043 余韻

『なんとダイキ選手も星屑スターダストを使用っ!遠距離攻撃の撃ち合いかっ!?』



遠距離攻撃には、着弾までの時間がある。相手は技のモーション継続中なので、ガードは不可。タイミング的に回避もされないだろう。


問題は、無敵時間に被らないかどうか。


秒針が止まって見える現象クロノスタシスにも似た不思議な時間。



―――頼む…。



俺は今、技と技の間、そのわずかな時間にカットインをかけている。いくら反応チートとはいえ、ゲームシステムに介入できるわけではない。システムの処理順序によっては、この作戦、机上の空論と化してしまう。最後は運に頼らざるを得ないのだ。


次の瞬間フレーム、降り止まなかった雨に、わずかな光が差した。ジーン選手のコンボが止まる。



『ジーン選手、ここで初めての被弾!…これは…。』



一気に距離をつめる。最短かつ最速で。余韻よいんのなかを駆ける。



―――このまま…。



近づけまいと振るわれた攻撃をかわし、そのままこの試合初のカウンターへとつなげる。



『ダイキ選手、カウンターだーっ!距離をつめ、一気に流れを取り戻していく!』



ここまで来れば、あとは時間の問題だ。残り37秒。十分すぎる。





正直、あの「星屑スターダスト」は賭けだった。


もし間隙かんげきを縫うことができず、ジーン選手のコンボが止められなかった場合、敗北の二文字を待つのみだった。ありえない状況まで想定し、システムをくみ上げてくれた人たちに感謝。


残り時間7秒。数えきれないほど見てきたモーション。成功と勝利を知らせる効果音が鳴り響いた。



『最後もカウンター。勝者…ダイキ選手っ!』



大逆転。


スタンディングオベーションに送られつつ、控室へと向かう。



―――決勝…。



嬉しさよりも疲れが先に立つ。


控室。ソファに腰かける。疲れてはいたが、さすがに準決勝の様子は確認する。



―――ですよねぇ…。



まあ、トップ選手の圧勝。対戦時間、32秒。


ここで今まで気づかないふりをしてきた、悲しい事実に正対する。俺の対戦時間、長すぎ問題。まあ、カウンター戦術を採用している以上、避けられないことではあるのだが。


何が言いたいかと言うと、そう、疲れるのだ。そして決勝戦は順位決定戦の後。つまり、まあまあ時間がある。


というわけで、おやすみなさい。





『さぁ、いよいよ決勝戦…。FPSゲームの頂点に立つのは、ダイキ選手か…それとも、トップ選手か。両選手の入場ですっ!』


荘厳そうごんな音楽が鳴り響き、決勝戦への道が開かれた。ここまで来れたからには、勝負を楽しみたい。そう思っている。ただ、それは希望的観測であり、現実は甘くない。



―――勝負は一瞬…。



トップ選手の過去の対戦動画、何度も見直した。動画に合わせてカウンターの練習もした。さまざまな戦略、その可能性を検討した。


勝てる可能性は十分にある。カウンターができないなんてことはないし、トップ選手の攻撃のをカウンターし続ければ、必ず勝てる。そう、「全て」を。



全部カウンターできれば、俺の勝ち。一撃でも受けてしまえば、俺の負け。



実にシンプルな対戦が始まろうとしている。それほどにトップ選手、すごいのだ。今までの対戦時間からもわかる通り、ほとんど反撃の余地を与えていない。



―――さてと…。



あえてゆっくりとボタンの感触を確かめる。ここから先、おそらく40秒程度は、一瞬フレームを争うことになる。



『両選手の準備がととのったようです。それでは参りましょう…。FPS世界大会決勝。レディー…ファイッ!』





――――――地図に載っていない孤島




曇天。雷だろうか。鈍い音が空を覆っている。



「始まったか…。」



スーツに身を包んだ男性が、ひとり言のように呟く。薄暗い部屋に巨大なモニターが一つ。そこには、FPS世界大会の映像が映し出されていた。



「いよいよですね。お父さま。」



控えるように立っていた女性が、起伏のない言葉を発する。女性の手には、「FPS計画」と書かれた資料の束。



「世界一に立つプレイヤーなら…あるいは…。」



男性は何かを頼るような、あるいは諦めともとれる表情を浮かべている。その声をかき消すように、再び鈍い音が鳴り響いた。

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