と過ごした日々は、お姉さまにとってはお人形遊びだったんだっ!!」


「なっ、鏡花なんて事を言うの!?」


「うるさいっ! 天使だなんて可愛がってたのもお気に入りの玩具に浮かれてたんだ! 飽きたから、疲れたから、私のことどうでもいいんだっ! もういらないんでしょ? 幸せだなんて浮かれてた私を馬鹿にしてたんでしょ!? だから私に何も言ってくれないんだっ!!!」


「待って鏡花! 話を聞いてっ!」


「いやっ離して! 聞きたくないっ!」


 落ち着かせようと肩に触れる手を、強引に振り払う。今更焦った様子で心配されても、火の点いた感情は理性ではもう押さえ込めなくて、砕けた思いの破片が自分も回りも傷つけてジクジクと痛みをもたらす。

 そして言葉の刃はとうとう、大切な人の心にもその切っ先を向けた。


「知ってる? 私皆からバンシーって呼ばれてるの。おかしいでしょ、お母様がいなくなったのは私がいたせいだって思われてるの。お姉様もそう思ってるんだ、だからあの日から変わったんだ! 人殺しは好きになれないよね? こんな不気味な手なんか握りたくないもんね? 醜い痣も天使の羽なんかじゃなくて、きっと呪いの証なんだ。ごめんねお姉様の幸せを壊して。大嫌いな私なんかの相手をさせて。安心して、もうお姉様の側に近寄らないから、二度と好きだなんて言わないから!」


 お姉様の顔が青褪めていくのがわかる。こんなことを言いに来たんじゃないのに、傷つけたい訳じゃないのに、抉るような言葉が止め処なく漏れてくる。辛そうに歪むその顔が痛ましくて、罪から目を背けるように俯く。


 嗚呼、でもいっその事完全に嫌われてしまえば、この悲しい日々も終わってくれるのだろうか?

 心を殺してしまえば、希望の眩しさに苦しまなくて済むのだろうか?

 あなたの心を翳らせるくらいなら、この絆に終わりを迎えるべきだろうか?

 このまますれ違うくらいなら、このまま嫌われるかと恐れるくらいなら。ぐるぐると回る思考と感情、袋小路のような心が徐々に収まり、一つの結末を思い浮かべる。


 自分自身で、この関係を終わらせてしまえと……。


「うん、私やっとわかった。初めから愛されてたんじゃない、同情されてたんだって。誰かに手を引かれないと歩けないくせにまともになれた気になって…。あの日から皆前を向いたのに、だめな私は泣いてるまんま。こんな私はこの家に来るべきじゃなかったんだ、私なんか選ばれなければ良かった!」


「やめなさい鏡花っ! 皆の愛を否定するのはやめて!」


「私がかわりに死んでれば良かったんだっ!!!」


「――っ!! この馬鹿ぁっ!」


 スパァンッ!! という破裂音。振りぬかれた手、熱を持つ頬、お姉様の菫色の瞳から零れる一筋の雫。

 終わった。とうとう嫌われた。お姉様は釣り上がった目を限界まで見開き、屈辱そうに唇を噛んでいる。

 覚悟していたはずなのに、その姿に激しく後悔が押し寄せ涙が視界を滲ませる。

 静寂の中、二人の涙を流す音が響く。少しすると、あまりの罪悪感に顔を上げられない私の両手が、ゆっくりと暖かく包まれる。


 どうして?期待していたのは叱責の言葉で、こんな優しい感覚じゃない。

 戸惑いながら顔を上げると、お姉様は泣きながら微笑みこちらを見ていた。いつもの薄っぺらい笑みじゃない、相手を思うあったかい笑顔。

 目の前の光景に戸惑う私に、ゆったりとした優しい言葉が送られる。


「ごめんね鏡花。こんなに思い悩むほど辛いのに、信じてくれてありがとう。寂しがらせて、本当にごめんね。」


「なんで?私酷い事言ったのに…なんでそんなに…」


「そうね、とっても酷いことを言われて辛いのは事実だけど、そうさせたのは私達。鏡花が苦しんでるって気付いてたのに、見てみぬ振りをして追い詰めたんだから。鏡花を見てるとついあの頃を思い出して、変わった毎日が辛くなるから、無理に頑張ってる振りして距離を置いてしまってたの。」


「わかるよ…私も一緒だもん…」


「それにね……私、お母様になりたかったの。優しくってポカポカして何があっても皆を愛してくれたお母様に。だから笑い方とか真似してみたんだけど失敗みたいね、無理してるのがばれてギクシャクしちゃうなんて…。似合ってないのは解ってたけど、まさかここまでなんてね。」


 そうやってお茶目に笑うお姉様に、母の面影が重なる。今まで不自然に感じていた姿は、お姉様なりに努力した証だったのだろう。勝手に勘違いして落ち込んでたのが恥ずかしくなる。


「そんな…私自分が嫌われたからだと思って、あんな酷いこと言っちゃった!」


「いいの、お母様の真似して本音を隠したのはホントの事だから。鏡花に嘘って言われたときにね、私じゃあお母様になれないんだって言われたみたいで悔しくて、認められなかったんだ。私にとってお母様みたいになることは、大切な約束だったから」


