難癖付けてきた冒険者を圧倒しました!

 俺達は国内にある冒険者ギルドの中でパーティー名を決めていた。



 「アクアラプラスにしよう」

 「オッケー。いい名前ね」



 アーニャは満面の笑みで了承する。


 俺達はパーティー名【アクアラプラス】として冒険者ギルド側に申請を出した。

 受付嬢の元気な声が聞こえる。



 「では受付票に必要事項を記入して頂いたので、晴れてパーティー結成です」

 「ありがとうございます」



 そこでふと、受付の女の人がこちらを見てこんなことを言う。



 「あれ? この名前……もしかしてホーリーナイトのライルさんですか!?」

 「元、だけどね」

 「ええ!? 今は違うんですか!?」

 「うん、まあ……」



 やはり俺はホーリーナイトのライルとして認識されてしまう。

 はやくアクアラプラスのライルと言われるくらい頑張らないとなと、気合を入れ直す。



 「そうだったんですね……。ですが、ライルさんはきっとこの、アクアラプラスでも活躍されると思います!」



 受付嬢は可愛らしい声でニコッと笑ってそんなことを言ってくれる。 

 たとえ社交辞令だとしても、その言葉を本物にしたいな。



            ◇


 「さてと、パーティーは無事結成できたけど、まずは何からしようか」



 アーニャに問いかけると、少し考えてからこう答えた。



 「やっぱりお金が必要だと思うの。私はともかく、これからを思えばライルの武器も新調したほうがいいと思うの」

 「うっ……」



 確かに今の俺はほとんど最低の装備だからな……。【剣聖】と並び立つには少し、心もとないかもしれない。



 「稼げるクエストを見つけるしかないか」



 クエストは難易度に応じて報酬が変わる。

 もちろん稼げるクエストは難易度が高いが……。



 「アクアラプラスの力見せつけましょう」

 「決まりだな」



 笑い合って、クエストボードへ向かう。



 「これ何てどう?」

 「ダンジョン調査か。いいな」

 「報酬は最大100万ゴールドとランク昇格! 100万ゴールドよ!? 暫く生活できるわ!」

 「それはすごいな……」



 100万ゴールドは定職なら王都でも半年近くかけて稼ぐような金額だ。

 しばらくの生活どころか、装備の新調も可能になるだろう。

 もちろん最大、ということなので、本来はFランク冒険者じゃ入口付近を簡単に見て回ってきて、大した報告も出来ず、大した報酬もなく終わる事が多いだろう。

 だが俺は元ホーリーナイト、そしてアーニャは剣聖。

 最深部まで調査をすれば最大値である100万ゴールドも現実的な目標になる。願ってもみない好条件のクエストだった。



 「ダンジョン調査の報酬もそうだけど、マジックアイテムが手に入る可能性もあるわよね」

 「攻略済みでも確かに……この場所なら可能性はあるな」



 目的地のエイレンは街がまるまるダンジョン化した場所だ。

 お宝が眠ると言われるダンジョンの中でも、人の痕跡が残るダンジョンはレアなマジックアイテムが算出しやすいという。


 俺達がそんな話をしていると酔っ払いと目が合ってしまった。

 両手に女を引っ提げたその男は、ニヤッと笑ってこちらに歩いてくる。


 そして俺がクエストボードに貼られていた紙を持っているのを見ると、その取り巻きとともに大きな声で笑いながらこう言った。



 「はははっ!! 何だお前ら、マジックアイテムなんざに夢見てんのか」

 「そうだけど何か?」

 「お前らには無理だ。ダンジョンってなぁそう簡単に攻略できるもんじゃねえ。深部に潜らねえと入手できねえマジックアイテムなんざ、このググラ様でもねぇ限り拝めねえんだよ」

