013 拡散

「ん?どうしたん?…コメントが1万件!?さ、再生数も100万回軽くこえてるしっ!」



思いっきりバズっていた。



『12:25~ これはチートですか…ガクブル』


『全国大会、やらなくても良いんじゃない?優勝者、もう決まってるよ。』


『日本人がFPS世界大会で優勝するときがやってまいりました!!』


『何も当たらなくてw』


『いやいや、我らがカナちゃんには勝てないさ!…勝てない…よね?』


『ワイ、この人と反対の山であることを心から願ってる。』



コメントらんも大変に盛り上がっている。俺がプレイしている部分は25秒ほどだが、既に解説動画まで上がり出しているよう。



「あら…これは。大樹だいき、急ごう!今から編集すれば、30分でなんとかなるし!あ、本人の解説付きで上げたら…これは再生数が期待できる!」



お金…もとい、再生数に目がくらみまくった友人に連れられ、編集部屋へレッツゴー。


まあ、ものごとにはタイミングというものがあるし、儲けられるときに儲けておくというのは、合理的な考え方だとは思う。契約したおぼえはないが、一応俺の専属スポンサー様らしいので、協力せざるを得ない。



―――まあ、しゅんだから協力するんだけど。…それにしても…解説って何を言えば?





あれからわずか30分の突貫とっかん作業で作成された動画は、公式の動画をおさえて500万回も再生されることとなった。


解説として参加させてもらったものの、申し訳ないことに肝心かんじんの解説は全くできていない。世間的にはおかしいということは薄々感じてはいるものの、俺にとっては当然のことをしているだけなのだ。相手の攻撃に反応できるから回避する。回避ができれば、あとはカウンターをする。それだけのこと。



―――予測しているってことにした方が良かったかな?



イメージ的に格好良いとは思うが、やはり嘘をつくのはいかがなものだろう。それにFPSというゲームに精通しているわけでもないので、余計なことをすると必ずぼろが出る。俺みたいにぼろが出やすい人間は、正直に生きた方が得…というか、正直に生きていくしかないと思う。





「大樹!おめでとう!いやー、知り合いから聞いたよ。動画もすごい再生されてるんだって。」



東のおっちゃんだ。



「いや…まさか本当に優勝できるとは思ってなかったですけど…。ゲーム機も手に入ったし、ありがとうございました。」



おっちゃんが紹介してくれていなかったら、俺は今もゲーム機を探す旅を続けていたと思う。旅、旅とは言っているが、要するに電気屋さん巡りとネットの通販サイト巡り。苦痛なわけではなかったが、そんなに楽しいことでもなかった。



「ということは全国大会にも出るってことかい?」



「はい。来月のはじめにあるそうです。今度の優勝賞品は、賞品じゃなくて賞金らしいです。」



「え!?ゲームの大会でお金がもらえるのかい?すごい時代になったな…。」



「本当ですよね…。びっくりです。俊に言ったら普通だよって言われたんですけど…。」



俺もおっちゃんと同じ感覚だ。ゲーム機はまだわかるのだが、まさか賞金がもらえるとは思っていなかった。しかも想像したよりもけたが2つくらい多かったのだ。それこそ平均年収を軽くこえるくらいの額。


お金に興味がないというのは嘘になるが、拝金思想の持ち主というわけでもない。もし万が一、優勝することがあったら、まあ、大学にいったときの生活費にでもあてよう。



「そうそう、うちのお店にもFPSを入れることになったんだ。良かったら遊んでいってよ。…ところで、今日、俊君は?」



珍しく1人でゲームセンターにいる俺。別に俊と何かあったとかそういうわけではない。俊は今日、デートなのだ。後から聞いた話なのだが、実は俺の地方大会の日、本当はデートの予定があったらしい。しかし、再生回数にめがくらんだ俊は、完全に予定をすっぽかした。



―――珍しく怒られてたよな…。



怒られるというよりも、叱られていた。諭されていたと表現した方が良いかもしれない。


なんだか申し訳ない気持ちになるが、よく考えてみると俺に非はない。まあ、あんなに青い顔をした俊を見たのも久しぶりだったのだが。


俊の彼女は藤瀬亜美ふじせあみさんという人。他人行儀たにんぎょうぎな紹介をしてしまったが、亜美は俺のおさななじみ。俊と俺もおさななじみなので、昔から一緒によくあそんだなか。亜美は、三人のなかで唯一の常識人。そして俊が有名…まあ、お金持ちになっても変わらずに付き合ってくれる数少ない人だ。


お金は人を変える、という言葉があるが、あれはお金は変える、が正しいと思う。俊が自分の正体を秘密にし続けているのも、そういった過去が影響している。亜美の存在は、俊のなかでとてつもなく大きいのだ。



「俊は今日、用事があって。…って、FPS入れてくれるんですか!?」



「うん。まあ、結構頑張ったけど、大樹が優勝したんなら、買わないわけにはいかないでしょう。」



とってもありがたい。筐体きょうたいがいくらするかなんて見当もつかないが、おそらく何十万ではすまないと思う。桁が違うだろう。



「ありがとうございます!頑張ります…ん?頑張る…善処ぜんしょします!」



おっちゃんには申し訳ないのだが、とりあえずゲーム機を入手できたので満足している。もちろん出場するからには勝ちたいし、せっかくFPSゲーム界が盛り上がっているので、多少の爪痕つめあとは残したいと思っている。



「うん。休みの日でも言ってくれれば開けるから。そうそう、世界大会もあるらしいけど、その時は俺もついていくから!」



「あはは…サーフィンですか?」



おっちゃんのサーフィン好きは、かなりのレベル。お店の利益は旅費に消えていると言っても過言ではないらしい。



「もちろん!」



やっぱり。おっちゃんは高らかにそう宣言した後、通常業務へと戻っていった。


サーフィンの話はさておき、世界大会まで行けたらどうなるのだろう。さすがに想像すらできない。現実的な問題として言語の壁が立ちふさがるとは思うが、ゲームは国境をこえる。そう、信じてる。

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