「約束?」


「そう、約束。お母様との最後の約束。その為にも少し言わせて」


「うん、何?」


 返事をした途端に空気が変わり、初めて感じる雰囲気がお姉様から感じられるが、懐かしさのような感覚が頭の隅に引っかかる。冷ややかにも感じる怒りを纏ったお姉様は、私の目を食い入るように見つめてその口を開く。


「死んだほうが良いなんて二度と言わないでっ!!!」


「っ!」


「怒ってもいいよ、泣いてもいいよ、耐えられないなら私にぶつけてもいい。だけど、死んでもいいなんて自分で言うのはやめてよ!お父様もお母様も茨沢さんもみんなみんな鏡花に死んで欲しいだなんて、消えて欲しいなんて思うわけないって信じて!鏡花は臆病で寂しがりやだから、そんな自分が好きじゃないんだよね?だから迷惑になってると思ったんだよね?」


「う゛ん゛…」


「そうだよね、鏡花は怖くなっただけ。でも自分で自分を傷つけるのは絶対にダメ!それは皆を裏切ること、鏡花への愛を裏切ること!二度と自分を傷つけようとしないで、自分の思いを殺そうとしないでっ!!思いを伝えるために、誰かを傷つけるのを恐れないでっ!!あんな事言われて、怖くて、悲しくって、とってもとっても辛かったんだからぁっ!!」


 もう、限界だった。


「うあ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!ごべん゛な゛ざぁい゛っ!!!お゛ね゛え゛ぢゃん゛ごべん゛な゛ざぁい゛っ!!!」


「馬鹿、ホント馬鹿ぁ!そんなに寂しいなら言えばよかったのにぃ!」


「ごべん゛な゛ざい゛!!だい゛ずぎぃっ!!ヒ、ヒッグゥ、お、おねえちゃんもパパも茨沢しゃんもみんな大好きなのぉっ!!!」


「ならどうして死んでもいいなんて言ったの!?昔のことを聞いたなら、初めて会ったときから大好きだって気付いてたでしょ?」


「だ、だって、私がおねえちゃんを縛り付けてると思ったからぁっ!好きでもない私に、せ、責任を感じてるとお、思ったからぁ…。」


「じゃあ、勘違いしちゃったんだね?やっぱり馬鹿、いままでもこれからも何時までも、お姉様は鏡花のことが大好きなんだからっ!」


「う゛え゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん゛っ!!お゛ね゛え゛ぢゃん゛あ゛り゛がどう゛~!!!」


 頭も心もパンク寸前だ。嬉しさと、愛しさと、申し訳なさと、悔しさが綯い交ぜになって濁流の様に感情をかき回し、もう何がなんだかわからないっ!

 私もう我慢しなくて良いんだ。私はもう誰かを愛して良いんだ!心に絡みついた鎖のような自己嫌悪と他者への恐怖が、溶けて涙と一緒に流れ出す。叫びだしたい、皆のことがこんなにも大好きなんだとっ!


「あの日、お母様は出発する前に私に言ったの。鏡花のことをよろしくねって。」


「…ママが?」


「そう、だから私はお母様の分も鏡花を愛そうと、幸せにしようと思ったの。お母様みたいに振舞って、お母様みたいに立派になって。その為に習い事とかも頑張ったんだけど結局鏡花を悲しませちゃった…」


「そうだったの…?私、何にも気付かなかった…」


 自己嫌悪を感じ始めた私は、不意にふわりと抱きしめられる。その胸の優しい匂いは懐かしくて、私は簡単に安心してしまう。顔を上げてみれば、まるで子をあやす母親のような微笑が見える。気恥ずかしさに頬が熱を持つが、その顔の近さが嬉しくて目を背けられない。


「こうしてるとよく遊んでた頃を思い出すね?ときどき泣いちゃう鏡花を、あやしてたときを思い出す」


「そんなに泣いてないよ…多分」


「ううん、ちっちゃい頃から鏡花は泣き虫だったよ。誰かが離れたり、手を握ってないとすーぐ泣いてね。そうするとこうして泣き止ませてたんだ」


 そういうと改まったように咳を一つ、両手を繋ぎその菫色の瞳を細めて、いつものあの言葉を口にする。


 唐突に一つの場面が脳裏に浮かび、目の前の光景に重なりだす。ここではない何処かで石造りの何かに腰掛て、こちらを流し見る赤い髪の美少女。お姉様をそのまま大きくしたような彼女は何処か悲しそうにも楽しそうにも見える表情で口を開く。


「どうかこの娘に、」お姉様の言葉だ。


「精々あなた達に、」少女の言葉だ。


 そして二人の顔が重なる。


「「祝福が訪れることを願っているわ……」」




 

 思い出した。お姉様はあのゲームの大好きだった悪役令嬢。

 そして私は、この世界にいない筈の転生者。違和感は血が繋がって無いからじゃなく、私の魂が違う世界のものだから。

 

 私は、正真正銘の異物だったんだ。ならば私がこの世界に来た理由は、きっと…… 


 愛しい姉を救うためだ。












 バァンッ!!!


