母乳祭1日目 配乳






【文化祭1日目 朝】 





「文化祭だー!」

「文化祭です!」

「……文化祭だ」


 ボランティア部3人の右手が重なり、「部長先輩!ズバリ目標は!」と夏菜子が部長を横目で見る。


「……楽しむ。日野さんは」

「私は募乳をする!です!」

「だから捕まるって言ってるだろ」

「あぜくんの目標は何ですか?」

「……」


 ……後夜祭のキャンプファイヤーで夏菜子に告ること!なんて言えねーよ。


「ま、まあ、あれだ、部長と一緒!楽しむぞー!」


「「「おー!」」」


 我々ボランティア部の文化祭は、ここ、調理室にて開会宣言を終えた。ボランティア部の文化祭ブースは毎年どこかの部のおまけみたいに引っ付くのだが、今年は料理研究部だ。だから調理室。


 隣では、料理研究部がスイーツを使っている。主にクッキーなんかを焼いているのだが、これが美味しそうで涎が止まらない。部員数も10人はいて、正直かなり羨ましい。


 この飯テロ空間でひたすら募金をするっていうのは、なかなか根気が必要そうだ。


 俺と部長がブースに並び、夏菜子は後ろで作業をする係に分担された。作業とは、折り紙のことで、募金をした人に折り紙を配るーー




 はずだったのだが。




 チャリン、箱に入ったお金とお金が擦りあったのを合図みたいに、俺は目の前の女生徒に笑顔を振りまき、「募金ありがとうございます!これどうぞ!」と折り鶴を手渡そうとする。


「い、いらないです」


 折り紙はいらないらしい。


 ちなみにこれで10回連続くらい断られている。


「折り紙ぜんっぜん貰ってくれないんだが!」

「……折り紙、やっぱ人気ないな」


 去年もこんな感じだった。まあ折り紙なんていう紙さえあれば誰でも作れるものをわざわざ貰っても、ゴミにしかならんということだろう。


「ボランティア部の皆さん、ご機嫌よう」


 エプロンをつけた女子が募金箱の前に立っていた。シャンと髪をかき分けて、部長を見下してニヤリとしていた。多分、知り合いなのだろう。部長は相変わらずのジト目で口はピクリとも動かない。


「なにこれ、折り紙?一つも受け取って貰えなくて可哀想に!ま、私でも受け取らないわーこれは」

「……ああ、白田か。お前の作った香水くさいスイーツの売れ行きはどう?」

「なっ……あんたのとこの折り紙よりは売れてるわ!第一ここに来る人はボラ部じゃなくて料理研目当てよ!」


 部長!落ち着いて!睨まないで!と俺が間に挟もうとするも、既に視線で火花を飛び散らせる二人。なんで部長、おとなしそうなのに喧嘩っ早いんだろう……ほんと勘弁して……。


「……白田、この前のテストで負けたからと言って、こんなところで復讐だなんて。ぷっ」


 無表情でぷっと吹き出すの、最高に煽り性能高いな。


「たまたまよ!通算対戦成績では私の方がいいわ!」

「……通算平均点はこっちが上」

「い、いいわ!じゃあ今のところ引き分けだし、今日白黒つけましょう!ボランティア部の募金額と料理研究部の売上額で勝負よ!」

「部長、絶対勝ち目ないです、やめましょう!それにテストの借りはテストで」

「……上等だ」

「ぶちょおおおおおお!!!!!」

「フン。負けたら土下座してもらうわ。ボラ部全員でね」

「なんでやねん」



 ☆☆☆☆☆




「……というわけで、日野さん、もっとクオリティ高いの作って」


 部長、不器用すぎて鶴すらも歪なやつしか折れないのに、よくそんな偉そうに頼めるな……。


「わかりました!部長先輩のきったない折り紙じゃ絶対太刀打ちできませんもんね!」

「あ〜、夏菜子さんっ!ひとこと多いっ!」

「……あ?」


 はい、我々はブースに帰りましょう、とズルズル部長を着席させる。……しかし、困った。敵は料理研究部である。料理研では、少々のお金と引き換えに、美味しいスイーツが貰える。

 我がボラ部はどうだ。募金すると、折り紙がついてくる。だが、紙はボランティア部だからいらなくなったテストの紙だ。金箔の紙とかでもない。いらないゴミが増えるだけと思う人がほとんどだろう。


 一応、被災地への募金が出来るが……。それは別に、ここじゃなくても出来るわけで。


 我が部には、勝てる要素が一つもないのである……!


