今日も、人を殺す。

 男は、元軍人だった。


ーーー今日。ついに、妻が死んだ。


『悲しいが、仕方ない。

20年も一緒だったから、まだ幸せ者だな俺』

『まだ良かった、俺も我慢の限界だったからな』

『妻に、こんな俺を見て欲しくないから…な』


 外に出る。


『久しぶりだな。この感覚』

『今日は、何人殺そうか……』


 男は悲しげに空を仰いだ。


ーーー30年前。

 男は、四六時中、戦っていた。


『……うるさい』


 敵軍の新兵と見られる若造が銃弾や砲弾が飛び交う中、叫びながら男に迫る。


 額に鉛をぶちこんでやる。

 やっと、静かになってくれた。


『今日は何人、死ぬんだろう』


 歩くと死体を踏んでしまう。

 罪悪感は無い。こいつも、さっきまで俺を殺そうとしていたんだ。

 いや、ここら一帯は敵兵の屍ばかりだ。


『どうして、避けないんだろ。

 銃を向けられたら避ける。音がしたら動く。』

『1人ずつ殺していけば死が遠ざかるのに』


 男は、少しずつ少しずつ目の前の敵を殺していた。


 そして、敵兵に国や軍、はてや兵器よりも恐れられるようになったのだった。


ーーー 男は最初から強かったわけではない。たまたま、運よく生き残り続け、敵味方の技術や知恵を盗んで強くなれただけだった。


 同じ少年兵として、戦時に放たれた仲間たちは環境の変化についていけず次々に死んでいった。

 射殺、撲殺、地雷による爆殺、裏切り……自殺。

 周りで仲間が次々に死んで新たに補充される世界を男は昔、施設で見たテレビという箱で見るように見ていた。


 ……きっと、俺が死んだらこの物語はプッツリと消点して、どこかで同じ目線を持つ、違う俺が誕生するのだろうと男は考えていた。


 なら、この世界でできることを少しでもやろう。

 もし、生き返るのなら俺の名前がどこかで見え、聞こえ、言われるようにしてやろう。


 男は敵の残りをただ殺して周り、なにも考えずに引き金を引きまくった。




『死ぬ前に言う言葉はあるか?』


 上司に言われた。


 どうやら、敵国のスパイで家族が敵国に人質になっていたらしい。

 同じ質問を投げかけると、泣きながら家族に謝罪していた。

 謝るのは俺にじゃないのか……と考えながら俺は椅子に縛りつけた上司の首を切る。



『この裏切り者め!』


 部下だった者の言葉だ。

 俺がスパイを殺したと説明しても信じなかった。


『上に報告させてもらいます!』


 そう言いながら俺を捕縛した。

 そして、自らの銃を俺の額につきつけてきた。


『ーーーに栄光あれ!』


 どうやら、彼も敵国のスパイだったらしい。いったい、何人いるのかと呆れながら口に含んでいた針を吹いて元部下の目を刺した。


『あと、何人いるんだ?』


 俺は、聞いてみた。


『お前に教えることなど何も…ガハッ!』


 …… 情報が無いならと、喉を踏み潰してやった。


バキャッ!


