041 確立

――――――作者からのお知らせ


本話に登場する「無敵時間とカウンター」の設定についてですが、本文では記述をかなり省略しております(理論的な色が強く、作品のテンポになじまないと判断しました。)。最低限の内容は残しているつもりですが、説明不足な点があると思います。申し訳ありません。


第一章(世界大会終了まで)が終了次第、設定集として詳述する予定ですので、ご理解いただけますと幸いです。


――――――




『対するは…攻撃こそ最大の防御、いや、防御こそ攻撃。無敵むてき時間をたくみにあやつるその戦術…FPS界に新たな防御戦術を確立した天才!ジーン選手の入場ですっ!』



準決勝の対戦相手、ジーン選手。その戦術を一言で表現するならば、完璧な防御だ。相手の技を完全にいなしきって、技のストックで相手に有利をとっていく戦術。


最初聞いたときは、頭のなかにクエスチョンマークが飛び回った。いなすなんて剣術じゃあるまいし、そんなことできるのだろうかと思ったのだが、実はこのゲーム、システム的に絶対にダメージを受けない方法が存在している。



―――無敵時間…。



外的要素をシステム的に受け付けないわずかな時間のこと。まあ、要するに「誰にも邪魔させないぜタイム」といったところ。「春霞一閃しゅんかいっせん」だと、刀を振っているタイミングがこれに当たる。


これが無くなると、最終奥義おうぎをも通常攻撃で防げる、なかなかにカオスな連打ゲームが誕生してしまう。


それはそれで面白そうという興味はさておき、本来は攻撃を成立させるために設定されている無敵時間。防御という面でとらえると、これほどに完璧な方法はない。



―――でも、カウンター並みにシビアだよな…タイミング。



相手の技が着弾するタイミングに無敵時間を合わせる。技に関する正確な理解が不可欠であり、どちらかというと机上のお話に近いという印象。それを平然とやってのけるのだから、ジーン選手、この人もかなりすごい。



―――まあ、俺には効かないんだけど。



無敵時間の活用は、あくまでも防御の技術。カウンターとは土俵どひょうが違う。



『さあ、準決勝第一試合はダイキ選手とジーン選手の対決ということになりました。解説のトムさん、どのような展開が予想されるでしょうか?』


『はい。ダイキ選手はこれまでの試合を見ても、カウンターを主体とした戦術をとるでしょう。一方のジーン選手ですが…そうですね、これは難しい。無敵時間による防御は、カウンターには影響しないので。』


『なるほど。となると、ジーン選手が対ダイキ選手用として、どのような戦術を編み出してくるのかに注目、ということですね。』



考えていたことを、ほとんど言われてしまった。さすがはプロ。


ちなみにこの時間、技を設定するために設けられている。さすがに決めてきているので、迷うようなことはない。



―――さて…そろそろか。



ジャッジスタッフの方が、画面や手もとの確認にみえた。手もとをうつすカメラに始まり、対戦データの即時分析まで、ありとあらゆる不正対策がとられている。そんなおおげさな、と思うところなのだが、お金がからむのでそうも言っていられない。あまり気にしないようにはしていたのだが、さすが世界大会。賞金のけたが違うのだ。



―――やばいやばい、集中。集中。



『準備がととのったようです。それでは参りましょう。FPS世界大会…準決勝…。レィディー…ファイッ!』





対戦が始まった。そして始まった瞬間から違和感。



―――なぜ離れるんだろ?



