042 好転

戦況は好転しない。


そもそも回避という行動はなのだ。距離を詰めることとは相反するに決まっている。これほど高レベルな連撃を回避し続けているだけでも、褒めてもらいたいくらい。



―――泣き言ばっかりは言ってられないな。



これは遠距離攻撃の評価を見誤った俺の責任。ただ、ここで反省ばかりしていても仕方がない。打開策を考えなければ。



『うーん。ダイキ選手、防戦一方。ジーン選手が着実に時間を削っていく!』



時は金なり。


まあ、考えるまでもなく、打開策は一つしか持ち合わせていない。ワシさんとしゅん、そして俺。練りに練った技構成。カウンターのみで勝ち上がってきたと言っても過言ではない俺にとって、技に頼るという稀有けうな瞬間が訪れようとしている。



―――問題はタイミングだよな…。



打開策があるにも関わらず、未だに使っていないのにはわけがある。最大の理由は、ジーン選手の遠距離攻撃、その密度が俺の想定をはるかにこえていたこと。そしてもう一つ、これも大きな理由。打開策について、俺の理解が圧倒的に不足していること。



『あっとっ!ここでジーン選手の星屑スターダストが、ダイキ選手を捉えたーっ!』



そこからバタバタと連撃を受けてしまう。急騰きゅうとうする会場のボルテージ。



―――ああっ、もうっ!



いつもなら当たり前のことが、思うようにいかなくなっている。いつもなら回避のみに集中すればよかった。回避さえできれば、あとは作業。ところが今回はもう一つ、タスクを抱えている。


打開策、それは「技と技の間に、俺の技を押し込むこと」だ。


実は俺の技構成、「星屑スターダスト」が入っている。俊がもしもの保険として、すすめてくれたのだ。あと少し、どうしてもダメージを与えておきたいときの保険。さすがに初見でかわされることはないだろうという読みも込めて。


ただ、使い慣れている回避や通常攻撃とは、全くタイミングが違うのだ。そして見慣れている近距離攻撃とも違う。



―――結構まずい…。



1回。たった1回で良い。「星屑スターダスト」を当てることができれば、距離を詰めることができる。距離が詰まればこっちのもの。「背水はいすい狂焔きょうえん」でステータスも上昇しているし、それこそ30秒もあれば逆転できる。


その1回が遠い。遠すぎる。





ジーン選手が使う「星屑スターダスト」に集中する。もう、多少のダメージは仕方がない。最悪、ゲージが1でも残っていれば良い。



『ここで再び星屑がヒットォォッ!これはダイキ選手、さすがに厳しいか!?』



会場からどよめきにも似た声があがる。



―――見つけた…7フレーム目から10フレーム目の間。



技の終了間際、そこに存在する無敵時間を避け、次の攻撃に移るまでのわずかな隙。自分で言うのもなんだが、俺でなければ見つけることのできない間隙かんげき



―――今っ!



ジーン選手が使った「星屑スターダスト」のカットイン。それに遅れること、3フレーム。時間にして100分の5秒。



―――決まってくれ…。

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