「ごめんよ二人とも~~~~~~~~っ!!!」


「「お父様 (パパ)ぁっ!?」」


「凛后ちゃぁん!鏡花ちゃぁん!二人がこんなに悩んでいたなんて僕は…僕は…!うぉーいおいおいおいおいおいおいおいおいっ!」


 端整で冷たさを感じさせる顔をくしゃくしゃにさせ、私達を抱きしめながらお父様は号泣している。そのあんまりな泣き顔は私にそっくりで、血も繋がらないのに不思議なものだ。

 開け放たれた扉の先には茨沢さんがいて、いつもの呆れ顔がこちらを覗いている。


「ごめんよぉ、ごめんよぉ!不甲斐ないパパをどうか許してくれー!うぉーいおいおいおいおいおいおいおいっ!」


「わかりましたからお父様、もう少し静かに泣いてくれませんか!?」


「ふふ、パパも私と一緒で泣き虫だ…」


 私達三人は離れていた時間を取り戻すように、ぴったり寄り添って抱きしめあった。

 それぞれを想う心が伝わり、もう二度とすれ違わないようにと願って。






 その日の夜私とお姉様は二年ぶりに同じベッドの中にいた。

 他愛のない話をしたりふざけ合ったりしながらも、「あの頃のように」とはやっぱり少し違くて寂しいやら感慨深いやら。繋いだ手はも近い顔も、照れ臭く感じるのは久しぶりだから仕方ないのかも。


「鏡花には夢ってある?」


「夢?将来の夢って事だよね?」


「うん。私はお母様みたいになりたいって言ったんだから、鏡花の夢も教えてよ。絶対笑わないから」


 少し、考えてみる。

 今までの私は何も考えてなくて、家族と過ごす日々が幸福で、変わった毎日が寂しくて、今を見つめる事さえまともに出来てなかった。

 でも今は違う。記憶を思い出し、家族がお互いに歩み寄って少しずつ世界が明るくなった。自分がどうしたいのかを考える余裕がある。

 煌めくように一つの考えが思い浮かぶ。まさしく青天の霹靂、その考えは驚くほどしっくりきて自信を持って夢だと信じられる。


「今までは無かったよ、でも今はわかる。自分の夢が」


「なにそれ?将来の夢ってそんな簡単に決めていいの?」


 お姉様はくすくすと笑うながら言うけれど、これはその場限りの不確かな願いじゃない。

 今の私と前世の私、二人分の心が詰まったとても強固で確かな夢。

 その為にどうするかももう決めた。私はもう蹲ったままの自分を卒業して、前を向いて歩こうと決める。


「私の夢、それはね………」











「メイドの教育を受けたい…ですか?」


 翌日の午前、私は茨沢さんを訪ねていた。私のお願いを受けて、きょとんとしたその顔に思わず口元がにやける。


「はい、私メイドの仕事を覚えたいんです」


「はぁ、あの、理由をお聞きしても?」


「私、お姉様を支えたいんです。でも頭は良くないし、心も弱いしで、きっと隣に立って替わりにはなれないんだと思います。だから私なりに考えて、お姉様を影から支えたいと、お姉様が安心して帰ってこれるようにこのお屋敷を守りたいって思いました」


 緊張で口が渇く。子供の一時の我儘だと思うかも、宥め賺されてかわされてしまうかも。でも茨沢さんなら、あの時家族が歩み寄るきっかけをくれたこの人なら見抜いてくれると信じて、捲し立てる。


「私、守りたいんです!お母様みたいに、みんなの大切なこの場所をっ!だからお願いしますっ、私をメイドにしてくださいっ!」


 ガバリと勢いよく頭を下げる。一瞬か数秒か、はたまた数分か。延々と続くように感じる時間を、厳格な言葉が途切れさせた。


「……決して甘やかしたりは致しません。メイドの仕事を簡単ではありませんし、お嬢様の学校だって来年からあるのですから、この一年で形になるよう厳しく指導してまいります。それでも、宜しいですね?」


「は、はいっ!ありがとうございます、茨沢さん!」


「それと、今度からメイド長と呼びなさい。特別扱いされたくないのでしょう?」


「はいっ!メイド長っ!」




 こうして私はメイドとして、未来のために歩む事になった。役に立ちたくて、自分を変えたくて、いつの日か訪れるに立ち向かうために。


 あの夜私を胸に抱き、愛を伝えてくれた彼女を守る為に。

 前世の私孤独で臆病な自分はあの日確かに、白清水 鏡花人を愛せる自分に生まれ変わった。


 でも、ゲームの中の凛后はこんなに優しかっただろうか?それにあの父の姿を見てると、天地がひっくり返っても娘を見捨てるようには思えない。

 私の存在が影響したのか、それともこれから変わっていくのか。疑問は尽きない、不安は拭えない。

 それでも私を拾い上げてくれた彼女の為に、あの結末を壊してみせる。


 物語の始まりはまだまだ先だ。

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