 「ググラ?」

 「そうだ我がパーティーリーダー! Bランク冒険者のググラ様だ!」



 取り巻き共がググラと呼ばれる巨体の男を持ち上げる。

 ググラはそれに調子づき俺達に突っかかってくる。



 「てめぇらにゃぁ無理だ。俺みてえな上位の冒険者にこそふさわしい、宝も、そしてそっちの女もなぁ!」



 アーニャを見てそう言うググラ。

 なるほど……絡んできた理由はこれか……。

 アーニャを狙ってたらしい。

 確かに俺達はFランク、対してググラはBランク。丁度いい獲物か何かに見えたんだろうな。



 「いい女じゃねぇか。一緒に飲め!」



 アーニャに手を差し伸べ得るググラ。

 アーニャの返答は……。



 「お断りよ。私デブは嫌いなの」

 「何だとてめぇ」



 完全に喧嘩になった。

 アーニャに手を出そうとしたのを見て俺が間に立つ。



 「やめろ俺の仲間に触れるな」

 「あ!? 何だ文句あるのかこの雑魚が。俺様はBランクだぞ!!」



 アルコールの匂いが酷く頭痛を催す。



 「ググラ様やってしまってください! こんな雑魚一撃で仕留めれますぜ!」

 「がははっ!! いいだろうガキにはお仕置きが必要だからな。俺が痛い目合わせてやるぜ」

 「やっちゃえ、やっちゃえ!!」



 取り巻きたちが囃し立て、ググラは俺の前で拳をバキバキさせた。



 「おいそこの嬢ちゃん、お前のせいでこいつ、大変な目に合うけどいいんだな?」

 「ライルは貴方なんかよりよっぽど優秀よ」

 「はははっ!! こんな雑魚がか? 冗談きついぜ」

 「試してみたらどうかしら?」

 「はははっ!! なるほど、こっちの男に恨みでもあるんだな! こいつをぶちのめしたら改めてお前を連れて行く」

 「いいわよ。まぁ、勝てたら、ね」



 アーニャが俺に目配せをしてくる。

 仕方ないな……。



 「ラプラスの悪魔」



 ここで右に動けば――

 ここで左に動けば――

 ここで前に出れば――



 「酔っ払ってるからかもしれないけど……どう動いても勝てるな……」

 「何言ってやがる」



 ここで足払いすれば――


 ラプラスの悪魔の声に従って俺は巨体の男ググラに足払いをする。



 「うらああああああっ!!」

 「おらよ」



 重心が崩れて巨体の男はそのまま地面に顔からダイブする。



 「ぐはっ?! なんだと……」

 「もう終わりか?」

 「てめええええええ!!」

 「ラプラスの悪魔」



 ここで右足を腹部に蹴れば――



 「気絶する、か」

 「がはっ」

 「全然鍛えてねえんだな。見掛け倒しだな……」



 ググラはそのまま泡を吹いて気絶した。



 「何だあいつ……ググラ様がやられただと!?」

 「何者だ?! Bランクを完全に圧倒してたけど……」

 「あのググラが一撃で気絶って……」



 周囲がざわつく。



 「あれってホーリーナイトのライルじゃない?」

 「ホーリーナイトだって?!」

 「でもなんでパーティーメンバーといねえであんな女……待て、あっちも【剣聖】じゃねえか!」



 周囲のざわめきを気にする様子もなく、アーニャが声をかけてくる。 



 「流石ライル」

 「まあこのくらいならな……本命はサポートだけど」

 「わかってるわ。私も、そのへんの冒険者とは違うところ、見せてあげる」

 「楽しみにしてる」



 俺達は泡を吹いて気絶しているググラに目もくれず受付嬢へとクエストの紙を渡す。



 「流石というかなんというか……止めるのが遅くなってしまい申し訳ありません」

 「いや……ただこいつは……」

 「大丈夫です。ギルドで責任を持って処罰させていただきますので」

 「ならいいよ」



 酔っ払って低ランク冒険者に絡んで返り討ち。

 Bランク冒険者としてはこの上ない恥だろう。もうこの地域で活動することは出来ないことは、ギルドからの処罰うんぬんを抜きにしても決定的だろう。



 「じゃあ、行ってくる」

 「お気をつけてライルさん。アーニャさん」



 受付嬢が大きな張りのある可愛いらしい声で送ってくれた。


 さあダンジョン攻略に挑もう。

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