ジーン選手のキャラクターが、どんどんと離れていくのだ。



『おーっと!?開始早々、ジーン選手が距離をとる。…これは…しかし、距離をとっていてはペナルティによるダメージが入ってしまう。ここからどう展開していくのかっ!』



実況さんのご指摘通り、このゲームにおいて逃げに徹する意味はない。とするとなのだが、それを見抜けるほどの経験は持ち合わせていない。



―――まあ…我が道を行くしかないか…。



いつも通り「苦悶くもんかすみ」を警戒し、「背水はいすい狂焔きょうえん」を発動する。自らを状態異常にすることで、ステータスを上昇させる技。どうせ状態異常にされるんなら、自分から突っ込もう戦術。



『ダイキ選手は十八番おはこプレイングを継続中。背水の狂焔で全ステータスを強化!』



これを待っていましたとばかりに、見慣れないカットインが入った。



彼方おとよりきた調しらべ』



法螺貝ほらがいの音。


何が来ても良いように、回避とガードで二重に備える。経験則的には、何らかの強化、だと思う。わざわざ距離をとって使うからには、隙の多い技なのだろう。画面の端まで追いかけ続ければ良かったと若干の後悔。



―――問題は何が強化されてるかだよな…。



画面左上、相手ステータスの表示に視線を移す。



―――え…遠距離攻撃強化!?



『これはまた…懐かしい技だ!FPS最初期に実装された遠距離攻撃シリーズ。近距離攻撃の隆盛により姿を消していましたが…世界大会準決勝という大舞台でひっぱり出してくるとは…。』



遠距離攻撃シリーズ、その存在は知っている。知ってはいるが、まさか世界大会の場で使われるとは思ってもみなかった。


遠距離攻撃イコール遠くからの攻撃なので、単純に相手からの攻撃を受けづらいというメリットがある。攻撃の間合いよりも離れた位置で構えれば、回避する必要すらない。距離をとることによるペナルティも、遠距離攻撃を続けてさえいれば、適用されないのだ。


良いことずくめのような雰囲気だが、遠距離攻撃にはがある。与えられるダメージがとてつもなく少ないのだ。FPSがスタートしたころであれば、それでも何とかなっていたらしい。しかし、近距離攻撃技を中心とした攻撃力インフレが進んだ結果、遠距離攻撃は淘汰とうたされるに至った。



―――淘汰されたはずの戦術…確かに厄介やっかいだけど…。



これだけ距離があると、カウンターができない。カウンターはあくまでも。回避はできても、攻撃につなげられないのだ。ただ、対応するすべはいくらでもある。術、というよりも、すきといった方がニュアンスとして正しいかもしれない。


対遠距離戦、最も簡単な攻略方法、それは「距離を詰めること」。


矢継ぎ早に飛んでくる攻撃を回避しつつ、隙を伺う。いくら距離をとれるとはいえ、限度はある。どこまでも後退できるわけではない。距離を詰めてしまえば、近距離攻撃の火力で圧倒することができる。とすれば課題は一つ。いかにダメージを少なくして近づくか、それだけ。



『さあ、ジーン選手の遠距離攻撃が続くっ!星屑スターダストからの…無垢の離れシンプルショット。これに重ねるように瞬弾ラピッドっ!止まらない、止まらない連撃。しかし、これをかわすかわすっ!』



カナさんの試合中、相手の土俵で戦う意味なんて大層たいそうなことを考えていた自分が恥ずかしい。思いっきり、ジーン選手のペース。ダメージは受けていないものの、勝機が見つからない。



―――近づけないな…。



さきほど実況さんが列挙してくれた技、全て再使用までにかかる時間がきわめて短い。そのぶん攻撃力は悲しくなるほどに低いのだが、距離を詰めるうえでこれほどに厄介な構成はない。


もちろん言うは易く行うはなんとやらで、この技ループを維持するためには、かなりの集中力と練度が要求される。これがジーン選手が生み出した、対俺用のタクティクス。



―――俺の状態異常…読まれてたってことね。



唇をかむ。


相手が「苦悶の霞」を持っているかどうかなんて、使われるまでわからない。わからない以上、こちらとしては「背水の狂焔」で対抗するしかないのだ。ただ、結果としてジーン選手の技構成に「苦悶の霞」はなかったわけなので、こちらとしては大損。完全に裏目だ。俺の体力、あと7割ほど。対するジーン選手のゲージはフル。



―――…。



このまま遠距離攻撃チクチクで粘られてしまうと、かなりまずい。

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