 ……折れたな。


ーーー死んだ確認をするのは面倒だった男は死体の心臓に目掛て3発、打ったのだった。




ーーーそれから、1週間後。


『君の働きはよく聞いているよ!今回はスパイを2人殺したんだって?』


『はい』


『素晴らしいじゃないか!』


『恐縮です。殿下』


『……それで君は、スパイがまだいると思っているかな?』


『ええ、いますね』


『なら、殺してきてよ』

『ちなみに、先導者は俺の兄さんだからついでに殺してくれないかい?』


『分かりました』


 閣下の次男であるこの少年に呼ばれて密室の中で話し始められたが、ようは、依頼の追加だった。


『ですが、殿下。私にはまだ仕事が残っています』


『いいよいいよ。先にそっちを終わらせてからで』

『確か、東の最前線に復帰するんだっけ?』


『いえ、東は先月に敵将の首をはねてきました』


『おぇ、食事中にそんな話をするなよー。』

『それで?残ってる仕事とは?』


 俺は無言で懐から縄を取り出し、輪っかの部分を殿下の首に通した。


『おい!?これはどういうことだ!!』


『……』


 その後も、縄を引っ張って殿下を引きずり扉を開く。


『ぐっ、ぐぅぇぇ、ごひゅ、き、貴様!?誰の差し金だ!!!』


『国ですよ』


『が、ぎ、ぐぉああ、く、国だとぉ!』


 俺は殿下の問いを返す間も引っ張り続け、廊下に出る。

 廊下では殿下の護衛が立っていたが、その現状を見て呆然としていたので遠慮無く引き金を引く。


『ーーー!!』


 ーーーという名だったか…。明日には忘れているが今は覚えておくか。


『離せぇ!!敵国のスパイに成り下がったのかぁ!』


『フッ、貴方が言うのですか』


 ……今年で初めて笑ったかもしれない。いや、この10年笑ってたことがあったか?

 そう思いながら、廊下で会った人を関係なく殺す。


 メイド、メイド、兵士、兵士、兵士、執事、秘書、兵士


 扉を開ける頃には発泡音を聞いて、集まった兵士の血で大理石の床の溝が赤くなり紅白の模様が綺麗な床が出来あがった。


『…綺麗だ』


『俺が貴様の功績をーーーに伝えて、向こうでの地位を確保してやる!だから、この縄を離せ!』


 殿下が起き上がって抗議してきたため、俺は両足を打ってやった。


『もう、決まっているんですよ』


『何だと!?俺は王族だぞ!』

『父さんやお人好しの兄さんと妹が俺を殺すだと!?』


『いえ、殺すのは俺です』


 まぁ、そんなことが聞きたいんじゃなかろうが、ここを言うのは大切だ。


『殿下の妹君から殿下を殺せば妹君の私兵という立場として自由にさせてくれるらしいので』


『バカな!?あのーーーが俺を殺せと依頼したのか!』


『殺す際は、民衆に見えるようにと言われたので馬車を使います』


『何故だ!?俺は完璧だったはず!』

『どうしてだ!』


『殿下が敵国を勝たせる形にして寝返ることで、平和的交渉を望んでいるこのーーーは困っているのだと』

『私も、あの国には狙われた身なのでこの国が不利になるのは避けたいですしね。』


『クソッ、クソがぁぁぁ!ガハッ!』


『それでは、馬が走ります。耐えなければ半時ほどで死ぬはずなので耐えないでください……』


『ま、待て!待ってくれぇぐぇ、ぐぎぃぃいぃいえぁぁ!』




ーーー2年後

 ……案外、早く終結したな。


 結局、和平の前に戦況が有利になったのを境にこの国が敵国に進軍し、勝利を納めた。


 そして、俺は敵国の姫が奴隷墜ちしたそうなので買った。

 面白そうなので嫁にするつもりだ。


 その嫁が、


『親友のーーーもお助けください!』


と言ってきたが他はいいのか?と聞いた。別にいいと言われ、親友とやらも買った。

 こっちは普通に性奴隷にするつもりだ。


ーーーその日の夜から始まった関係だが、存外に楽しかった。

 普通をお互いに知らなかったが学んでいくのが楽しかったのだろうな。

 しかし、約3ヶ月目の夜に一緒に寝ていた性奴隷が俺に銃を向けてきた。


 だが、頃合いだろうと思い、目を離した間に俺の銃は弾を抜いていたのだった。


『すみません。ーーー』

『どうか、ーーーだけは許して』


『分かっている』


 そこは俺に謝るとこだろうと思ったが口にはしない。

 そして、嫁も関わっているのは分かっていた。


『この10年ありがとうな』


 首を絞めた。


ーーー翌日、連絡が来ないと逃げるはずだった妻が彼女からの連絡が来なくて不安が勝ち、家に帰ってきた。

 

 俺は笑顔で出迎えた。もう、会えないかと思ったからだ。

 妻は、最初は驚いていたが、すぐに覚悟が出来たみたいで自殺しようとした。

 俺はそれをやめさせ、


『ーーーは『ーーーをよろしくお願いします』と言っていたぞ』


 と言った。

 それを聞いた妻は泣き崩れて俺との生活を選んだのだった……。

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