「部長、冷静に考えた結果、この勝負は諦めた方がいいと思いました。テストの借りはテストで返しましょう」

「……やだ。負けない」

「現実を見てください!」


「よーっす、畔上。やってるー?」


 クラスメイトの谷川がチャラチャラした格好で、手を振りながら入室してきた。


「谷川、いらなくなった千円とか持ってないか?」

「さっきおつりで財布圧迫させた十円玉ならいらねーぜ」


 チャリンチャリンといくつかの10円玉が擦れる。正直これだけでも超ありがたい。


「……お兄さん、もうひと声」

「部長やめてください!十分でしょ!」

「お〜!この子が噂のー?」


 ちげーよ、あっち。と首を夏菜子の方へ向ける。クラスメイトが「噂の」と付けるのは、俺が以前告白宣言した子を指すに決まっている。その推測は当たったみたいで、「キャンプファイヤーどうすんの!」とか大声で言うから慌てた。

「いいから!ほっとけ!」

「ちょーっと話しかけてこよーっと」

「おい谷川!」

「あの〜、すみません、募金しても……?」


 後ろにおばあさんがいたので、「あ、すみません、ありがとうございます!」と速攻で笑顔に切り替える。100円玉がガシャ、と埋もれる音。そして、このおばあさんにも当然のように折り紙を断られた。


「部長、もう折り紙やめます?」

「……うむ。寂しいけど、それはあり」


「ハハハハハ!すっげー!」


 と、後ろででかい笑い声がして振り返る。谷川と夏菜子が何やら折り紙で盛り上がっているご様子。


「夏菜子ちゃんおもろ!はっは、やべー!」

「あなたも、好きなんですか?これ」

「も?ハハハ、畔上の教育かよ。男は好きなやつ多いぜ、これ」


 なぜ折り紙でそんなに盛り上がる……と、覗き込むと、


 おっぱい


 の折り紙がいくつか完成していた。


「谷川ァ!なにしとんじゃい!」

「ハハハッ、畔上、お前、夏菜子ちゃんに変なこと教えるなよなー」

「教えてんのお前だろ!」

「俺は違うよ〜このおっぱい折ったの夏菜子ちゃんだぜ〜!つーか、ちゃっかりエロ教育してんじゃねーよ、このこのっ」

「してねーわチャラ男!」


「あぜくん、とそのお友達さん。これはおっぱいではなく、母乳です!」


「お前は黙っとれ!」

「ほら、乳首のところが若干白ですし、下に白い紙を敷いているのは、母乳の、いわゆる乳だまりを表現し」

「その卑猥なブツをしまえー!!!!」


「……これだ」


 と、後ろで部長が呟いた。なにがやねん!


「……日野さん、母乳大量生産して。谷川とかいうチャラ男くん、君は可愛い女の子が調理室でえっちな折り紙折ってるぞって広めてきて」

「あいあいさー!」

「待てコラァ!」


 ……しかし運動部所属の谷川に追いつけるはずもなく。


 ヘロヘロになって調理室に戻る羽目になった。それから倒れ込むように、調理室の扉を開けるとーー


 調理室は、沢山の男でごった返していた。


 募金箱に長蛇の列。そして列は、後ろのテーブル席まで繋がっており、そこでは楽しそうな夏菜子と、3人の男が「うおおー!」と興奮してわいわい盛り上がっていた。


 後ろにはどこから持ってきたのか、ホワイトボードにこう書かれていた。




『ボラ部1年のちょっぴりえっちな折り紙教室』




 はぁ〜……


「どうしてこうなる……」




 夏菜子は俺を見つけると、少し困ったような笑顔を咲かせてこう言った。




「あぜくん、私募乳をするつもりが、これじゃ配乳です、えへへ」






 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺の幼なじみいわく「ビールと母乳は生が1番!」らしい。 サンド @sand_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