045 結果

結果だけ見るのならば、俺の圧勝だった。ゲージでいえば、100対0。トップ選手が放った攻撃、その全てをかわしきった。



しかしその実は、何十倍の時間をかけても語りつくせない戦いだった。



強引にまとめるとすると、あれ以外のストーリーがない戦いだった。何度トップ選手と対戦したとしても、同じストーリーが紡がれるだろう。そして、その機械的な勝敗は、たった一撃。たった1回の攻撃によって振り分けられる。俺がを躱せるか否か。それだけ。



―――来年…楽しみだな。



俺の心はもう決まっている。どこまでやれるかはわからないけれど、この世界で生きていくことを決めた。ちょっと下世話な話になってしまうけれど、まあ、生活できるくらいの賞金をいただけた、というのも理由の一つ。大きい声では言わないけれど。


ただ、進学はしたいと思っている。


母さんのおかげ…と言って良いかどうかは微妙なラインだけれど、その…悠美さんとの…将来…というか、そういうのを考えさせられて…というか。


あと、自分のことをもっと知りたくなった。反応チートだということは知っているけれど、それ以上の詳しいことは知らない。もしかしたら、この秘密が誰かの役に立つかもしれない。わからないけど。


ちょっと格好をつけるならば、夢ができた。医学か、はたまた…。



大樹だいき、大樹。」



しゅんの声で、現実に引き戻される。



「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事…。」


「物思いにふけり過ぎ。あと、それ俺のたい焼きなんだけど…。」



両手でたい焼きを握っていた。さっきまで右手に1つ、左手に1つだったはず。



「わっ!?ごめん。新しいの買ってくる。」


「いいよ。あんまりにも普通に食べるから、俺が数を間違ってるのかと思ったわ。」



さすがに申し訳なさすぎるので、100円玉で返しておいた。これは気をつけなければ。俊だから笑ってくれるが、基本的に失礼極まりない。



「じゃあ、そろそろ行こうか。」



俊に促され、ベンチから立ち上がる。今日はこの後、動画の撮影をする予定。午後からはテレビ番組の打ち合わせが入っている。もちろんこれが一過性の人気であることは、重々承知している。



―――まあ、FPSがもっと人気になってくれれば…おんだよね。



それもまた、「プロ」の仕事なのだろう。そう思っている。





「ところで、連休は悠美ゆみちゃんとデート?」



撮影準備をしている俊から、ストレートすぎる質問。スマホを落としそうになった。



「そ、そのつもりだけど…?」



動揺していない、動揺していない。



「あのさ…。いや、言うべきかどうか迷ったんだけど…。」



俊がもったいをつけるなんて、珍しいこともあるものだ。明日は雪だろうか。



「世界大会のとき、近くに運営スタッフさんいたじゃん?」


「あぁ、関係者席のところだよね。青いジャンパー着ていた。」


「うん。それでさ、いや、大樹に何も言わずで悪いとは思ったんだけど、悠美ちゃんのこと聞いてみたんだよ。桜井さくらいさんってお知り合いですか、って。」



そういえば悠美さん、お父さんがFPSの運営会社で働いていると言っていた。あの日、そう、悠美さんと俺が出会った日も、それが縁だった。



「あぁ、いなかったんでしょ。違う?」


「うげっ!?知ってたの?」


「そりゃ、あの…ほら、俺に会いに来てくれる口実…というか、そういうのじゃないの。普通。」



あの日、悠美さんには口実こうじつが必要だったのだ。通学路から離れている会場に、顔を出すための。そういう優しいうそ…というか、口実だと思っている。特に気にしていないし、むしろそうまでして会いに来てくれたなんて…って思った。



「なんだ…心配して損した。まあ、あるよね、そういうの。思い返せば、あんなことなんで言ったんだろう…みたいなことも。」


「まあね。てか、すっかり忘れてた。」



これは本当。俺は別に、悠美さんの家庭事情に興味があるわけではない。悠美さんのことを知りたいだけ。もちろん、プライベートには踏み込み過ぎないよう、細心の注意を払いつつ。


悠美さんはとっても優しい人だ。つらくても大丈夫って言ってしまうタイプ。だから、最近は「無理そう?」って聞くようにしている。



―――まあ、惚気話のろけばなしだけど。

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