012 余韻

勝利の余韻よいんに浸りたかったところだが、あれよあれよと表彰式が始まった。人生初、インタビューなんてものも受けた。そして一番欲しかったもの、そう、ゲーム機を手に入れたのだった。



「じゃじゃーん!」



別に自慢しようというわけではないが、セルフ効果音付きで俊に賞品のゲーム機を見せる。不思議なもので、あれほど欲しかったゲーム機がもらえたことよりも、優勝できたことの方がうれしい。考えてみると、生まれてこのかた、優勝した経験というものがなかった。



―――あれ…俺、結構FPSハマってる?



趣味ができたかもしれない。



「…やべー!すげー!大樹のカウンター、やべーっ!ノーダメじゃん!すげー!」



「お、おう。ありがとう。」



友人の語力が崩壊ほうかいしている。付き合いは結構長いが、初めて見た。


さて、ゲーム機をもらえたことはとっても良かった。とっても良かったのだが、一つ現実的な問題が発生してしまった。そう、全国大会への切符だ。語彙力が崩壊中の友人に相談するのは何とも言えないが、こういうことはしゅんに聞くとだいたいまともなアドバイスがもらえる。俊はゲームの実況者として、いろんな大会やイベントにお呼ばれしているのだ。



「これ…どうすれば良いんだろう?」



全国大会の案内をフリフリしつつ、俊に声をかける。



「ん?全国大会でしょ?行けばいいじゃん。絶対、優勝できるって!そしたら世界大会だぜ、世界!」



簡単に言ってくれるが、俺は古着屋でバイトしているとはいえ、一介の高校生にすぎない。お金の問題があるし、未成年一人でホテルに泊まるのは、いろいろと厄介と聞いたことがある。母の海外出張は半年先までの予定だし、父も九州へ出張中。相変わらずのひとりぼっちなのだ。



「ホテル?普通に日帰りで大丈夫じゃない?だって…ほら。」



「ん…?」



俊が指さした先には、全国大会の会場が記されていた。



「ここって、ライブとかよくやってる…。」



「そうそう、電車で1時間くらいでしょ。まあ、お金のことは何とかなるでしょ。もしものときは、ダイキ先生専属スポンサーの俺がいるし!」



いつの間にか友人とスポンサー契約を結んでいたらしい。ありがたいことだが、できる限り自分で頑張ろう。



「あ、あと。今日のプレイ動画上げるけど、良い?」



プライバシーの関係で、動画はゲームのプレイ画面のみ。正直、俺の許可なんていらない気もするが、親しき中にもなんとやら。



「うん。別に良いけど…権利とか大丈夫なん?」



むしろそっちの方が心配だ。


最近、特に権利関係は厳しいと聞く。個人がちょっと上げた動画であっても、訴訟沙汰になった話もある。著作権などの知的財産権、これの教育というか周知は絶対小学校あたりで何とかすべきだと思っている。まあ、それに限らず、法律は知っておくにこしたことはない。知らないと大抵、自分が損をする方向に進んでしまうと思う。



「あぁ、ご心配どうも。大丈夫、ちゃんと事務所通して許可はとったし。」



さすがに俊だった。その辺りはしっかりしている。



「じゃあ、全国大会まで特訓…って言いたいところだけど、大樹に関しては練習する必要もないって感じだな…。」



「あははは…。まあ、さすがに技の動画くらいはみようと思ってる。決勝の速度強化とか、まじで知らんかったし。」



「ま、確かにね。ダイキ先生やばいから、ものすごく研究されるし、新手あらての対策とか絶対出てくるし。」



カードゲームなんか特にそうだと思うのだが、いわゆるティアワン、環境と呼ばれるデッキの対策をしないというのはありえない選択だと思う。友人間で遊ぶ分には何の問題もないし、自分の道を貫くのも一つの手だ。しかし、大会で優勝を狙うとなると、やはり対策しないわけにはいかないだろう。


自分で言うと恥ずかしいのだが、現状、俺がその対策すべき相手ということになっている。いくら地方大会とはいえ、ノーダメージで優勝してしまったのだ。しかもワシさんを倒して。聞くところによると、ワシさんは全国大会でベスト8に入ったこともある実力者らしい。全国大会出場者は128人と決まっているので、結構ハイレベルかつ有名な選手ということになる。



「多分公式でもプレイ動画が上がってるはずだから…ほら。」



俊がスマホで動画を検索してくれた。確かにプレイ動画がダイジェスト形式でまとめられている。大会が終了してまだ2時間も経っていないというのに、すごいはやさ。



「へー。あ、コメントも結構ついてる…。えーっと…一、十、百、千…?」



…硬直。

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